にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage 番外編 エヴォル・ドライブ-11

 ――<ドラグニティナイト-バルーチャ>は、シンクロ召喚に成功した時、自分の墓地に存在する<ドラグニティ>と名のついたドラゴン族モンスターを任意の数だけ選択し、装備カード扱いで装備できるモンスターだ。そして、装備したモンスターの数だけ攻撃力が×300ポイント上昇する。
 通常のナイトコード<バルーチャ>は、「ドラゴン族モンスターを任意の数だけ装備カード扱いで装備する」という部分に解釈の重点を置き、破壊された他コードの武装や、ナイトコード<ガジャルグ>の効果によって墓地にストックした武装を呼び出すものである。優れた使い手なら上記の手順をスキップしてそのまま武装を生み出すことができるが、その数は<ドラグニティナイト-バルーチャ>が装備できる最大枚数と同じ5本が限度である。連続起動による本数の増幅は可能だが、ここまでの数を呼び出すことは不可能だ。
 ゆえに、オーバードライブ。
 コードそのものを破壊しかねないほどの多量の命力をつぎ込み、酷使することで限界を越えた力を引き出す。ナイトコード<バルーチャ>の場合は、<ドラグニティ>武装の大量現出。
 輝王を中心として円形に広がった、槍が無造作に突き刺さった空間。それぞれが必殺の力を秘めた竜の刃だ。
「……最後の抵抗っテわけか。ケド、そんなボロボロの体でどこまで保つかな!?」
 額の傷から流れる血のせいで片目の視界は塞がり、意識も朦朧としている。全身から流れ出る血は、未だ収まる気配を見せない。それでも、親友に背中を押してもらった以上、無様な姿を見せるわけにはいかない。
 無数の分身を破壊された<イリュージョン・スナッチ>だったが、その気勢は衰えない。失った枠を埋めるように現れた帝たちが、輝王を押し潰さんと前進を始める――
「――<ブラックスピア>」
 刹那、先頭に立っていた<炎帝テスタロス>の胴が、漆黒の細槍に貫かれた。
 輝王は手近にあった<ファランクス>と<パルチザン>を引き抜くと、跳躍。
 帝の軍勢の真っただ中に跳びこみ、力任せに薙ぎ払う。それだけで10体を越える帝がまとめて吹き飛んだ。密集地帯に踏み込んだことが功を奏したのか、相手は同士討ちを恐れて大掛かりな攻撃を仕掛けてこない。
(――好機、などと意気込む必要はないッ!)
 <パルチザン>を地帝の脳天に突き刺し、<ファランクス>の斬撃で吹き飛ばす。
 空いた手には新たに<コルセスカ>を呼び出し、背後を狙っていた氷帝を薙ぐ。
 まさに、乱舞。
 暴風が荒れ狂うように斬撃を繰り出す輝王の前に、帝たちは塵のように消え去るしかない。
 このまま、本体を叩き潰す。
「……調子に乗るなよ! 青二才ッ!」
 分身たちに攻撃を任せ傍観に徹していた<イリュージョン・スナッチ>――<邪帝ガイウス>が叫びながら右腕を振るうと、輝王を囲う輪の外側にいた帝たちが、全て<邪帝ガイウス>へと姿を変える。
(<ガイウス>の群れに紛れた……こちらを撹乱するつもりか?)
 輝王の推測は、半分だけ正しい。
 <邪帝ガイウス>の軍勢が一斉に右手を突き出すと、あちこちの空間がねじれるように歪んでいく。
「これは――」
「デモンズ・グラビティ・アバランチ――オレの分身もろともまとめて削れちまいなァッ!」
 空間そのものを削り取り、除外するデモンズ・グラビティの絨毯爆撃。謁見の間そのものを消失させてしまうのではないかといった攻撃に、無数の帝たちが砕け散り、歪みに呑まれていく。
 逃げ場はなく、ナイトコード<ゲイボルグ>による突破も及ばない。
 輝王の体が、空間の歪みに捕まる。
 ベキベキベキ! と、鉄くずを無理矢理圧縮したような音が響き渡った。
「キキキ! キキキキキ!」
 <イリュージョン・スナッチ>の高笑いが収まると、歪な巨大クレーターが姿を現した。跡形もなく削り取られた空間には、生命の気配はひとかけらも――
「あ……?」
 クレーターの底。帝の甲冑の残骸が広がるそこに、青年は立っていた。
「バカな……オレのデモンズ・グラビティは、シールド・コードで防げるような代物じゃ……」
「……だから、別の力を使わせてもらった」
 見れば、輝王の前に薄緑色の障壁が出現している。そこには、竜の頭部を象った紋章が刻まれている。
「<竜騎士の盾>というカードを知っているか? <ドラグニティ>モンスターをあらゆる破壊から守る罠カードだ」

竜騎士の盾>
通常罠(オリジナルカード)
このカードを発動したターン、自分フィールド上に表側表示で存在する「ドラグニティ」と
名のついたモンスターは、魔法・罠・効果モンスターの効果では破壊されない。

