にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage サイドS 2-9

 少女の場には彼女を守る氷の戦士と、2枚の伏せカード。
 攻撃を躊躇する気はなかった。感情の高ぶるままに氷の壁を打ち砕き、その中からティトを連れ出す。
 創志の頭の中にはそれしかなかった。
「サーマル・ジェネクスでグルナードを攻撃! バーニング・バスターカノン!」
 中心の炉に青白い炎が収束する。
 轟、と音を立てて火柱が<氷結界の虎将グルナード>へ向けて放たれる。
 <サーマル・ジェネクス>の効果――墓地には<ジェネクス・ヒート>、<フレイム・ジェネクス>の2体の炎属性モンスターが眠っている。よって、攻撃力は400ポイントアップし、2800。<氷結界の虎将グルナード>と互角だ。
「罠カード発動! 銀幕の鏡壁!」
 氷の戦士を守るように、いくつもの鏡をつなぎ合わせた壁が出現する。

<銀幕の鏡壁>
永続罠
相手の攻撃モンスター全ての攻撃力を半分にする。
自分のスタンバイフェイズ毎に2000のライフポイントを払う。
払わなければ、このカードを破壊する。

 鏡壁が薄く輝き、そこに<サーマル・ジェネクス>の姿が映し出され、猛進する火柱が直撃する。
「鏡の中の自分を攻撃したモンスターは、攻撃力が半分になる」
「……ッ!」
 <サーマル・ジェネクス>の肩がガクンと落ち、体中から煙が立ち上る。
「――グルナード!」
 戦士の周囲に浮かんでいた氷の剣たちが、右手の中に集結し、1本の大剣を作り出す。身の丈ほどもあるそれを、右腕1本で軽々と振り回す。
 そして、動きの鈍った群青色の巨体目がけて、その太刀を振るおうとする。
「――伏せカードオープン! 速攻魔法発動! リミッター解除!」

<リミッター解除>
速攻魔法(制限カード)
このカード発動時に自分フィールド上に存在する
全ての表側表示機械族モンスターの攻撃力を倍にする。
エンドフェイズ時この効果を受けたモンスターカードを破壊する。

 沈みかけた機械から、再び熱気が噴き出す。
 <リミッター解除>により、半減した攻撃力が元に戻る。すなわち、2体のモンスターの攻撃力は同じ。
「サーマル・ジェネクス! スチームナックル!」
 大量の水蒸気を噴き出しながら、熱の右腕が氷の戦士の大剣とぶつかる。
 爆発音とともに、白煙が両者の視界を奪う。
「あっ……」
 ティトが小さく呻きを漏らす。
「――行くぞ」
 創志の声に合わせるように、フィールドの煙が取り払われていく。
 少年のフィールドには、低い駆動音を響かせる<ジオ・ジェネクス>がいた。
「ジオ・ジェネクスでダイレクトアタックだ! グレイブ・ジェットハンマー!!」
 発射された右腕が、鏡の壁を突破する。
 砕け散り、宙に舞う鏡の破片は、ティトの世界が壊されたことを意味していた。

【ティトLP1200→0】






 目覚めたとき、わたしには何もなかった
 名前もない
 あったかもしれないけど、思い出せない
 わたしに伸ばされた手はひとつ
 示された道もひとつ
 だから、迷いなんてものはなかった
 その道を歩くしかなかった
 だけど
 今
 わたしの目の前に、新しい手が伸ばされている
 力強く、温かい手
 ずっと拒んできたそれを
 わたしは掴んでみることにした








 放っておけなかった。
 勝手に彼女を連れ出すなど、わがままでしかない。
 そう分かっていながら、創志は自分の意思を曲げられなかった。
 ぐらり、とティトの体が傾く。
「ティト!」
 自分の体を覆っていた氷が砕け散る。それと同時に、創志は倒れる少女に向かって走り出す。
 間一髪、少女の体を抱きとめることに成功した。
「…………あ」
 ティトの灰色の瞳が、創志の姿を捉える。
「…………負けちゃった」
「約束は守ってもらうぜ。ここにいる人たちを開放して――」
 言葉を続けるのに、今更ながら恥ずかしさがこみ上げてくる。
 赤くなった顔をティトに見られないよう顔を背けながら、
「俺と一緒に、外に出よう」
 しかし、はっきりと告げた。
「……やくそく」
 ぽつりとつぶやいたティトは、創志の腕の中でわずかに身じろぎする。
「楽しいこと教えて。好きってこと教えて。うれしいってこと教えて」
 それは、創志が少女に向けた約束。
「――やくそく、だよ。創志」
 そう言って、氷の少女は、笑った。
 その笑顔を見て、創志はなぜ自分がこんなにもティトに入れ込んでいたのか気づく。

 彼女の笑った顔が見たかったんだ。

 ただそれだけのこと。


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「――素晴らしい! 実に見事な茶番でした!」

 大げさな拍手で場の雰囲気をぶち壊し、抑揚のあるテノールが壊れた空気を作り変える。
「――!?」
 見れば、先ほどまで2人と氷像しかなかったエントランスに、新たな人影がある。
 黒のスーツを着た、眼鏡の男。
 その男はゆっくりとした足取りで、創志とティトに近づいてくる。
「誰だ、テメエは」
「おおっと、これは失礼。名乗るのが遅れましたな」
 男は仰々しく一礼すると、鋭い眼光で創志を射抜く。

「私はセラ。アルカディアムーブメントの使者です。あなたをお迎えにあがりました――ティト・ハウンツ様」