遊戯王 New stage 番外編 リボーン・ドライブ-10
「轟様! 申し訳ありません。私としたことがこの童貞クソ虫に遅れをとってしまい――」
「気にすんな、藍子。白斗は泳がせとけ、って命令したのは俺だからな」
瀧上の姿を見た女性――薬師寺藍子は、すぐさま奏儀への攻撃を中止すると、その場で片膝をつく。対して、奏儀は苦笑いを浮かべながら舌を出し、再び壁にもたれかかっていた。
薬師寺の頭を大きな手でくしゃりと撫でたあと、瀧上は悠然と輝王を見下ろした。
「ちっとは成長したみてえじゃねえか。恰好だけは一人前だな」
「……まさか本当にお前の方から出向いてくれるとはな。探す手間が省けた」
震えそうになる体を奮い立たせながら、輝王は拳銃を構え直す。手の平にじっとりと汗が浮かんでいるのが嫌でも分かった。
「その様子だと、俺のことは覚えていたみてえだな。当然か。上下関係ってものをはっきりと分からせてやった、いわば人生の教師だからな。俺は」
「…………」
「だんまりか? それとも、ビビって声が出なくなったか?」
瀧上は、黄ばんだ歯を見せながら、笑う。
「無様に這いつくばってた、あの時みてえによ」
「…………ッ!」
またしても指先が動いた。が、トリガーが引かれることはない。
これはヤツの挑発だ。その拳銃で俺を撃ってみろ、と誘っているのだ。
乗るわけにはいかない。正当防衛が成立しないなんて建前ではなく――挑発に乗って発砲し、相手にペースを握らせるわけにはいかない。
「……畑紀康を殺したのはお前か?」
代わりに、今度はこちらから問いを発する。
すると、瀧上はますます笑みを濃くし、
「ああそうだ。あのヘボ野郎は、俺が殺した」
まるで問いを待っていたかのように、殺人を認めた。
「理由はわざわざ言わなくても分かんだろ? あいつのせいで、俺はムショにぶち込まれたんだ。責任は取らなくっちゃなァ?」
「……復讐、ということか」
復讐。かつて、輝王もその胸に宿していた感情だが、瀧上のそれは随分と違って見える。
「――次はオマエだぜ。ガキ……いや、輝王正義」
じり……と、瀧上の体がわずかに動いた。薬師寺や奏儀に動きはない。
人差し指が、1ミリだけ引き金に近づいた。
「最初はあの金髪シスターを狙ってたんだがな。藍子がお前を見つけたって連絡をよこしてくれたもんで、予定変更だ。やっぱオマエには直接その体に分からせてやったほうがいいもんな」
金髪のシスター……間違いなくイルミナ・ライラックのことだ。もし輝王がこうして囮捜査を行っていなかった場合、彼女が被害にあっていたということだ。その事実だけで背筋が凍る。
「――瀧上轟。お前を殺人の容疑で拘束する」
「できるのか? もう1人のガキと違って、何の力も持たないオマエによ」
言ってから、瀧上は何かを思い出したように立ち止まった。
「そういや、あの憎たらしいガキ……高良とか言ったっけか。アイツ、死んじまったんだってな。残念だぜ。俺の手で殺してやりたかったのによ」
「……もし高良が生きていたら、お前などに遅れは取らなかっただろうな」
「そいつはどうかな? 俺はあのガキに対抗するために、新たな力を身につけてきたんだぜ?」
「何……?」
輝王の疑念を無視して、瀧上は言葉を続ける。
「けど、アイツは早死にするだろうって思ってたぜ。アイツからは、俺と同じ臭いがしたからな」
予想外の言葉に、輝王の思考が一瞬だけフリーズする。
「気にすんな、藍子。白斗は泳がせとけ、って命令したのは俺だからな」
瀧上の姿を見た女性――薬師寺藍子は、すぐさま奏儀への攻撃を中止すると、その場で片膝をつく。対して、奏儀は苦笑いを浮かべながら舌を出し、再び壁にもたれかかっていた。
