にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage 番外編 氷点下の結び目-5

「なら、私のターンですわね」
 カードをドローしたビビアンが、ニヤリと口の端を釣り上げる。
「伏せカード2枚。例えブラフであったとしても、私に警戒心を抱かせた時点で貴女の目論見は成功しているのでしょう」
 言いながら、ビビアンは1枚のカードを選び取る。
「けれど、そこまで。警戒心を抱かせるだけで、私の華麗なる戦術を止めることは叶わない。粉砕してあげますわ。貴女の戦意と伏せカードを」
 ビビアンの全身から自信が漲っているのが分かる。彼女は、1%も自分が負けるビジョンが見えていない。
 確固たる勝利のイメージ。
 それは、何度も苦境に追い込まれながらも、決して諦めず、もがき続けた末に勝利を手にした創志とは、別種のものだった。
「<スノーマンイーター>をリリース――君臨なさい! <氷帝メビウス>!!」
 ビビアンが、熱を込めて語り尽くした「氷帝」。
 その名を冠したモンスターが、フィールドに降臨する。
 丸みを帯びたデザインの甲冑は、世界の果てに在る大地に眠る永久の氷を想起させ、纏う冷気は、立体映像だと分かっていても寒気を感じさせる。
 氷の帝王。
 それが、ティトの戦意を砕くために呼び出されたモンスターだった。

氷帝メビウス>
効果モンスター
星6/水属性/水族/攻2400/守1000
このカードがアドバンス召喚に成功した時、
フィールド上に存在する魔法・罠カードを2枚まで選択して破壊する事ができる。

「<氷帝メビウス>のアドバンス召喚に成功した時、フィールド上の魔法・罠カードを2枚まで破壊することができますわ。破壊するのは、当然貴女の伏せカード!」
 <氷帝メビウス>の両腕に冷気が収束していく。
 そして、その拳を地面に叩きつけた。
「弾けなさい。フリーズ・バースト!」
 瞬間、ティトの伏せカードが凍りつき、内側から爆破されたかのように弾け飛ぶ。
「どうやらチェーンして発動できるカードではなかったようですわね。いや、発動しても無意味だったということかしら。<リビングデッドの呼び声>と……<銀幕の鏡壁>。とても有用なカードを破壊することができましたわ」
「…………」
 <リビングデッドの呼び声>で<氷結界の武士>を蘇生させ、<銀幕の鏡壁>で相手の攻撃力を下げつつ迎撃するのがティトの狙いだったが、文字通りそれは砕かれた。これで、ティトの身を守るものは何も無い。
「遠慮なく攻撃させてもらいますわよ。<メビウス>でダイレクトアタック」
 <氷帝メビウス>が天に向けて手をかざすと、大木の丸太のような氷柱が出現する。
「アイス・ランス!」
 氷の帝王はその巨大な氷柱を無造作に放り投げると、底の部分を思いっきり殴りつける。
 ゴッ!! と大気を切り裂く音が響き渡り、氷柱がティトに向かって砲弾のように飛んでくる。しかも、氷柱は風の刃によって研磨されていき、先端が鋭く尖っていく。
「…………っ!」
 無論、ティトに防ぐ手段はない。
 「アイス・ランス」を真正面から受け止め――その身を串刺しにされる。
 が、それは立体映像。デュエルディスクがわずかに振動すると、巨大な氷柱は跡形もなく消え去った。

【ティトLP3900→1500】

「これは早くも勝負が決まってしまいそうですわね。私はカードを1枚伏せて、ターンを終了してあげますわ」
 ビビアンの傲岸不遜な態度は変わらない。
 ティトは、
(負けたくない)
 と、悔しさを感じ始めていた。

【ビビアンLP4000】 手札4枚
場:氷帝メビウス(攻撃)、伏せ1枚
【ティトLP1500】 手札3枚
場:なし

 早くも追い込まれてしまったが、現状の手札では挽回することは難しい。
 そんなときに、ティトはまたしても手札交換系のカードを引く。
「わたしは<手札断殺>を使うね。2枚のカードを捨てて、代わりに2枚引く」

<手札断殺>
速攻魔法
お互いのプレイヤーは手札を2枚墓地へ送り、デッキからカードを2枚ドローする。

「余程手札が悪いようですわね。分かっていまして? <手札断殺>は、相手も手札を交換することになる諸刃の剣。相手の墓地を肥やしつつ、新たにカードを引かせる……とても危険なカードですわよ」
「けど、使わなきゃどうしようもないから仕方ない」
 ビビアンの言うリスクなど承知の上だ。それに、肥えるのは相手の墓地だけではない。
 ティトは手札を2枚捨て、新たにカードを2枚引く。追い込まれているのには変わりないが、現状は打破できそうなカードを引くことができた。
「<氷結界の伝道師>を召喚」
 フィールドに現れたのは、深い青色の法衣を纏った男性だった。髭をたくわえ、どこか遠くを見つめるその瞳は、多くの地を渡り歩いてきた風格を感じさせた。

<氷結界の伝道師>
効果モンスター
星2/水属性/水族/攻1000/守 400
自分フィールド上に「氷結界」と名のついたモンスターが表側表示で存在する場合、
このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
この効果で特殊召喚するターン、
自分はレベル5以上のモンスターを特殊召喚できない。
また、このカードをリリースする事で、
「氷結界の伝道師」以外の自分の墓地に存在する
「氷結界」と名のついたモンスター1体を選択して特殊召喚する。

「<伝道師>の効果だよ。このカードをリリースすることで、墓地から<伝道師>以外の<氷結界>モンスターを特殊召喚できる」
 <氷結界の伝道師>が手にした杖の先。<氷結界>の紋章をかたどっている鏡が輝く。その鏡には、氷の鎧を纏った凛々しい戦士の姿が映っている。
「<伝道師>をリリース……来て。<氷結界の虎将グルナード>」
 <氷帝メビウス>が我が物としていた冷気が、ティトのフィールドに流れ始める。
 どこから発生したのか――氷の屑が風に乗って集まり、新たなる形を形成していく。
 それは剣。
 1本ではない。2本、3本、4本……やがて数えるのが馬鹿らしくなるほどの氷の剣が生まれる。
 その中心に、戦士は立っていた。
 <氷結界の虎将グルナード>。無数の刃を統べる、<氷結界>の将だ。

<氷結界の虎将グルナード>
効果モンスター
星8/水属性/戦士族/攻2800/守1000
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
自分のメインフェイズ時に1度だけ、
自分の通常召喚に加えて「氷結界」と名のついた
モンスター1体の召喚を行う事ができる。

「上級モンスター……先程の<手札断殺>で墓地に送っていたのですね」
「うん」
 <氷結界の伝道師>や蘇生カードを引けることを確信していたわけではないが、このまま手札で腐らせているよりも、墓地に送ってしまったほうがいいとティトは考えた。ビビアンを相手に、リリース要員を揃え、<氷結界の虎将グルナード>をアドバンス召喚することは難しいとも思った。
「……このままバトルフェイズに入る」
 <氷結界の虎将グルナード>には、メインフェイズ時に1度だけ<氷結界>と名のついたモンスターを通常召喚できる永続効果がある。できればこの効果を使って攻撃モンスターを増やしておきたかったところだが、生憎ティトの手札にはアタッカーとして運用できそうなモンスターがいない。
「<グルナード>で<メビウス>を攻撃。クリスタル・レギオン!」
 氷の将が右手を掲げ、振り下ろす。
 それを合図にして、中空に留まっていた氷の剣が、一斉に放たれた。
 狙うは、氷の帝王――<氷帝メビウス>。
 そこでビビアンは動いた。