「それがどうした! オマエも知っテいるだろう! <邪帝ガイウス>の効果は破壊ではなく除外! 例えそのカードの効果を術式によっテ具現化したとしテも、防げるわけが――」
 そこで真相に気付いた<イリュージョン・スナッチ>は、一度口を止める。
「まさか、それもオーバードライブっテやつの……」
「正解だ」
 <竜騎士の盾>――コード<ドラゴニック・シールド>の効果を限界突破させることによって、デモンズ・グラビティがもたらす除外も防いでみせた。
 そして、今の問答で<イリュージョン・スナッチ>本体の位置は把握した。
「ナイトコード<バルーチャ>――オーバードライブ!」
 輝王が叫ぶと、再度無数の槍が周囲に現出する。その内の1本を両手で握り、元凶に向けて構える。
 ――竜の魂を、一点に集中させる。
 突き刺さった槍が光輝く波動として姿を変え、輝王の構える槍に収束していく。
 槍はそのフォルムを変化させ、竜の顎を模した突撃槍となる。
 収束した波動が溢れ、光の翼となって後方に流れていく。
「クソッタレガアアアアアアアアアアアアアッ!!」
 <イリュージョン・スナッチ>の咆哮が轟き、<邪帝ガイウス>の群れが次々と闇の銃弾――デモンズ・ショットを放つ。
 だが、展開された<竜騎士の盾>を破ることは叶わない。集う魂を止めることはできない。
(――いや!)
 輝王は即座に<イリュージョン・スナッチ>の狙いを看破する。
(今のデモンズ・ショットは目くらましか。本体はどこだ……!?)
 ただでさえ狭い視界が闇の銃弾に覆われた瞬間、本体は再度<邪帝ガイウス>の群れに紛れ、その姿をくらました。
 これから放つ攻撃は、正真正銘輝王の最後の力を振り絞ったものだ。しかし、それでもこの軍勢をまとめて吹き飛ばすだけの威力はないだろう。確実に本体を仕留める必要がある。
(姿を隠したのは、本体を狙われることに不都合があるせいだ。狙いは間違ってはいない)
 見当違いの方向に攻撃を放てば、分身を吹き飛ばしたところで力尽き、<イリュージョン・スナッチ>は悠々と輝王を殺すことができる。それは避けなければならない。
 瞬時に考えを巡らせた輝王は、
「……そうか」
 立ち止ったまま、開いていた片目を閉じた。
 視界が完全に闇に覆われる。ここで<イリュージョン・スナッチ>が歓喜の雄叫びでも上げてくれれば声で位置を特定できるのだが、それは向こうも想定済みのようで、耳に届くのは槍に収束している波動の振動だけだ。
 脳裏に浮かべるは、盲目の元シスター。
 輝王は彼女のように生物を色で見ることはできない。
 だが、もしイルミナ・ライラックに特殊な力が備わっていなかったとして……彼女は他人の心の機微に疎くなってしまうだろうか。
 きっと、違う。彼女は感情を色で見ることができなくても、相手の気持ちを察することができる人間だろう。イルミナには、そう思わせるだけの優しさがある。
(――見えなくても、感じることはできる)
 ――心で捉えるんだ。<イリュージョン・スナッチ>の、底なしの悪意を。
 そして、闇の中に浮かび上がる、汚れた揺らめき。
 狙いは定まった。
 閉じていた片目を開く。<邪帝ガイウス>の軍勢は、それぞれ闇の剣を握りしめ、輝王に向かって飛びかかってくる。
「消えろよ! デモンズ・ブレイバーッ!」
 どこからか声が響く。その元を辿る必要はない。
 突撃槍の穂先が、1体の<邪帝ガイウス>を捉える。

「――インフィニティ・ドライブッ!!」

 雷を纏った光の波動が、突撃槍から放たれる。
 それは、ナイトコード<バルーチャ>オーバードライブによって生み出した武装を魂へと変換し、攻撃の波動へと転化させたもの。
 竜の魂を、ひとつに繋ぎ合わせたものだ。
 光が闇を散らし、<邪帝ガイウス>――<イリュージョン・スナッチ>を呑みこんでいく。
「そんなッ……オレが……オレの人生がッ! こんなところで――」
「消えろ、<イリュージョン・スナッチ>。人は貴様のおもちゃではない」
 <イリュージョン・スナッチ>が救いを求めて伸ばした手は、誰にも掴まれることなく消えていく。
 帝の姿を偽り、その偽りをさらに増殖させた哀れな悪魔の終焉だった。
 本体が消えたことで分身の帝たちも消失し、謁見の間に静寂が戻る。
 深・術式によって創り出されていた空間は、術者が消えたことで、光の屑になって崩れていく。
(……これで、今度こそ本当に終わり、か)
 命力の枯渇によって術式が解除される。それだけではなく、力という力全てが抜けていく感覚を覚える。しかし、約束を果たすためには、まだ倒れるわけにはいかない。
 視界が柔らかな光に包まれ――いつの間にか、輝王はイルミナの家の居間に立っていた。傍らには、意識を失って倒れている鎧葉の姿がある。
 そして。
「正義……さん……!」
 負傷した捜査官の応急手当てを終えたところだったのだろう。心労を表情に滲ませたイルミナが輝王の姿に気付くと、その瞳から涙が流れる。
 途切れそうになる意識を懸命に繋ぎとめながら、輝王はもう一度言う。

「……ただいま。シスター」

 イルミナはゆっくりと輝王に歩み寄ると、そっとその体を抱きしめる。

「おかえりなさい。正義さん」