薬師寺の頭を大きな手でくしゃりと撫でたあと、瀧上は悠然と輝王を見下ろした。
「ちっとは成長したみてえじゃねえか。恰好だけは一人前だな」
「……まさか本当にお前の方から出向いてくれるとはな。探す手間が省けた」
震えそうになる体を奮い立たせながら、輝王は拳銃を構え直す。手の平にじっとりと汗が浮かんでいるのが嫌でも分かった。
「その様子だと、俺のことは覚えていたみてえだな。当然か。上下関係ってものをはっきりと分からせてやった、いわば人生の教師だからな。俺は」
「…………」
「だんまりか? それとも、ビビって声が出なくなったか?」
瀧上は、黄ばんだ歯を見せながら、笑う。
「無様に這いつくばってた、あの時みてえによ」
「…………ッ!」
またしても指先が動いた。が、トリガーが引かれることはない。
これはヤツの挑発だ。その拳銃で俺を撃ってみろ、と誘っているのだ。
乗るわけにはいかない。正当防衛が成立しないなんて建前ではなく――挑発に乗って発砲し、相手にペースを握らせるわけにはいかない。
「……畑紀康を殺したのはお前か?」
代わりに、今度はこちらから問いを発する。
すると、瀧上はますます笑みを濃くし、
「ああそうだ。あのヘボ野郎は、俺が殺した」
まるで問いを待っていたかのように、殺人を認めた。
「理由はわざわざ言わなくても分かんだろ? あいつのせいで、俺はムショにぶち込まれたんだ。責任は取らなくっちゃなァ?」
「……復讐、ということか」
復讐。かつて、輝王もその胸に宿していた感情だが、瀧上のそれは随分と違って見える。
「――次はオマエだぜ。ガキ……いや、輝王正義」
じり……と、瀧上の体がわずかに動いた。薬師寺や奏儀に動きはない。
人差し指が、1ミリだけ引き金に近づいた。
「最初はあの金髪シスターを狙ってたんだがな。藍子がお前を見つけたって連絡をよこしてくれたもんで、予定変更だ。やっぱオマエには直接その体に分からせてやったほうがいいもんな」
金髪のシスター……間違いなくイルミナ・ライラックのことだ。もし輝王がこうして囮捜査を行っていなかった場合、彼女が被害にあっていたということだ。その事実だけで背筋が凍る。
「――瀧上轟。お前を殺人の容疑で拘束する」
「できるのか? もう1人のガキと違って、何の力も持たないオマエによ」
言ってから、瀧上は何かを思い出したように立ち止まった。
「そういや、あの憎たらしいガキ……高良とか言ったっけか。アイツ、死んじまったんだってな。残念だぜ。俺の手で殺してやりたかったのによ」
「……もし高良が生きていたら、お前などに遅れは取らなかっただろうな」
「そいつはどうかな? 俺はあのガキに対抗するために、新たな力を身につけてきたんだぜ?」
「何……?」
輝王の疑念を無視して、瀧上は言葉を続ける。
「けど、アイツは早死にするだろうって思ってたぜ。アイツからは、俺と同じ臭いがしたからな」
予想外の言葉に、輝王の思考が一瞬だけフリーズする。
「他人なんてどうだっていい。自分の欲望に忠実で――自分の思うままに生きる。高良ってガキは、俺と同じ部類の人間だよ」
「瀧上ッ――!」
激情が全身を駆け巡る。欲望のままに恐怖を撒き散らす瀧上と、親友を同列に語られるのは我慢ならなかった。
引き金を引き、銃弾が発射される――
直前。輝王の脳裏に、異世界で聞いた高良の言葉が蘇る。
――俺は、俺のやりたいと思ったことをやってきた。
――助けたいと思ったから助けた。守りたいと思ったから守った。戦いたいと思ったから戦った。
――そして、殺したいと思ったから、殺そうとした。
