にわかオタクの雑記帳

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遊戯王 New stage 番外編 エヴォル・ドライブ-エピローグ

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 中庭に集まった仲間たちの元へ歩み寄っていく輝王正義を、奏儀白斗は詠円院の屋上から眺めていた。干されたシーツと同じような純白な髪が風になびき、白斗は鬱陶しそうに目を細める。
「どうだった? 輝王正義は」
 背後から声をかけてきたのは、早速咥えたタバコに火をつけた東吾だ。
「見てたんだろ? 紛い物とはいえ、深・術式の使い手を倒すほど成長したぜ、あいつは。お前さんのご期待に添えるんじゃないかね」
 美味そうにたっぷり煙を吸い込んだ後、洗濯済みのシーツから離れるように歩いた東吾は、フーッと息を吐いた。白斗は東吾を一瞥してから、中庭へ視線を戻す。
「……ダメだな。あれなら、瀧上サンに力を貸したままのほうが幾分かマシだったろうぜ」
 そして、不満を顕わにして辛辣な言葉を吐き出した。
「あらら。実力は十分だと思うがね」
「単純に強いってだけじゃダメなんだよ。アイツは、どれだけ追い詰めようとも最後の最後で殺しを躊躇う人間だ。俺が<イリュージョン・スナッチ>のような化物なら話は違うだろうが、相手が人である以上、アイツの力は命を奪うことはない。瀧上サンの言葉を借りるなら、牙の抜けた人間に興味はないってとこか」
「そうかい? 俺の目には違って見えたけどな。例えば……あそこにいる仲間の誰か1人でもお前さんに殺されれば、復讐鬼に逆戻りしそうな気がするがね。強い覚悟と共に立てた誓いを守れないってのは、輝王みたいなタイプにとって絶望のどん底に叩き落とされるくらいショックだろ?」
「アイツは……輝王正義はそういう域を抜けちまったよ。表面上は俺に憎しみを抱いても、最後の最後にゃトドメを刺さずに立ち去っていくだろうぜ。キザすぎて反吐が出る」
「あ、そう。まあお前さんがそう思ってるならいいけど。せっかく冬眠状態だった<イリュージョン・スナッチ>をけしかけてバトルをセッティングしてやったのに、結果がこれじゃ骨折り損のくたびれ儲けだよホント。報酬はずんでもらってもバチは当たらないよな?」
「……あとで追加の金振り込んどくよ」
「毎度」
 早々に1本目のタバコを吸い終えた東吾は、携帯灰皿に吸殻を突っ込んでから2本目のタバコに火を点けた。
「<イリュージョン・スナッチ>が紛い物ってのはどういう意味だ?」
「あれは深・術式<帝王の降臨>を量産化して軍隊を作ろうって計画の中で、人工的に生み出された精霊だよ。特別な能力を持たなくても視認することができるし、オリジナルより力は劣る。<帝王の降臨>の本物の使い手は別にいるし、<イリュージョン・スナッチ>のオリジナルはどっかの研究所に保管されてるはずだ」
「<雷帝ザボルグ>の姿がなかったのはそのせいか?」
「本来なら<光帝クライス>の力も使えるんだよ。コピーに過ぎない<イリュージョン・スナッチ>は本能的に気付いてたのさ。自分が影に紛れることでしか生きられない弱い存在だってことを。だから、影をかき消すほどの強い光……<雷帝ザボルグ>や<光帝クライス>の分身を生み出すことを無意識的に避けた」
「その2体の分身がいたとしても、結果は変わらなかったろうけどな」
 白斗は忌々しげに舌打ちをする。実力が申し分ないからこそ、ある意味悟ってしまった輝王の姿が気に食わないのだろう。
「……人から恨まれたいのなら、それこそ魔王にでもなりゃいいのに。みんなこぞってお前さんを殺そうとするだろうよ」
「ある意味魅力的な提案だが、答えはノーだ。俺は、心の底から『人を殺したい』って殺意に晒されながら戦いたいんだ。極限まで研ぎ澄まされた緊張の中でしか感じることができない刹那の快感……あれを味わっちまったら、もう戻れねえ。その一瞬のために、殺意を育てるなんて回りくどいことしてんだよ」
「あー、はいはい。そのセリフは聞き飽きたわ」
 白斗の隣に並んだ東吾は、微笑を浮かべながら仲間と談笑している輝王に視線を向ける。
「輝王正義を見放すなら、目下のお楽しみは薬師寺藍子かい?」
 東吾の問いに、白斗は口の端を釣り上げた。
「いいや。そっちはまだ時間がかかるだろうぜ。今回で唯一の収穫だから、大切に育てていかないとな」
 いずれ現れるだろう復讐の念に満ちた彼女の姿を想像し、白斗は愉悦に震える。
 そんな彼を呆れ顔で見つめた東吾は、紫煙と共に言葉を吐き出す。
「……結局は、お前さんの弟が本命で変わらずってわけか」
 白斗は、その日一番の笑顔を浮かべた。
 途方もなく歪んだ期待を、その内に秘めながら。