にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage サイドS 2-6

「グングニール……」
 これが、ティトの……魔女のシンクロモンスター

<氷結界の龍グングニール>
シンクロ・効果モンスター
星7/水属性/ドラゴン族/攻2500/守1700
チューナー+チューナー以外の水属性モンスター1体以上
手札を2枚まで墓地へ捨て、捨てた数だけ相手フィールド上に存在する
カードを選択して発動する。選択したカードを破壊する。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。

 一気にエントランス内の気温が下がった気がする。創志の周りにある氷像たちが、まるで怯えるかのようにビリビリと震えていた。
「魔法カード発動。サルベージ。わたしは墓地にある氷結界の風水師と術者を回収する」

<サルベージ>
通常魔法
自分の墓地に存在する攻撃力1500以下の水属性モンスター2体を手札に加える。

(なんだ……? さらなるシンクロを狙ってるのか?)
 創志がそう考えたのも束の間、<氷結界の龍グングニール>の周囲に氷の屑が集まっていく。
「手札を2枚捨てて、グングニールの効果発動」
 ざあっ、と冷たい風が創志のフィールドを吹き抜ける。
 言いようのない「危険」を感じた創志は、思わず両腕で自らの顔をガードしようとした。
タービュランス
 それよりも早く、金属同士を打ち付けるような甲高い音が響く。
「ぐっ……!?」
 見れば、創志のフィールド上のカード――正確には伏せモンスター<フレイム・ジェネクス>と伏せカード<正統なる血統>に、地面から突き出た巨大なつららが刺さっている。
「……ッ!」
 <氷結界の龍グングニール>の効果「タービュランス」によって破壊されたカードを墓地に送る。
 <ジェネクス・ニュートロン>を破壊して2体でのダイレクトアタックを狙ってこなかったのは、伏せカードを警戒してのことか。
「バトルフェイズ。グルナードでジェネクス・ニュートロンを攻撃」
 <ソーラー・ジェネクス>を葬った剣の軍勢が、<ジェネクス・ニュートロン>に襲い掛かる。両腕で守りを固めるものの、体中を串刺しにされ、砕け散る。
 これで、創志の身を守るモンスターはいなくなった。
「覚悟はいい?」
 ティトの声が、今までで一番冷たく聞こえた。
「グングニールでダイレクトアタック。フリージング・ランサー」
 氷の龍の朱が強く輝き、口に冷気が収束していく。
 紅い光が発散した瞬間、蒼い閃光が槍のように放たれる。
 創志に防ぐ手段はない。
「ぐあッ……!」
 閃光が創志の身を貫通し、苦痛に顔を歪める。

【創志LP3700→1200】

 本当に刃を差し込まれたような激痛が全身をかけめぐる。
 膝を折ることすらできず、創志は黙って痛みに耐えるしかなかった。
 さらに、LPが減ったことにより、氷の浸食が始まる。両脚どころか腰のあたりでも浸食は止まらず、腹まで氷漬けにされる。
 ……視界がかすむ。
 途切れそうになる意識を懸命につなぎとめながら、創志は目の前の少女を見る。
(――そうか)
 揺らぐ世界の中で、創志はようやくティトに感じていた「既視感」の正体にたどり着いた。



「いってらっしゃい、兄さん」
 そう言って創志を送り出す信二の顔は、いつも同じだった。
 病弱な弟は、自分が家族に迷惑をかけていると、自分の存在を引け目に感じていた。サテライトに来て創志と2人暮らしを始めてから、その傾向は顕著になった。
 だから、本当は調子が悪いのに「大丈夫」と嘘をついたり、寂しさや不安を我慢したりするようになった。
 環境が激変し、1人では不安でたまらなかっただろう。
 しかし、信二は創志に心配をかけまいと、全部我慢して兄を送り出していた。
 創志はそれに気づいていた。
 気づいていたが、自分自身もサテライトの生活に馴染むことに精一杯で、何もしてあげられなかった。
 そんな中で、光坂と出会い、デュエルモンスターズのデッキを受け取るのだが――



(同じだ)
「……ターンエンド」
 自分のターンの終わりを告げたティトの顔は、兄を送り出す信二の顔と同じ色をしている。
 寂しいこと。
 不安なこと。
 辛いこと。
 苦しいこと。
 全部を我慢して、それを相手に悟られないようにしている顔だ。
 彼女がどんな経緯で、この場所で「処刑人」の役目を負ったのかは分からない。
「ティト」
 分からないから、訊いてみようと思った。
「…………なに?」
 何度目のやり取りになるだろう。相変わらずティトの言葉は端的だった。
「お前は、どうしてこんなことを?」
 ……今度は結構な間が空いたあと、小さな声で語りだす。
「レビンに言われたから。ここに来る人とデュエルして、わたしの力で氷漬けにしろって」
「――本当にそれだけなのか?」
「……レビンに会ったのは、1年くらい前。それより前のことは覚えてない」
 記憶喪失、ということだろうか。
「だから、わたしにはレビンがくれた役割がすべて。親もいない。友達もいない。いたかもしれないけど覚えていない。だから――」
「質問を変えるぜ」
 ティトの独白を打ち切るように、創志は告げる。
「お前はここで『処刑人』を続けたいのか?」
 今度は、少女の意思を問う質問。
「……どうして、そんなこと訊くの?」
 質問に対し質問が返ってくる。
「答えてくれ」
 その質問には取り合わず、答えをうながす。
これは重要なことだ。創志にとっては、このデュエルの勝敗を左右するほどの。
「……わからない」
 少女の顔がうつむく。
「これからもレボリューションの一員として、魔女として暮らし続けるのか?」
「わからない」
「ここに、この館にずっと閉じこもってるのか?」
「わからない!」
 声を荒げたティトは両手で耳を塞ぎ、イヤイヤと首を振る。

「――辛いのか?」

 ティトの動きが止まった。
 答えを待つ創志の耳に、かすかに嗚咽が届く。
「わからないよ……そんなこと、考えたことない……」
 わからない、というのは真実だろう。
 しかし、彼女の――ティトの心の奥底は、泣いているのだ。その感情を説明できないだけで、本当は辛くて仕方がないのだ。
 デュエルは楽しいはずなのに、それが終わったあと、相手は氷の中にいるのだから。
 ――これで、負けられない理由が増えた。
「ティト」
 深呼吸してから、静かに声をかける。創志は自分の胸の中にある「覚悟」を確かめたあと、はっきりと宣言する。
「俺が勝ったら――お前をこの館から連れ出す」
「…………?」
 白い頬に涙が伝った跡を残し、ティトが顔を上げる。
「楽しい、ってことがどういうことなのか教えてやる。好き、ってことがどういうことなのか教えてやる。うれしい、ってことがどういうことなのか教えてやるッ!」
 自然と言葉に熱が入る。感情のままに、言葉を吐き出す。
「『処刑人』としての運命なんて、俺がねじ曲げてやるッ! 止めるやつがいるなら、そいつをぶん殴ってでも連れ出すッ! だからッ――!」
 親切の押し付けであることは自覚していた。だが、言葉は止まらなかった。

「氷の中に閉じこもるのは、もう終わりだッ!!」

 叫んだのと同時、創志はカードをドローする。
 ……どうしてこの少女にここまで入れ込むのかはわからない。弟の姿と重ね合わせているのかもしれないが、それだけが理由ではない気がした。