にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage 明日に伸ばす手-7

「<トライフォース>!」

【創志LP2200→1700】

 返しのターンで場を一掃――男が相当な実力者であることは、言わずとも分かった。創志は認識の甘さと悔しさで、ギリ、と奥歯を噛みしめる。
 <A・ジェネクストライフォース>が消え、創志の場は空に。
 <A・O・J ガラドホルグ・シグマ>の効果は1ターンに一度しか使えないため、攻撃が終了。長身の男の場に他のモンスターはおらず、バトルフェイズも終了――

「――終わりだと思ったか? ある意味正解だ」

 告げながら、男は1枚のカードを選び取る。
 そのまま、流れるように発動した。

「これで、このデュエルは終わりだ。速攻魔法<RUM―ブレイブ・ジャスティス>を発動!」

「ランクアップマジック!? なんだよそりゃ――」
「俺の場の<ガラドホルグ・シグマ>を素材とし、ランクが1つ上のエクシーズモンスターを召喚する……それが<RUM>だ」

<RUM-ブレイブ・ジャスティス>
速攻魔法(オリジナルカード)
自分フィールド上の「A・O・J」と名の付いたエクシーズモンスター1体を選択して発動できる。
選択したモンスターと同じ種族でランクが1つ高い
「A・O・J」と名の付いたモンスター1体を、選択した自分のモンスターの上に重ねて
エクシーズ召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。
その後、相手フィールド上のモンスターの属性を全て闇属性にする。

 創造を生む星の煌めきが、再び渦巻を描きだす。
「正義を掲げる機械騎士よ。その双翼で、穢れた風を打ち払え!」
 光が爆発する。創志は、それを呆けたまま眺めていることしかできない。
「ランクアップエクシーズチェンジ――現れろ! ランク6<A・O・J ファルコン・ナイト>!」
 ばさり、と鉄の羽で編まれた翼を翻しフィールドに降り立ったのは、人馬――上半身が甲冑を纏った人型、下半身が馬を模した四足のケンタウルスをモチーフにした機械騎士だ。右手には真っ白な刃の長剣。左手には円形の盾を装備している。
 相手の場に現れた新たなエクシーズモンスターに、創志は息を呑む。

<A・O・J ファルコン・ナイト>
エクシーズ・効果モンスター(オリジナルカード)
ランク6/光属性/機械族/攻2700/守2000
機械族レベル6モンスター×2
???

 エクシーズ召喚が有する速度。それは創志が操るシンクロ召喚とは別格……一概にそうとは言い切れないと理性が抵抗していたが、本能が屈服してしまっていた。
「……幕引きだな。<ファルコン・ナイト>でダイレクトアタック」
 男が静かに攻撃宣言を下す。<A・O・J ファルコン・ナイト>が手にしていた長剣を振り下ろすと、斬撃の衝撃波が形となって放たれる。
 攻撃が実体化していれば、死ぬ。
 しかし、創志の手札に対抗するカードはない。
 無慈悲なほどに呆気なく、衝撃波が創志の体を襲った。

【創志LP1700→0】



 手も足も出ないまま負けるのは、いつ以来だろうか。
「ぐ……は……!」
 最後の攻撃は、実体化していなかった。
 いや、正確にはライフを失った衝撃だけが、創志に降りかかった。
 勢いを殺せず、創志は後方にあった柱に叩きつけられる。
 そのままずるりと地面へと落下。肺から空気が絞り出され、創志は呻いた。
「……約束だ。<A・ジェネクス・クレアシオン・ドラグーン>はもらっていくぞ」
 男は無遠慮に創志のデュエルディスクから目当てのカードを引き抜く。それを自分のディスクに収めると、もう語ることはないと言わんばかりに背を向け、この場を去るために歩き始めた。
「ま……待て……!」
 創志は倒れたまま、必死に右手を伸ばす。
「このまま……終われるかよ……! もう一戦、だ……!」
 創志はアンティルールを了承し、負けた。カードを奪われたことについてとやかく言う気――滅茶苦茶悔しいが――はない。
 だが、ここで引き下がるわけにもいかない。
 みっともない、とか、プライドがない、とか貶されようと構わない。
 <A・ジェネクス・クレアシオン・ドラグーン>は、一度の敗北で全てを諦めることができるほど、「軽い」カードではないのだ。
 震える足腰に活を入れ、強引に立ち上がる。
「……リベンジマッチか。『もう一度』が無い死線をくぐり抜けてきたお前から出る言葉とは思えないな」
「うるせえ……なりふり構ってられねえんだよ……!」
「受けられない理由が二つある」
 足を止めた男は、背を向けたまま告げる。
「ひとつは、単純に時間がない。お前の身を案じた仲間が駆けつける危険性も無視できない。目的を達成したのに捕縛されるなんて間の抜けた結果はごめんだからな」
 ゆらり、と。
 男と創志のあいだに、人型の影が揺らめいた。
「もうひとつは、頼まれていたことを為すからだ」
「頼まれていた……こと……?」
「そうだ。もし、デュエルに敗北した皆本創志が足掻いたり食いさがったりしてきた場合――」
 影が、実体を得る。
 それは、先程のデュエルで創志のエースモンスターを葬った機械騎士。
 <A・O・J ガラドホルグ・シグマ>――眼前に出現したエクシーズモンスターからは、確かな質量を感じた。
 間違いない。機械騎士は、サイコパワーによって実体化している。

「殺せ、と言われている」

 突撃槍の矛先が、創志へ向いた。
「――――」
 背筋が凍り――次の瞬間には、全身に警鐘が鳴り響いた。
 創志のサイコパワーは微弱だ。仮にモンスターや魔法・罠カードの効果を実体化したとしても、<A・O・J ガラドホルグ・シグマ>の一撃は防げないだろう。
 術式は使えない。身体機能が多少強化されているとは言っても、槍を刺されて無事でいられるとは到底思えない。
 避ける以外の選択肢はない。
 創志は低く屈みながら、右に跳ぶために体を傾ける。
 緩慢な動作ではなかった。
 だが、術式を会得していた頃と比べれば明らかに遅く――
 機械騎士は、その遅さを許してはくれなかった。
「――ッ!?」
 創志の動きを先読みするかのように、突撃槍が放たれる。
 幾多の戦闘によって得た経験が、最悪の結果を指摘する。
 だが、回避動作は止まらない。抗えない。
 鋭く尖った矛先が、創志の脳天を貫く。