にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage 番外編 エヴォル・ドライブ-10

「――アームズコード<レヴァテイン>」
 左手に大剣が現出する。2つの得物を固く握りしめた輝王は、全身の痛みを振り払うように、告げる。
「決められた結末を覆すために、この力はある」
 理不尽なまでの戦力差を突き付けられ、敗北は決定したと言われても。
 この手に戦う力が残っている限り。
 それを失っても、心が折れない限り。
 輝王正義は、絶対に背中を向けない。
「……リョウキ君には、敬愛する先輩は最後まで馬鹿を貫き通しテ死んだと伝えテおくよ」
 呆れたように首を振った<邪帝ガイウス>――<イリュージョン・スナッチ>が、
「では。サヨナラ、キオウ君」
 そう告げると、あらゆる方向からの攻撃が開始された。
 輝王は、前に進む。
 狙いは鎧葉の傍に立つ<邪帝ガイウス>。<イリュージョン・スナッチ>の本体だ。頭を潰せば分身は消えるのがセオリーだが、仮に消えなかったとしても厄介な能力を持つ<邪帝ガイウス>は優先的に倒しておくべきだ。
 輝王の狙いを見抜いたのか、<邪帝ガイウス>への道を塞ぐように多数の帝が文字通り人の壁を作る。
「おおおおおおおおおおおおおおッ!」
 一番手近にいた<風帝ライザー>を槍で貫き、振り向きざまに背後から迫っていた<炎帝テスタロス>を斬り伏せる。
 <風帝ライザー>を蹴飛ばし槍を引き抜くと、即時ナイトコード<ゲイボルグ>を起動。群れていた帝の集団をまとめて貫く。
 動きを止めたところで氷柱の嵐が襲ってくるが、構うことなくナイトコード<ゲイボルグ>を連続起動させ、氷柱もろとも<氷帝メビウス>を吹き飛ばす。口の中に錆の味が広がる。溜まった血を吐き出し、槍と剣を振るい続ける。だが、<イリュージョン・スナッチ>本体への道は帝の壁によって閉ざされている。
 そして、攻勢は長くは続かない。
「ぐっ……」
 脇腹が発した鋭い痛みに、<レヴァテイン>の剣閃がわずかに鈍る。仕留めきれなかった<地帝グランマーグ>の拳が、輝王の頭を殴りつけた。
 鮮血が飛び散り、視界が揺らぐ。体がふらつく。それでも放った刺突は<地帝グランマーグ>の頭部を貫き、機能が停止した帝は闇の屑になって消える。
 その隙を付いて、ナイフのように研ぎ澄まされた氷柱が輝王を襲う。咄嗟に<レヴァテイン>の刃でそれを防ぐが、
「…………っ!」
 氷柱が突き刺さった刃に亀裂が走る。それを逃さず、<炎帝テスタロス>が炎を纏った拳を<レヴァテイン>の刃に叩きつける。バキン! と音を立てて大剣が砕け散った。ナイトコード<ゲイボルグ>が破壊される前に<レヴァテイン>が壊れてしまったため、蘇生効果は不発となってしまう。
 あとは、雪崩だった。
 床を抉って作った岩のハンマー。
 突風から生み出されるかまいたち
 小型の太陽のような火球。
 それぞれが矢じりのように磨き上げられた氷の結晶。
 全てを押し潰す無限の闇。
 足が止まった輝王は、様々な攻撃に晒され続けた。
 シールド・コードによる防御もままならなくなり、四肢がもげないのが不思議なくらいだった。両足で立っていられるのが奇跡だった。
 断続的に意識が途切れる。体中から血が吹き出しているのを認識するが、それを防ぐ術はない。
 ――それでも。
 全てを手放し、諦めることだけは――

「――よう」

 急に視界が切り替わる。絶え間なく続く攻撃が、強制的に意識の外へと追いやられる。
 そして、目の前には、死んだはずの親友が自信満々の笑みを浮かべて立っていた。
「……お前もしつこい男だな。火乃」
「せっかく駆けつけてやったってのに、そりゃねえだろ。正義」
 自然と軽口が出た。拗ねたように口を尖らせた高良火乃は、輝王の肩に手を載せる。
「どうやら、絶体絶命のピンチみてえじゃねえか」
「……そうだな」
「けど、お前には戦う力がある。守りたいものもある。それに、諦めねえって心もある」
 火乃の言葉が、心に沁みわたっていく。枯渇していた命力が満ちていくような、不思議な感覚だった。
「――なら、ここでくたばる理由はねえよな」
「……その通りだ」
「俺がちょっくら背中を押してやるよ。お前なら行けるはずだぜ。俺が辿りつけなかった場所まで、な」
 高良の幻が消えて行く。絶望的な現実が蘇ってくる。
 輝王は、恐怖を微塵も感じていなかった。
 果たすべき目的を果たすまでは、倒れるわけにはいかない。

 ――限界を、超えろ。

 親友の声が響いた気がした。
 傷だらけになりながらも形を保っていた槍を突き出し、告げる。

「――ナイトコード<バルーチャ>」

 それは、高良火乃のエースモンスターであり、数々の逆境を撥ね退けてきた切り札でもある。
 竜は、数の暴力に屈するような矮小な存在ではない。
 そして、<ドラグニティ・ドライブ>に宿る竜の刃は、ひとつだけではない。

「――オーバードライブッ!!」

 ズガガガガガガガガガガガガッ! と。
 虚空から現出した無数の槍が、雨のように降り注ぐ。
 炎も。氷も。風も。地も。闇も。帝の軍勢を、竜の刃が貫いていく。