にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage サイドS 2-4

「……ソーラー・ジェネクスで、ダイレクトアタックだ! ブライトエッジ!!」
 背部の飛行ユニットが甲高い音を立て、<ソーラー・ジェネクス>がティト目がけて加速する。
 ――ティトに動きはない。
 右腕の翼が光り輝き、剣のようにティトの小さな体を切り裂く。
「あっ……!」
 かすかにうめき声を上げ、少女がうつむく。

【ティトLP4000→1500】

「ターンエンドだ」
 とりあえず、先制ダメージを与えることには成功した。それも、LPを半分以上も削り取る強烈なやつだ。
 創志のエンド宣言を聞いて、ティトが顔を上げる。
 その灰色の瞳を見て、創志はハッとする。
 ――楽しんでる。
 ティトの顔には、無邪気にデュエルを楽しんでいる子供のような色が浮かんでいる。非常によく観察しないと分からない程度に、だが。
 ……病弱だった信二は、自分の体調を偽り「調子がいい」と嘘をつく癖があった。それを見破るために、創志はちょっとした表情の変化を見逃さないよういつも気にかけていた。
 だから、感情に乏しい少女の変化に気づいた。
「……わたしのターンだね。ドロー」
 引いたカードを加えた手札に視線を走らせるティト。
「――なあ」
 その横顔を見て、またしても唐突に声をかける。
「何?」

「お前、デュエルは好きか?」

 カードを選ぼうとしていたティトの指が止まる。
 表情に変化はない。
 数分……だろうか。今までとは違い、間を置いてから答えが返ってくる。
「……よく、わからない」
 灰色の瞳に陰りがさす。創志は何も言わず、言葉の続きを待つ。
「好き、とか、わからない。どういうふうになったら『好き』なのか。わからないから、答えられない。それに、わたしにはこれしかないから――」
 そう言ったティトの表情は、わずかに曇っていた。
「デュエルしか、ないから」
 しかし、創志を見つめる瞳に迷いはない。
 少しだけ……ほんの少しだけだが、ティトという少女のことが分かった気がする。
(デュエルが好きな人間に、悪いやつはいない――か)
 創志にデュエルを教えてくれた先生、光坂の言葉がよみがえる。
 あんな顔をするんだ。デュエルが嫌いなわけがない。
「今度はわたしの番」
 創志の体にまとわりつく冷気が、強さを増した気がする。
 ……ここからが、サイコデュエリストの本領発揮ということか。思い出に浸っている場合じゃないな。
 創志はもう一度気を引き締め直すと、ティトの姿をしっかりと見据える。
「まずは魔法カードを使う。極寒の氷像発動。フィールドに氷像トークンを2体呼ぶ」

<極寒の氷像>
通常魔法(オリジナルカード)
自分フィールド上に氷像トークン(水族・水・星1・攻/守0)を2体守備表示で特殊召喚する
このトークンは、「氷結界」と名のついたモンスター以外のアドバンス召喚のためにリリースすることはできない
このトークンはシンクロ召喚には使用できない

 ピキピキと音を立て、尖った氷柱がティトのフィールドに突き出す。荒々しく削られた2本の氷柱は、人型に見えなくもない。
「さらにこのトークンをリリースして、アドバンス召喚する」
 氷柱の内側からひびが入り、瞬く間に砕ける。
「――来て。氷結界の虎将グルナード」
 現れたのは、氷の鎧を身に纏った凛々しい戦士だ。

<氷結界の虎将グルナード>
効果モンスター
星8/水属性/戦士族/攻2800/守1000
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
自分のメインフェイズ時に1度だけ、
自分の通常召喚に加えて「氷結界」と名のついた
モンスター1体の召喚を行う事ができる。

 砕けた氷柱の破片が氷の戦士の周りに集まり、徐々にその形を剣へと変えていく。まさに、氷の剣という軍隊を指揮する将、だ。
「グルナードの効果で、わたしは手札から氷結界の封魔団を召喚する」

<氷結界の封魔団>
効果モンスター
星4/水属性/魔法使い族/攻1200/守2000
手札から「氷結界」と名のついた
モンスター1体を墓地へ送って発動する。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
次の自分のターンのエンドフェイズ時まで
お互いに魔法カードを発動する事はできない。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。

 続いて召喚されたのは、赤色の法衣をひらめかせた、美しい女性だった。大胆にも白い太ももが露わになっており、ソリッドビジョンとはいえ自然と目線が……。
(――って待て待て!! そんな状況じゃないだろ!!)
 全くもってその通りである。<ソーラー・ジェネクス>よりも攻撃力が高く、展開をサポートする<氷結界の虎将グルナード>。こいつを何とかしない限りは、創志に勝機はない。
「封魔団の効果発動。手札の氷結界の術者を捨てて、次の自分のターンのエンドフェイズまで魔法カードの発動を封じる」
「なっ……!?」
 さらに魔法カードの発動までロックされた。これでは打つ手が――
「バトルフェイズに入る。グルナードでソーラー・ジェネクスに攻撃」
 <氷結界の虎将グルナード>が右手を振るい、自らの軍団に号令を下す。
「――クリスタル・レギオン
 いくつもの氷の刃が<ソーラー・ジェネクス>目がけて放たれる。ガリガリと装甲を削られ、ついには胸の球体を貫かれ、フィールドから退場する。
「ぐっ……!」

【創志LP4000→3700】

 ダメージを受けたものの、これ以上の追撃はない――そう考えていた創志の足もとに、異変が起こった。
「…………!!」
 言葉を発することができなかった。
 見れば、自分の両足が氷漬けにされている。
「言ったでしょう?」
 驚愕する創志のもとに、涼やかなティトの声が届く。

「――わたしは、処刑人」

 そう言ったティトの瞳は、悲しげに揺らめいていた。