にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage 15

 前のデュエルのようにコントロールを奪われたのではなく、「光坂のモンスター」として現れた<ウィンドファーム・ジェネクス>。
 どうやって、などとは考えない。
 その光景を目にし、創志の体を焼けつくような怒りが駆け抜けた。
 今まで創志が戦ってきたデュエルを、嘲笑されているような気がしたのだ。
「あらら。さすがに悪趣味すぎたかな? お詫びに、ひとついい事を教えてあげよう」
 創志は聞く気などなかったが、光坂は勝手に語り始めた。
アルカディアムーブメントのことさ。僕がアルカディアムーブメントの研究員だったことは知ってるかな? 実は、創志の両親と会ったことがあるんだよ」
「……!?」
 怒りで沸騰した頭に、突如冷水をかけられたような感覚に陥る。
 ――光坂がアルカディアムーブメントの研究者だった? 俺の両親と会っている?
 俄かには信じがたい話だ。
 混乱する創志を置き去りに、光坂は続けた。
「僕は、サイコデュエリストの力を使いこの世の中を変革するために、アルカディアムーブメントを抜けた。それと同時期くらいだったかな……源治さんとめぐみさんがあらぬ罪を着せられて、サテライトに送られたのは」
 言葉がなかった。
 光坂の語ることが真実であるとは限らないのに、創志は耳を傾けずにはいられない。
「彼らは優秀な研究者だったよ。でも、優しすぎたんだ。被験者の安全よりも効率を重視した非道な実験に、いつも反対してた。とある事件をきっかけに、彼らはアルカディアムーブメントの実態を内部告発しようとして失敗し、サテライトに送られたんだ」
「とある事件……?」
 疑問を発したのは、創志ではなく輝王だった。

アルカディアムーブメントがサイコデュエリストの被験者として新たにリストアップした人物に――自分たちの息子が含まれていたんだ」

「――――」
 思考が停止する。何も考えられなかった。
 嘘だ、と否定することもできない。
「息子を非道な実験にかけることを想像し、今まで積もり積もった罪悪感が決壊したんだろうね。彼らは――」
「そろそろお喋りをやめろ。デュエル中だぞ」
「――っと。君に止められるとは思わなかったな、レビン」
 不機嫌そうに声を発したレビンに、光坂は目を丸くする。
「まあ、僕の言ったことを信じるかどうかは君次第だよ。創志」
 視界がぐらつく。
 創志と信二を守るために、両親は犠牲になったのか。
 その事実が創志の心に重くのしかかる。
 真実だと認めたくない。
 だが、光坂の話は創志の記憶と一致している部分がある。
 自慢の両親。
 どんなことがあっても、仕事のことを話そうとしなかった両親。
 怒りと喪失感がない交ぜになり、足元がふらつく。
「――しっかりしろ! 皆本創志!」
 そんな創志の様子に気付いたのか、輝王が檄を飛ばしてくる。
「お前が戦わなければ、弟はどうなる! お前に想いを託した者たちはどうなる!?」
 歯を食いしばる。
 右拳を爪が食い込むほど握りしめ、無理矢理体の震えを止めた。
 ――今は考えるな。
 光坂自身が言ったように、ただの作り話だという可能性もあるんだ。
 創志は、光坂のフィールドに視線を向ける。
 共に戦ってきた相棒たちの姿を見て、消えかけていた怒りがふつふつと再燃する。
 その怒りにすがるように、創志はかろうじて戦意を繋ぎとめた。
「デュエルを続行しようか。僕はカードを2枚伏せる。<ウィンドファーム・ジェネクス>の攻撃力は、フィールド上にセットされた魔法・罠カードの数×300ポイントアップする。セットされたカードは3枚。よって、攻撃力は900ポイント上がって、2900だ」
 セットされた3枚のカードからかすかな風が生まれ、それが<ウィンドファーム・ジェネクス>に集まっていく。
「バトルを行うよ。僕は<ウィンドファーム・ジェネクス>で――」
 光坂は右腕を真っすぐ伸ばし、矛先を向けるモンスターを指差した。
「――<AOJカタストル>を攻撃」
「!?」
 輝王が困惑の表情を浮かべたのが、創志には見えた。
 それもそのはず。<AOJカタストル>は、闇属性以外のモンスターとの戦闘ではほぼ無敵だ。<ウィンドファーム・ジェネクス>は風属性。このまま戦闘を行えば、当然効果で破壊されてしまう。
 一瞬、かつての相棒が無様に破壊される様を見せつけ、創志を追い詰めることが目的なのかという考えがよぎるが、さすがにそれはないだろうと行き過ぎた妄想を打ち消す。
 何か策があるはずだ。
 <ウィンドファーム・ジェネクス>の胸部分の風車が回転を始め、生まれた風が方向性を持つ。
「行くよ。サイクロン・オーバードライブ――の前に、手札から速攻魔法発動」
「――くそ! やっぱりか!」
 創志の読み通り、光坂は手札のカードを選び取ると、素早く発動する。
「<禁じられた聖杯>! <AOJカタストル>の攻撃力を400ポイント上げ、効果を無効化する!」

<禁じられた聖杯>
速攻魔法
フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
エンドフェイズ時まで、選択したモンスターの攻撃力は
400ポイントアップし、効果は無効化される。

 <ウィンドファーム・ジェネクス>が起こした風に乗り、数滴の雫が<AOJカタストル>に降りかかる。
「<カタストル>!?」
 すると、<AOJカタストル>の頭頂部に着いた緑色のランプが明滅し、ギギギ……と錆びた鉄をこすりあわせたような音が響いた。
「これで<カタストル>の破壊効果は発動しない! 改めて行かせてもらうよ! サイクロン・オーバードライブ!」
 胸の風車が激しく回転し、竜巻を呼び起こす。
 圧縮された風の刃が放たれ、<AOJカタストル>の白金の装甲をズタスタに引き裂いていく。
 各部を連結しているパーツが砕け、<AOJカタストル>が爆散した。
 標的を仕留めた竜巻は、そのままモンスターの主人へと襲いかかる。
「ぐうッ……!」

【輝王LP4000→3700】

 鎌のような切れ味を持った風が、輝王の体を切り刻む。コートが裂け、ディスクが傷つき、頬が浅く裂ける。鮮血が風に乗って飛び散るのが、創志の目に映った。
「輝王!」
 今にも吹き飛ばされそうになる輝王を見て、創志は思わず叫ぶ。
「……大丈夫だ。あまり動揺を見せるな――相手を調子に乗らせるだけだぞ」
 対し、踏ん張りきった輝王は、冷静な声で告げる。
「俺のことは気にするな。お前は倒すべき敵だけ見ていればいい」
「…………」
 今の攻撃で発生した戦闘ダメージは少なかった。だからこの程度の傷で済んだ。しかし、デュエルが進めば致命的な攻撃を受けることもあるだろう。
 いずれ訪れる「その時」の光景を想像すると、輝王の言葉に頷くわけにはいかなかった。
 ――でも、どうすればいい?
「僕のターンはこれで終わりだ。さ、君のターンだよ。創志」
 攻撃を終えた光坂が、余裕たっぷりにターンの終了を告げた。

【光坂LP4000】 手札2枚
場:ウィンドファーム・ジェネクス(攻撃)、伏せ2枚
【創志LP4000】 手札5枚
場:A・ジェネクストライフォース(攻撃)、裏守備モンスター、伏せ1枚
【レビンLP4000】 手札2枚
場:魔轟神ガネーシャ(攻撃)、伏せ1枚
【輝王LP3700】 手札4枚
場:なし