にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage サイドS 2-8

 目覚めたのは、見知らぬ病院のベッドだった。
 なぜ自分がここにいるのかを思い出そうとしたが、無理だった。それどころか、自分が何者なのかさえ思い出せなかった。
 記憶喪失。
 真っ白になってしまった少女は、「自称」保護者である、レビン・ハウンツに引き取られた。そして、「ティト」という名前とともに、レボリューションの「処刑人」としての役割も与えられた。
 少女は――ティトは、何の疑問も持たなかった。
 というよりも、考えることを拒んでいたのだ。自分は何者なのか、レビンのしようとしていることは何なのか、なぜ自分がこんな力を持っているのか、そして、自分はこのままでいいのか――
 考えたら、真っ白な自分は壊れてしまうような気がしていた。
 だから、レビンに言われたとおり、薄暗い廃美術館に1人で暮らし、時折連れてこられる組織に不要になった人間と、デュエルした。
 それ以外は、何も考えないようにした。感じないようにした。
 デュエルをしているときは、それしか考えなくて済む。心が軽くなる。
 しかし、それが終われば氷の像が出来上がっているだけ。

「――お前、デュエルは好きか?」
 ティトに質問してきたのは、少年が初めてだった。他の人間は口汚く罵るか、ひたすら命乞いを叫ぶか、何も喋らなかった。
「お前は、ここで『処刑人』を続けたいのか?」
 そう言った少年の目は、ティトが知る誰よりも真っ直ぐだった。
「これからもレボリューションの一員として、魔女として暮らし続けるのか?」
 ……魔女。自分がそう呼ばれていることはわかっていた。
 デュエルした相手を生きたまま氷漬けにする、魔女。
 そう呼ばれることに、何も感じない――はずだった。
「ここに、この館にずっと閉じこもってるのか?」
 もう聞きたくなかった。
 少年の言葉を聞くと、空っぽの自分を見ないといけなくなるから。
 目をそむけている色んなものを、見ないといけなくなるから。
「――辛いのか?」
 わからない。考えたくない。
 だから、早くこの少年を倒して、「ティト」の日常に戻りたかった。

「俺が勝ったら――お前をこの館から連れ出す」

 とくん。
 少女の胸が、今まで感じたことのない温かさで満たされていく。
 しかし、凍てついた心を溶かすには、まだ足りない。






「…………まだ、終わってない」
 しばらく顔を伏せていたティトが呟く。カードをドローし、手札に加える。
「わたしは、あなたを倒して、わたしの世界を取り戻す――!」
 氷の龍の残骸――それらが<氷結界の虎将グルナード>の周囲に集まり、氷の剣へと洗練されていく。
「バトルフェイズ。グルナードでジオ・ジェネクスを攻撃! クリスタルレギオン!」
 剣の軍勢が<ジオ・ジェネクス>に向かって牙を向く。
「罠カード発動! 攻撃の無力化! 相手モンスター1体の攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する!」

<攻撃の無力化>
カウンター罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
相手モンスター1体の攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。

 <ジオ・ジェネクス>の前に巨大な黒穴が出現し、氷の剣がすべて呑み込まれる。
「……カードを2枚セットして、ターンエンド」
 ――しのげるのは、このターンまでだろう。
 根拠はない。だが、創志の決闘者としての直感が、そう訴えていた。
「俺のターン! ドロー!」
 フィールドの<ジェネクス・コントローラー>は<黙する死者>によって特殊召喚されたので、攻撃はできない。<ジオ・ジェネクス>だけでは、この勝負を決するまでには至らない。
 だからこそ、創志のデッキは応えた。
「――俺はジェネクス・ヒートを召喚!」
 冷え切った空気の中で、<ジェネクス・ヒート>を形成する炉から炎が迸る。

<ジェネクス・ヒート>
効果モンスター
星5/炎属性/炎族/攻2000/守1300
自分フィールド上に「ジェネクス・コントローラー」が表側表示で存在する場合、
このカードはリリースなしで召喚する事ができる。

「ジェネクス・ヒートにジェネクス・コントローラーをチューニング! 原初の煌めきが、新たな力の結晶を生み出す! 集え、炎の力よ!」
 ティトの心を溶かすための青白い炎が、光の柱から漏れ出る。
シンクロ召喚! 燃え盛れ! サーマルジェネクスッ!!」

<サーマル・ジェネクス>
シンクロ・効果モンスター
星8/炎属性/機械族/攻2400/守1200
「ジェネクス・コントローラー」+チューナー以外の炎属性モンスター1体以上
このカードの攻撃力は自分の墓地に存在する
炎属性モンスター1体につき200ポイントアップする。
このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊した場合、
自分の墓地の「ジェネクス」と名のついたモンスター
×200ポイントダメージを相手ライフに与える。

 群青色のロボットが煙を吹きながら現れ、氷の屑をまき散らしていく。
「ティト! これがラストターンだ!!」