にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage 番外編 リボーン・ドライブ-4

「ん……?」
 鎧葉も自分の席に着いてパソコンに向かい、東吾がうたた寝を始めた頃、輝王はひとつの事件に引っ掛かりを覚えた。と、いっても事件の手掛かりを掴んだわけではない。
「何かありましたか?」
「いや……」
 鎧葉に伝えるかどうか迷うが、人間何がきっかけになるか分からないものだ。輝王は引っ掛かった事件の詳細を調べつつ口を開いた。
「3週間前……ちょうど2つの殺人事件の間だ。旧サテライト地区で住宅全焼の火事があったようだな」
「はい。この家に住んでいた男性1人が亡くなっていますね。名前は確か――」
「寺山吾一、45歳。カードショップの店長だ。リビングに置かれていた石油ストーブが激しく燃えていたことから、これが出火原因と断定、か」
「不幸中の幸いと言いますか、近隣住宅へ火が燃え移ることはなかったようです。この事故が何か?」
「死亡した男性に会ったことがある。お前も知らないか? 以前、デュエルアカデミアの近くにあったカードショップ。あそこでも店長を務めていた男だ」
「ああー……いつの間にか潰れてたあそこですね。カードの価格は安かったけど、身内臭というか……常連とそれ以外の客で露骨に態度変えるのが気に食わなくて、僕はあんまり行かなかったです」
 決していい印象を抱いていたわけではないが、やはり顔を知っている人間の死に触れることは少なからずショックを受ける。治安維持局に入り、人の死に触れる機会が多くなったとしても、だ。
「俺も店自体には数えるほどしか行っていないが……寺山とはちょっとあってな。彼が昔のままだとしたら、誰かの恨みを買っていたのかもしれない」
「と、いうと?」
「店の常連を贔屓するのはよくあることだが、寺山はそのレベルが逸脱していた。彼は常連の客何人かと取引し、大会でイカサマをしていたんだ」
イカサマ……必ず常連の誰かが優勝するように仕組んだってことですか?」
 鎧葉の問いに頷いた輝王は、そのまま話を続ける。
「寺山のショップの大会は優勝賞品が豪華な代わりに、参加費がやや高めでな。常連を優勝させることで商品を裏で回収しつつ、小銭稼ぎをしていたわけだ」
「常連にはいくらかマージンを渡して納得させる感じですか」
「いや、取引していた連中は、手段はどうあれデュエルに勝つことを生きがいにしているような人間ばかりだったからな。ショップ大会優勝という肩書きを手に入れるだけで満足していた。近所ではそれなりに名の知れた店だったからな」
「……くだらないですね、それ」
 鎧葉が呆れるのも無理はない。当時の輝王も、ズルをしてまでデュエルに勝つことに何の意義があるのかと首をかしげたものだ。
「それで、不正を許せなかった輝王先輩が悪徳店主を成敗したってことですね!」
 顔を近づけた鎧葉の瞳は期待に満ち満ちていて、輝王は思わず視線を逸らした。
「……結果的にはそうなったが、詳細は違う」
 あまり鎧葉に過去の話を聞かせることは避けたいのだが、誤解されたまま事実を捏造されてしまうことはもっと避けたい。仕方なく輝王は事件の詳細を語ることにした。
「最初に動いたのは高良だ。クラスメイトの1人が店の常連に賭けデュエルを強要され、大事なカードを奪われた。それを取り返すための条件として、ショップ大会で優勝することを呑んだ」
 代わりに、もし高良か輝王が優勝出来なかった場合、デッキを献上することに加えてアカデミアを卒業するまでパシリをすることになっていたわけだが……その程度で高良が引き下がるはずがない。
「ショップ大会では不正防止のために、店が用意したデュエルディスクを使用することになっていた。しかし――」
「そこにイカサマが仕掛けられていたわけですね」
「そうだ。連中が使ったディスクは、デッキのオートシャッフル機能に細工がしてあり、特定のカードをデッキトップに持ってくることが可能だった」
 その特定のカードにはディスクのセンサーでしか読み取れない特殊な加工が施してあり、肉眼でカードを確認したくらいではイカサマが仕掛けられてあることは分からなかった。
「常連たちのデッキは<エクゾディア>。ドローを加速させ、素早く<エクゾディア>を手札に呼び込み勝利するデッキだ。初手で<エクゾディア>が揃うようなあからさまな真似をすればイカサマが露見する可能性があるため、上手くドローカードを混ぜつつ勝利を収めていた。時には常連同士接戦を演じあってな」

