にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage 明日に伸ばす手-8

 寸前。

「――<ジェムナイト・パール>ッ!」

 真珠の煌めきを持つ拳が、槍の一撃を押し返した。
(――<ジェムナイト>!? ってことは――)
 予想外の攻撃に、<A・O・J ガラドホルグ・シグマ>が怯む。
「オラオラオラオラオラオラオラオラァッ!」
 その隙を逃さず、真珠の戦士――<ジェムナイト・パール>が拳の連打を叩きこんだ。
 たまらず、といった感じで、機械騎士が後方へと飛び退く。
 それを確認した後、<ジェムナイト・パール>はふっと姿を消した。
「……やれやれ。こうやって助けてやるのは何度目だ? 後を任せたんだ、もうちょいしっかりしてくれよ、創志」
 同時に、よく知った声が響いた。
 声の主は妙にキザったらしい動作で中折れ帽をかぶり直し、創志の前に立つ。
「神楽屋……!? どうしてここに……ネオ童実野シティから出たはずじゃ……」
「おいおい、時枝探偵事務所はお前に譲ったが、探偵を辞めたわけじゃないんだぜ? 俺も、お前とは別口で今回の件の調査を頼まれてたんだよ」
 中折れ帽を被った男――神楽屋輝彦は、やれやれと肩をすくめて見せる。
「神楽屋輝彦……『四霊神事変』の際に重傷を負って消息不明とのことだったが、生きていたのか」
 そこでようやく、長身の男はこちらに向き直る。
「おかげさんでな。そんで、俺もお前さんに用がある」
「……<A・ジェネクス・クレアシオン・ドラグーン>を取り戻すつもりか?」
「まさか。それはコイツが自分でやるべきことだぜ」
 薄っすら笑みを浮かべながら、神楽屋は親指で創志を指す。
「俺の要件は、コイツ……創志と同じだ。カード泥棒、お前らの情報を吐いてもらう」
 言って、神楽屋はデュエルディスクを構える。俺と勝負しろ、という意思表示だ。
「……悪いが、時間切れだ。それに、リスクを負ってお前とデュエルをしてまで、奪う価値のあるカードはない」
「俺の<ジェムナイト>に興味はないってことか。だが、はいそうですかって見逃すわけにはいかねえな」
 神楽屋は凄んで見せるが、創志は一抹の不安を覚える。
 彼が昔のまま――強いサイコデュエリストであったなら、荒事になったとしても切り抜けられるだろう。
 「四霊神事変」の最中で、<炎霊神パイロレクス>の寄り代として目覚めた少女、スクレによって、神楽屋は瀕死の重傷を負った。その場面を目撃したリソナの暴走で現場が崩壊し、行方不明になったが、「とある人物」に助けられ、別世界で治療を受け一命を取り留めたという。エクシーズモンスターである<ジェムナイト・パール>はその際に受け取ったものだ。
 かろうじて命を繋いだ代償として、神楽屋のサイコパワーは著しく低下してしまった。それこそ、今の創志と同じぐらいの力しか出せないだろう。<ジェムナイト・パール>が<A・O・J ガラドホルグ・シグマ>の攻撃を防げたのは、奇襲が成功したからだ。
「追いすがるというのであれば、この手を使うしかないな」
 創志の不安を見透かしたかのように、男はコートの胸ポケットからカードの束を取り出す。そして、その束を宙にばら撒いた。
「――フッ!」
 男が手の平を広げて右手を突き出すと、宙を舞うカードがぼんやりとした光に包まれる。カードのイラスト部分からずるりと何かが這い出す。
「効果を持たずステータスの低いモンスターであれば、大量に実体化させることも容易い」
 出てきたのは、全て同じモンスター――廃棄されたジャンクパーツを無理矢理繋ぎ合わせて人型にしたものだった。創志の持つ<ジェネクス・サーチャー>に似ているかもしれない。
「時間を稼がせてもらうぞ」
 そう言い残し、男は再び背を向ける。
「待て!」
 創志はすぐさま後を追おうとするが、実体化したスクラップロボットが進路を塞ぐ。
「くそっ、どきやがれ!」
 スクラップ兵たちの動きは鈍い。創志は遠慮なく蹴り飛ばした。腹を蹴られたスクラップ兵はよろけたものの、倒れるまではいかず、まるでゾンビのように創志たちに詰め寄ってくる。
「こいつら……!」
 この程度なら、創志のサイコパワーでも十分対抗できるだろう。
 だが、数が多い。いちいち相手をしていたらキリがない。
「こうなったら、<トライフォース>でまとめて吹き飛ばして――」
「まあ落ち着け、創志。ここは俺に任せろ」
 両腕を組んだ神楽屋の態度は、やけに落ち着いている。状況を打開する秘策があるのだろうか。
「これ、持っててくれ」
 神楽屋は装着していたデュエルディスクを外すと、創志に向かって放り投げる。
「お、おい!?」
 何とかそれをキャッチする。神楽屋の意図が全く読めない。
「ここに来る前に面白いもの拾ってな。ま、見てろよ」
 少年のように笑った神楽屋は、懐から別のデュエルディスク――長身の男が持っていた物と同じでディスク部分が無いタイプ――を取り出し、装着する。
(いや、デュエルディスクか? あれ)
 よく見れば、ディスク部分が無いだけでなく、本体もかなり小振りだ。デッキをセットするための深いスリットの上に、カードを差し込むであろうスリットがもうひとつ。赤青黄のボタンがひとつずつ並んでいるが、用途は不明。ライフポイントを表示するためのカウンターも見当たらない。
 創志の困惑をよそに、神楽屋はポーズを付けながら黄色のボタンを押す。
「E.M.A.S.レディ」
 ディスクらしき機械から、合成のものと思われる音声が流れた。
 神楽屋はデッキからカードを引くと、迷わずスリットにセットする。
「エクストラカード、ローディング――<ジェムナイト・ルビーズ>」
 音声と共に、ブゥンブゥンといった、空気が振動する重低音が響く。

「行くぜ――憑着!」
「モードアサルト――アクティブ」

 叫んだ神楽屋がもう一度黄色のボタンを押すと、パララララ……とカードが波打つ音が鳴り、大量のカードが列を作って機械から吐き出される。よく見れば、溢れ出たカードは実物ではなく、立体映像だ。カードの列はあらかじめプログラムされていた形体――神楽屋の姿を隠すように球体のドームを作り出す。
 次の瞬間、カードの球体は内側から弾け、四散する。
「な……!?」
 そこには、鮮やかな朱の甲冑を纏い、槍を携えた戦士――<ジェムナイト・ルビーズ>の姿があった。