にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage 番外編 リボーン・ドライブ-11

 ――これでは、昔と何も変わっていない。
 死の恐怖に怯え、ただ震えることしかできなかったあの時と。
 高良火乃に助けられた、無力な自分と。
(違う……)
 そんなはずはない。
 輝王が今日まで歩んできた道のりは、何一つ変わらないような平坦なものではなかった。
 抜けていくばかりだった力が、わずかに戻ったのを感じる。痛みを強引に頭の外へ追いやる。
(――立て)
 サイコデュエリストであり、術式をも会得した瀧上に対抗する手段は、現状ではない。
 それでも立ち上がるのは、生にしがみついて逃げ出すためではない。
「……いいぜ。立てよ、輝王。これで終わりじゃつまらねえだろ?」
 例え死ぬことになろうとも、前に進むためだ。
 そして、せめて自分を慕ってくれた後輩だけは助け出す――!
「…………ッ!!」
 よろけながらも立ちあがった輝王は、すぐさまトリガーを引く。
 パァン、という渇いた音と共に、弾丸が発射される。
 だが、狙いは瀧上ではない。
 ガシャン! とガラスが割れるような音が響き、地下通路の明度がわずかに下がった。
「なっ――」
 動揺を示したのは、薬師寺だったか奏儀だったか。
 それを確認する間もなく、輝王は続けて発砲する。
 地下通路を照らしていた蛍光灯が砕け散り、辺りが次第に闇に包まれていく。
「轟様!」
 薬師寺の叫び声を合図にしたように、輝王は拳銃を投げ捨てる。
 瀧上の視線がそれに釣られた瞬間を見計らい、全力で駆け抜ける。
 全ての力を込めた、右拳を叩きこむために。
「おおおおおおおおおおおおッ!」
 奏儀が言っていた、「基礎術式」という単語。その意味を正確に理解しているわけではないが――輝王が会得した術式の力は、防御のための障壁だけではない。
 身体能力の強化。この力を使えば、例え相手がサイコパワーによって強化されていようと、互角以上に渡り合うことができる。
 無論、瀧上はサイコデュエリストであると同時に術式使いでもある。普通に突っ込めば簡単に避けられてしまうだろうが――そのために注意を他に逸らしたのだ。
 この一撃によって薬師寺の注意を自分に向け、鎧葉が逃げる時間を稼ぐ。
 太ももからの出血が激しくなるが、かばっている余裕などない。
 見れば、目前に瀧上の体がある。
 輝王は右拳を限界まで引き、その脇腹を目がけて――

「……悲しくなるくらいに鈍いな」

 ミシリ、と骨がきしむ音が聞こえた。
 輝王の体が宙に浮き、壁に叩きつけられる。
 自分の拳が届く前に攻撃された。それを理解するのに数分の時間を要した。
「オマエがアクティブ・コードを完璧に習得していたなら、一発くらいはもらってたかもな」
 瀧上は輝王を殴り飛ばした拳をふらふら揺らすと、再びため息を吐いた。
「向かってきた勇気は褒めてやるよ。だが、結果は変わらねえ。お前は後輩がむごたらしく死んでいくのを見たあと、俺に殺される」
 蛍光灯を破壊したせいで、瀧上の表情がよく見えない。
 視界が赤く染まっていく。頭からも出血しているようだった。もう、指先すらピクリとも動かない。

「――いいや。結果は変わったのじゃ」

「――――っ!?」
 鎧葉を押さえつけていた薬師寺が、突然その場を飛び退く。
 次の瞬間、彼女がいた場所を銀色の刃がなぞった。
「輝王! 無事か!?」
 視界の端にわずかに映る、若草色の着物。輝王がよく知る少女のものだ。
「テメエ、確か――」
「轟様! 後ろです!」
 瀧上が動くよりも早く、彼の背中に触れるものがあった。

「久々だから上手くできるかねえ……コード<クリスティア>」

 無精ひげを生やした猫背の男がそう呟くと、瀧上の体が金縛りにでもあったかのように動かなくなる。
「がっ……!? テメエ、何しやがった……?」
「それを教えるほどお人好しじゃないよ、俺は」
 薬師寺のナイフが猫背の男を仕留めるために振るわれるが、男はそれを見越していたように瀧上から離れる。
「せっちゃーん。とっととずらかるよー。俺もう腰痛くてダメだ」
「せっちゃん言うな! 輝王、立てるかの?」
 着物の少女――友永切は、気を失った鎧葉に肩を貸しつつ輝王に手を差し伸べてくる。
 それに応える代わりに、輝王は壁にもたれながら立ちあがった。
「東吾さん! 輝王に手を貸してやってほしいのじゃ!」
「はいは~いっと」
 この場の雰囲気にそぐわない間の抜けた声を出しながら、猫背の男――特別捜査六課の課長、東吾は輝王の肩を担いだ。
「貴様ら……! 逃がすか!」
 それを見た薬師寺が金切り声を上げるが、
「いいや、逃げるよん。サービス残業はこりごりなんでね」
 東吾は懐に忍ばせていた閃光弾を投げつけると、手早くサングラスをかけ、輝王を担いでいるとは思えない軽やかさで走り出す。
 光が視界を白く染め上げ、そこで輝王の意識は途切れた。