<封印されしエクゾディア>
効果モンスター(制限カード)
星3/闇属性/魔法使い族/攻1000/守1000
このカードと「封印されし者の右足」「封印されし者の左足」
「封印されし者の右腕」「封印されし者の左腕」
が手札に全て揃った時、自分はデュエルに勝利する。

 輝王がその大会に参加した時は、イカサマをしているだろうと確信に近い考えを持っていたため、その寒々しい演技に怒りすら覚えたものだ。
「それで? どうやって不正を暴いたんですか?」
「……イカサマの種を暴いたのは、ショップ大会が終わったあとだ」
 輝王がそう言うと、鎧葉は「えっ?」と目を丸くする。
「高良がそれこそイカサマでもしてるんじゃないかという勢いで1ターンキルを決めまくっていたせいで、連中も焦ったんだろう。高良とのデュエルで、『初手で<エクゾディア>が揃った』という奥の手を使わざるを得なかった。初手で<エクゾディア>が揃うのは限りなくゼロに近い確率ではあるが、それでもゼロではない。高良はそこで負けたが……決勝まで上がった俺とのデュエルで同じ手は使えない。その隙をついて俺が勝ち、奪われたカードを取り返した。その後、疑わしかったカードとデュエルディスクを念入りに調べ、不正が発覚したというわけだ」
「せ、先輩はどういう風に勝ったんですか? そこを詳しく教えてください!」
「……簡単なことだ。バーンに特化したデッキを組み、先攻2ターン目でライフを削りきった。当時はこのカードが使えたから、そうそう難しいことじゃない」
 そう言って、輝王はパソコンのディスプレイに1枚のカードを表示させる。
 <ダーク・ダイブ・ボンバー>。

ダーク・ダイブ・ボンバー>
シンクロ・効果モンスター(禁止カード)
星7/闇属性/機械族/攻2600/守1800
チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
自分フィールド上のモンスター1体をリリースして発動できる。
リリースしたモンスターのレベル×200ポイントダメージを相手ライフに与える。

 その効果の凶悪さゆえ、即刻公式大会での使用が禁止されたカードだ。
「それでも……それでもすごいです! さすが僕の尊敬する輝王先輩ですね!」
 ガタン! と音を立て勢いよく立ちあがった鎧葉は、興奮を抑えきれないのか鼻息を荒くしている。
(……こうなることが予想できていたから、話したくなかったんだがな)
 それ以前に、自分の過去を得意げに語るような性質ではない。ショップ大会の一件は怒りに燃えた高良が尋常ではない強さを発揮してくれたからこそ優勝できたのだ。もっとも、当時の輝王は「どうしてその強さをアカデミアの実戦テストで発揮できないんだ」と小言をこぼしたものだが。
「話を戻すぞ。もし、寺山が昔と同じように不正を行っていたなら、誰かの恨みを買っていた可能性は高い」
「事故に見せかけて殺された、と?」
「仮に他殺だったとしても、連続殺人事件との関わりは薄そうだがな……しかし、事故が起きた日付が気になる」
「ちょうど2つの事件の間ですもんね」
 連続殺人事件の犯人が規則性を持って犯行を行っていた場合――例えば1週間おきに殺人を決行するといった規則を設定していた場合、手段は違えど寺山もホステスやホームレスの男性と同じように殺されたのかもしれない。3人の犠牲者にこれといった共通点はないが、輝王の頭の隅では何かが引っ掛かっていた。
 輝王はファイルを閉じてパソコンをシャットダウンさせると、鎧葉がまとめた資料を片手に席を立った。
「俺はこの火災が起こった現場を見てくる。早々に事故だと決めつけられたようだし、十分な調査が行われたとは思えない」
「分かりました。じゃあ僕も……」
「お前は連続殺人事件の現場に行って、情報収集に当たってくれ。今さら目新しい情報が手に入るとは思えないが、実際に現場を目にして見えてくるものもあるはずだ。事件現場は担当捜査官以外立ち入り禁止になっていたが、辞令が来たなら俺たちも入れるだろう」
 「俺もあとで合流する」と付け加えると、鎧葉は渋々といった感じで「分かりました」と返事をした。
 輝王は最低限の荷物を手早くまとめると、すっかり眠りこけている東吾を背に部屋を後にした。