にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage 番外編 エヴォル・ドライブ-9

「幻……影……!」
 <イリュージョン・スナッチ>のカードイラストは、半身を<邪帝ガイウス>へと変化させたもの。効果はアドバンス召喚に成功した時に手札から特殊召喚可能で、種族・属性・レベルをアドバンス召喚したモンスターと同じにするものだったはずだ。
「オレの効果は知っテるみたいだな。今のオレは<邪帝ガイウス>そのものであり、リョウキ君が使っていた力は、このオレが分け与えていたものなのさ」
 灰色の肉体が、徐々に漆黒の甲冑へと変化していく。
「そうか、お前が――ぐっ!」
 鎧葉の膝蹴りが腹部に刺さり、脇腹を抉っていたナイフが強引に引き抜かれる。追い打ちをかけるように<イリュージョン・スナッチ>の拳が胸部を的確に撃ち抜き、輝王の体は宙へと投げ出された。脇腹から血が吹き出し、受け身を取ることもできずに10メートル近く地面を転がる。アクティブ・コードの保護がなければ、確実に意識を失っていただろう。
「やめろ! 何やってんだよお前! いきなり出てきて――」
「オイオイ、その言い草はないだろリョウキ君。オマエの欲望を解放する手伝いをしテやったっテいうのに。毎晩毎晩眠っテるリョウキ君に、自分に素直になれ、思い通りにならないものはぶっ壊せって囁き続けるのは、結構楽し……いや、大変だったんだぜ?」
「なっ……」
「オレはさ、力を手にした人間が狂っていく様を見るのが大好きなんだよ。その点、リョウキ君は素晴らしいエンターティナーの素質があった。少し方向性を変えてやるだけで、破滅に繋がる欲望を持っテたんだから。ここで終わらせテしまうには惜しいんだよなァ」
 動揺する鎧葉から、<イリュージョン・スナッチ>が完全に乖離する。
 鎧葉が輝王をアカデミア時代のように戻したいと思っていたのは本心だろう。だが、その思いを歪んだ形で発露させたのは――
「お前が……元凶か……」
 傷口を押さえながら、輝王はよろよろと立ち上がる。すぐさま術式を起動。右手に<ドラグニティ・ドライブ>の槍を生み出す。
「今や危険な力として封じられた深・術式の適合者は少ない。リョウキ君は貴重な人材なんだよ。だから、もっともっと狂っテもらっテ、オレを楽しませテくれないと」
「ふざけるな! 僕は――」
「おっと、リョウキ君の意見を聞くつもりはないよ。キキキ」
 <イリュージョン・スナッチ>の右手が、鎧葉の頭を鷲掴みにする。そのまま握りつぶすのではないかと錯覚するほどの圧迫感に、輝王は弾かれたように駆け出す。
 その予測に反して、<邪帝ガイウス>の姿をそっくりそのまま真似た<イリュージョン・スナッチ>は掴んだ右手から闇を放出。その途端、鎧葉の意識が途切れた。
「殺すと思った? キキキ。言ったじゃないか。リョウキ君は貴重な人材だっテ」
「貴様……」
「カードに封印されたオレは、この命尽きるまで呪縛から逃れることはできない。だから、これくらいしか楽しみがないんだよ。力を求める人間っテのは、往々にして歪んだ欲望を抱えテるもんだ。そいつをちょっと刺激してやるだけで、あとは転がり落ちて行くのを悠々と楽しめるっテわけだ」
「吐き気がするな。理解をするつもりはないし、認めるつもりもない」
「……何にも悪いことしテないのに、帝の連中の巻き添えを食らっテ封印されてしまったオレに、同情するつもりは?」
「――答えが分かりきっているのに問いを投げるな。時間の無駄だ」
「ごもっとも。こっちも、リョウキ君のためにオマエには死んでもらわないといけないしな」
 <イリュージョン・スナッチ>は愉快気に歯を鳴らす。
(……奴が鎧葉から離れたのは好都合だ。砕くべき力が、そのまま具現化したのだから)
 倒すべき敵が明確になったのは不幸中の幸いだった。<イリュージョン・スナッチ>を倒せば、この舞台に幕を引くことができる。それは、鎧葉を説得するより余程簡単で分かりやすい公式だ。
「――<イリュージョン・スナッチ>。ここで終わりにさせてもらうぞ」
「できるかな? オマエごときに」
 甲冑を纏った<イリュージョン・スナッチ>の右腕が上がる。
 それを合図に、輝王の周囲の空間が湾曲していく。瞬時に察知した輝王は、迷うことなく前方へと跳んだ。
「デモンズ・グラビティ」
 喜色に満ちた<イリュージョン・スナッチ>の声と共に、空間が削り取られる。その範囲は、半径50センチメートルといったところか。鎧葉が放ったそれより範囲も威力も減少しているように見える。
 おそらく、命力自体は鎧葉のほうが高いのだろう。<イリュージョン・スナッチ>は、深・術式<帝王の降臨>の術者に取りつくことによって、真価を発揮するらしい。
「――オレの力が大したことない。そう思ったかい?」
 輝王の考えを見透かしたような一言。<イリュージョン・スナッチ>の表情が、大きく歪んだような気がした。
 輝王が着地した瞬間、床がバキリと割れて隆起し、崩れる。
「くっ……!?」
 体勢が崩れながらも何とか地面を蹴り、宙へと跳ぶ。
 それを狙い撃ちするように、3メートルはあろうかという巨大な氷柱が、先端を尖らせ飛んでくる。
 回避はできない。輝王は上段からの突きで、氷柱を真っ向から迎え撃つ。
 衝撃。氷柱に亀裂が走り、バラバラと砕け散るが、勢いを殺し切れなかった輝王の体は後方へと吹き飛ばされる。腕の力だけで槍を振るったため、インパクトの衝撃で骨にヒビが入ったことを痛みとして知覚する。
 再び着地した輝王を、今度は竜巻が襲う。足元から輝王を囲うように発生した竜巻は、風の刃を生みだし上下左右から切り刻んでくる。
(――<ゲイボルグ>で突破を!)
 輝王がそれを実行に移す間もなく、風の隙間から炎が溢れ、竜巻は火炎に包まれる。
「ぐうううううううっ!」
 炎熱地獄。風に乗って巻き上げられた炎が、輝王を焼き尽くさんと燃え盛る。体中の水分が蒸発し、干からびてしまうような感覚が襲ってくる。
「……ナイトコード……<ゲイボルグ>!」
 渇ききった唇で詠唱を口にした輝王は、生まれた推進力によって辛くも炎の牢獄から逃れた。
 そして、見る。
 謁見の間を模した空間のいたるところに、新たな影が出現していることに。
 <炎帝テスタロス>。
 <氷帝メビウス>。
 <地帝グランマーグ>。
 <風帝ライザー>。
 そして、<邪帝ガイウス>。
 帝の名を冠するモンスターたちは、謁見の間を埋め尽くさんと増殖を続けている。
 2階部分に当たるテラスも、いつのまにか5人の帝によって占拠されており、その数は最早「軍」と称しても差し支えないレベルにまで膨れ上がっていた。
「理解したか? デモンズ・グラビティの威力がリョウキ君より劣っテいたのは、力を分散させテいたせい。けど、個々の能力が劣っテいたとしても、この数の攻撃を一斉に食らえば……どうなるかは分かるよな」
 圧倒的な数の暴力。これに抗う術は――