にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage 番外編 リボーン・ドライブ-9

(――黒い炎!?)
 放たれた手の平大の球体が、黒い炎を纏った火の玉だと認識したとき、すでに球体は輝王の目前に迫っていた。
 おそらくは、サイコパワーによるカード効果の具現化。無防備のまま受けるわけにはいかないが、すでに回避は間にあわない。
 かくなる上は。
「……術式解放!」
 輝王がその言葉を口にすると、黒い炎はまるで見えない壁にぶつかったかのように霧散する。
 正確に言えば、見えない壁が出現したのだ。
 輝王は腰のホルスターからオートマチック型の拳銃を取り出すと、白髪の少年に向けて構える。安全装置を外し、引き金に指をかけた。
「……へえ。シールド・コードが使えるってことは、基礎術式は覚えてるってことでいいんすかね?」
 銃口を向けられても、少年はへらへらとした態度を崩さない。
 彼の言った「シールド・コード」とは、輝王が「術式」の力によって出現させた見えない壁――あらゆる攻撃を防ぐ障壁のことだろう。あらゆる攻撃を防ぐとは言っても障壁には硬度があり、一定以上の攻撃が加われば壊れてしまう。例え破壊されたとしても、攻撃力を減衰することはできるのだが。
「けど、その程度じゃ今の瀧上サンには勝てないっすよ。……いや、ただのサイコデュエリストだった昔の瀧上サンにも勝てないっすね」
「何……?」
 引き金に指をかけたまま、慎重に相手の出方を窺う。少年の余裕は、サイコパワーによって銃弾程度なら防げるという自信からだ。下手に攻勢に出れば、貴重な情報源を逃すばかりか自らを危険に晒すことになる。
「もっかい言うけど、さっさとこの街を出て逃げた方がいい。何なら、俺がエスコートしますぜ?」
「…………」
「プライドが邪魔してる? それとも罠じゃないかって疑ってる? 確かに俺は瀧上サンとギブアンドテイクの関係を結んでるけど、アンタにも死んでほしくねえの。俺自身の目的のために、な」
 そう言って、少年は左手をポケットから出すと、1枚のカードを投げ捨てた。<黒炎弾>――<真紅眼の黒竜>専用の魔法カードだ。
「……その目的のために、俺も利用するつもりか?」
「ご名答。術式を使える人材ってのは結構貴重なんだぜ? マスターコードを手に入れたからといって、全員が全員力を発現できるわけじゃない。アンタにはもっと強くなってもらわないと困る。せっかく<ドラグニティ・ドライブ>のマスターコードを持ってるっていうのに、基礎術式を身につけた程度じゃ宝の持ち腐れだ」
 引き金にかけた指がピクリと動いた。
(こいつは、俺が高良の<ドラグニティ>デッキを持っていることを知っている――!)
 <ドラグニティ>デッキを所持していることを隠しているわけではないが、このデッキが高良の持ち物であり、彼が術式使いであったことを知っている人間は少ない。この男こそが、情報操作に長けた瀧上の助手なのだろうか。
「さ、今決めてもらうっすよ。俺と一緒に逃げるか、ここで無様に殺されるか――」
 提案を持ちかけた少年の言葉が途切れる。
 ザン! と、空気を切り裂く音が響いた。
 それより早く、白髪の少年は壁から遠ざかるように動いて、斬撃を回避している。
 少年の背後。ナイフを逆手に持った黒髪の女性が、ゆらりと姿勢を正した。濃い紫色のライダースーツを身につけたスレンダーな女性は、血走った瞳を白髪の少年に向けた。
「奏儀……! 貴様、最優先目標に接触したばかりか、逃走を手引きするとは一体どういうことだ!?」
「あ、藍子さん。落ち着いて、これには理由が――」
「黙れ童貞クソ虫! この失態は、死を持ってあがなってもらう!」
 奏儀と呼ばれた少年の鼻先を、ナイフの刃先が掠める。冷や汗を流した奏儀は、慌てて後ずさった。
「避けるな! 貴様相手に浪費する時間が惜しい!」
「んなこと言っても!」
 会話だけ聞けばじゃれているように見えるが、実際は違う。
 絶え間なく放たれるナイフは確実に息の根を止めるために急所を狙ったものだし、それを難なく避ける奏儀の眼力と体捌きも尋常ではない。
 輝王が状況を整理し次の行動へ移る間もなく、事態は加速していく。
「――オイオイ。随分楽しそうじゃねえか。主役である俺を差し置いてよ」
 古びた地下通路に、声が響く。
 忘れようとしても忘れられなかった、死の宣告を告げたあの声が。

「久しぶりだな、ガキ」

「瀧上、轟――!」
 輝王の正面――通路の反対側から悠々と歩いてきた長身の男は、肉食獣のような鋭い眼光を向けながら口の端を釣り上げた。