それは、高良火乃が、自分の思うままに生きていたという証――
引き金は、動かなかった。
「……ここまで挑発されて、撃たねえのか。ただの甘ちゃんなのかビビってんのか我慢強いのか分かんねえな」
輝王の反応を見て、瀧上は盛大なため息を吐いた。
「……けど、俺を相手に撃たないって選択は命取りだぜ」
そして、次の瞬間には、輝王を殺すための行動を始めていた。
一瞬だけ、反応が遅れる。
「術式解放。<ドラゴニック・レギオン>」
その一瞬が、致命的だった。
「――コード<ライト・パルサー>」
瀧上が右腕を前に突き出す。その手には、奏儀のようにデュエルモンスターズのカードは握られていない。輝王との距離は、10メートル以上開いていたはずだ。
それなのに。
「ぐっ……!?」
左肩と右脇腹、そして右の太ももに鋭い痛みが走る。焼けるような熱さを覚えると同時に、鮮血が吹き出した。まるで、銃で撃たれたかのように。
術式による障壁は展開していたはずだ。なのに、それを貫通してきた。
反撃しなければ――その焦りとは裏腹に、体からは力が抜けていく。何とか倒れるのはこらえたものの、両膝を付いて四つん這いの恰好になってしまう。
「オマエはそうやって這いつくばっているのがお似合いだぜ。輝王」
頭上から瀧上の声が降り注ぐ。沸騰する感情とは逆に、体は急速に冷えていく。
「一撃で殺しちゃもったいねえし、俺の気が済まねえからな。これからじっくり痛ぶってやるよ。情けなく命乞いするまでな」
瀧上がこちらに近づいてくる気配がした。このままでは、いいようになぶられて殺されるだけだ。
輝王が拳銃を握る手に力を込め直した時。
「輝王先輩っ!!」
背後から、先刻別れたはずの後輩の悲鳴じみた叫び声が聞こえた。
「よくも……よくも先輩をッ!」
視線だけを後方に向けると、怒りの形相を浮かべた鎧葉が、拳銃を構えながら駆けていた。
「鎧葉――」
来るな、逃げろ――その言葉を口にする前に、鎧葉は引き金を引いていた。
「うわああああああああああッ!」
発砲。連続して銃撃音が響き渡り、薬莢が地面に転がる。
「チッ……」
足を止めた瀧上は、左手を前に突き出し術式を起動させるための言葉を紡ぐ。
「コード<ダーク・フレア>!」
直後、瀧上の足元から黒い炎が噴き上がり、彼を守る壁となる。
鎧葉の銃弾は炎の壁に阻まれ、跡形もなく消滅する。
「あああああああああああッ!」
それでも構わず発砲を続ける鎧葉だったが、
「――それ以上轟様に近づくな!」
横合いから薬師寺に体当たりされ、壁に叩きつけられる。
「がっ……!」
「轟様に手出し無用と言われていたから我慢していたけど、これ以上見ていられない! この下種め! 轟様に銃を向けたこと、己が命を持って償え!」
叫んだ薬師寺は、体当たりをした勢いのまま、構えたナイフを鎧葉の腹に突き立てる。
「あっ……うううううううううっ!」
「もっと苦しめ! そうでなくては罰にならない!」
鎧葉の血がポタポタと地面に垂れ、輝王のそれと混ざりあう。
「……ったく、命知らずなガキだ。藍子、まだ殺すなよ」
左手を振って炎の壁を消し去った瀧上は、喜びを含んだ声で告げる。
「そいつがもがき苦しんで死ぬ様を、輝王に観賞させるからな」
「了解しました。轟様」
「瀧、上……ッ!」
「恨むなら高良の野郎を恨むんだな。あいつが死んじまったせいで、俺はオマエを苦しめて殺すことでしか恨みを晴らせねえんだからよ」
激情が全身を駆け巡る。欲望のままに恐怖を撒き散らす瀧上と、親友を同列に語られるのは我慢ならなかった。
引き金を引き、銃弾が発射される――
直前。輝王の脳裏に、異世界で聞いた高良の言葉が蘇る。
