にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage サイドS 9-10

 ――急所は外すが、手加減はしない。
 <ジェムナイト・ルビーズ>の矛先から生まれた3本の炎が、創志の両肩と左足に突き刺さる。
「ぐあああっ!!」
 創志が苦悶の表情を浮かべる。
 最初の攻撃とは違う。痛覚を刺激するだけでなく、肉体にも干渉する炎。
 少年――皆本創志は、正義の味方といきがっていたころの神楽屋によく似ている。
 だからこそ、自分がやるべきだと思った。
 彼が絶望を知る前に。
 もう二度と立ち上がれなくなる前に。
 「限界」を教えてやるべきだと、そう思った。
 何の当てもなくサテライトを放浪し、食料を確保するためだけにレボリューションに入った。
 このデュエルが、全てを投げ出した自分に出来る唯一の「仕事」なのかもしれない。
「創志!」
「創志ちゃん!」
 少年の仲間が彼の名を叫ぶ。
 ぐらりと傾く創志の体の行方を目で追いながら、神楽屋は胸がチクリと痛むのを感じた。








「――ッ!!」
 ――倒れるかよ!!
 創志は右足に力を込めると、地面を強く踏みつけ倒れそうになる体を支える。
「がはっ! ハァッ、ハァッ――!」
 乱れる呼吸を無理矢理整える。
 心臓の位置に手を当て、鼓動を確認する。
「なッ――」
 決着はついたと言わんばかりにディスクを畳もうとしていた神楽屋が、驚きを顕わにした。
「……手心は加えなかった。あの攻撃を受けて、なぜ立っていられる?」
 声を荒げそうになるのを抑えたような口調で、神楽屋が問いを発する。
 創志の両肩と左足――<ジェムナイト・ルビーズ>の貫通攻撃を受けた箇所は、服が焦げ付いていたものの、傷ついた様子はない。
 実際、創志が受けたのは最初の攻撃のときと同じ、焼けた棒をねじ込まれたような痛みだけだった。とは言っても、それだけでも相当なものだったが。
「見えて……なかったのか? 俺の場には伏せカードがあったんだぜ? 罠カード<スクラップ・シールド>を使わせてもらった。自分の墓地に<ジェネクス>と名のついたモンスターが3体以上存在するとき、受ける戦闘ダメージを半分にする」

<スクラップ・シールド>
通常罠(オリジナルカード)
自分の墓地に「ジェネクス」と名のついたモンスターが3体以上存在するときに発動できる。
このカードを発動したターン、自分の受ける戦闘ダメージは半分になる。

 本来発生した貫通ダメージは700ポイント。
 <スクラップ・シールド>の効果でそれを半減し、実際に創志が受けたダメージは350ポイントだ。

【創志LP600→250】

 通常、サイコデュエリストの具現化する攻撃は、同じく具現化した防御カードがなければ防げない。
 逆にいえば、防御カードさえあれば、致命傷を避けることができるのだ。
「……なるほどな。大した精神力だ」
 神楽屋は脱帽といった感じで両手を上げると、ターンの終了を告げた。

【創志LP250】 手札0枚
場:A・ジェネクス・リバイバー(攻撃)
【神楽屋LP700】 手札1枚
場:ジェムナイト・ルビーズ(攻撃・再融合装備)

「俺のターン!!」
 創志の場には<A・ジェネクス・リバイバー>のみ。伏せカードはない。
 今度こそ、神楽屋の攻撃を防ぐ手段は尽きた。
 このターンで相手のライフを削りきらなければ――創志は負ける。
 ――進歩しないな、俺は。
 窮地に追いつめられると、いつだってドロー勝負になる。
 そんな己の未熟さを認めながらも、創志はデッキを信じることをやめない。
 ここで負けるわけにはいかない。
 この男に、負けるわけにはいかない。
「ドロー!」
 神楽屋の言葉が、創志の脳裏に蘇る。
 ――言っても分からねえんなら、実力行使だ。
 自分の覚悟を示すためにも、創志は神楽屋を倒さなければならない。
「俺は<A・ジェネクス・バグラット>を召喚!」
 緑の召喚円から飛び出したのは、錆びた鉄板の切れ端をつなぎ合わせて作ったような、機械仕掛けのネズミだった。
 ネズミはきょろきょろと辺りを見回したあと、<A・ジェネクス・リバイバー>の体をよじ登り、頭の上にちょこんと座る。

<A・ジェネクス・バグラット>
チューナー(効果モンスター)(オリジナルカード)
星2/闇属性/機械族/攻500/守500
このカードが召喚に成功した時、
自分の墓地に存在するレベル3以下の「ジェネクス」と名のついたモンスター1体を
守備表示で特殊召喚することができる。
この効果で特殊召喚したモンスターはリリースすることはできず、
シンクロ素材とすることはできない。

「――ハッ。随分愛嬌のあるモンスターじゃねえの」
 緊迫した場面にそぐわないネズミの容姿に毒気を抜かれたのか、神楽屋が間延びした声を出す。
「だが、効果は強力だぜ? <A・ジェネクス・バグラット>が召喚に成功した時、自分の墓地に存在するレベル3以下の<ジェネクス>を守備表示で特殊召喚できる! 俺が選ぶのは、<A・ジェネクス・チェンジャー>だ!」
 <A・ジェネクス・バグラット>の鳴き声に呼び出され、<A・ジェネクス・チェンジャー>が墓地から守備表示で特殊召喚される。
「<バグラット>の効果で特殊召喚したモンスターはリリースできず、シンクロ素材にもできないが……効果を使うことはできる! <チェンジャー>の効果で、<リバイバー>を炎属性に変えるぜ!」

<A・ジェネクス・チェンジャー>
効果モンスター
星3/闇属性/機械族/攻1200/守1800
フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、
属性を1つ宣言して発動する。
このターンのエンドフェイズ時まで、
選択したモンスターの属性は宣言した属性になる。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。

「何……?」
 神楽屋が怪訝な顔を見せる。さすがにこの状況では創志の手を読むことはできないようだ。
 準備は整った。
 あとは、踏み出すだけだ。