――俺は、俺のやりたいと思ったことをやってきた。
――助けたいと思ったから助けた。守りたいと思ったから守った。戦いたいと思ったから戦った。
――そして、殺したいと思ったから、殺そうとした。
それは、高良火乃が、自分の思うままに生きていたという証――
引き金は、動かなかった。
「……ここまで挑発されて、撃たねえのか。ただの甘ちゃんなのかビビってんのか我慢強いのか分かんねえな」
輝王の反応を見て、瀧上は盛大なため息を吐いた。
「……けど、俺を相手に撃たないって選択は命取りだぜ」
そして、次の瞬間には、輝王を殺すための行動を始めていた。
一瞬だけ、反応が遅れる。
「術式解放。<ドラゴニック・レギオン>」
その一瞬が、致命的だった。
「――コード<ライト・パルサー>」
瀧上が右腕を前に突き出す。その手には、奏儀のようにデュエルモンスターズのカードは握られていない。輝王との距離は、10メートル以上開いていたはずだ。
それなのに。
「ぐっ……!?」
左肩と右脇腹、そして右の太ももに鋭い痛みが走る。焼けるような熱さを覚えると同時に、鮮血が吹き出した。まるで、銃で撃たれたかのように。
術式による障壁は展開していたはずだ。なのに、それを貫通してきた。
反撃しなければ――その焦りとは裏腹に、体からは力が抜けていく。何とか倒れるのはこらえたものの、両膝を付いて四つん這いの恰好になってしまう。
「オマエはそうやって這いつくばっているのがお似合いだぜ。輝王」
頭上から瀧上の声が降り注ぐ。沸騰する感情とは逆に、体は急速に冷えていく。
「一撃で殺しちゃもったいねえし、俺の気が済まねえからな。これからじっくり痛ぶってやるよ。情けなく命乞いするまでな」
瀧上がこちらに近づいてくる気配がした。このままでは、いいようになぶられて殺されるだけだ。
輝王が拳銃を握る手に力を込め直した時。
「輝王先輩っ!!」
背後から、先刻別れたはずの後輩の悲鳴じみた叫び声が聞こえた。
「よくも……よくも先輩をッ!」
視線だけを後方に向けると、怒りの形相を浮かべた鎧葉が、拳銃を構えながら駆けていた。
「鎧葉――」
来るな、逃げろ――その言葉を口にする前に、鎧葉は引き金を引いていた。
「うわああああああああああッ!」
発砲。連続して銃撃音が響き渡り、薬莢が地面に転がる。
「チッ……」
足を止めた瀧上は、左手を前に突き出し術式を起動させるための言葉を紡ぐ。
「コード<ダーク・フレア>!」
直後、瀧上の足元から黒い炎が噴き上がり、彼を守る壁となる。
鎧葉の銃弾は炎の壁に阻まれ、跡形もなく消滅する。
「あああああああああああッ!」
それでも構わず発砲を続ける鎧葉だったが、
「――それ以上轟様に近づくな!」
横合いから薬師寺に体当たりされ、壁に叩きつけられる。
「がっ……!」
「轟様に手出し無用と言われていたから我慢していたけど、これ以上見ていられない! この下種め! 轟様に銃を向けたこと、己が命を持って償え!」
叫んだ薬師寺は、体当たりをした勢いのまま、構えたナイフを鎧葉の腹に突き立てる。
「あっ……うううううううううっ!」
「もっと苦しめ! そうでなくては罰にならない!」
鎧葉の血がポタポタと地面に垂れ、輝王のそれと混ざりあう。
「……ったく、命知らずなガキだ。藍子、まだ殺すなよ」
左手を振って炎の壁を消し去った瀧上は、喜びを含んだ声で告げる。
「そいつがもがき苦しんで死ぬ様を、輝王に観賞させるからな」
「了解しました。轟様」
「瀧、上……ッ!」
「恨むなら高良の野郎を恨むんだな。あいつが死んじまったせいで、俺はオマエを苦しめて殺すことでしか恨みを晴らせねえんだからよ」