にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage 番外編 エヴォル・ドライブ-6

 指先から放たれたそれは、闇を凝縮させた弾丸だ。指の数と合わせた計5発の弾丸が、輝王を撃ち抜かんと迫る。
 基礎術式によって高められた輝王の神経が、弾丸の軌道を網膜に映す。速さも威力も申し分ないだろう。
 だが、瀧上のコード<ライトパルサー>が放つ光の矢と違い、その軌跡はあくまで普通の銃弾と同じだ。途中で消失したり、曲がったりすることはない。
 ゆえに、回避することはたやすい。
 輝王は弾丸を避けつつ鎧葉との距離を詰めるため、右斜め前方の空間へ跳ぶ。
 ――そこで違和感があった。
 五指から放たれた闇の弾は、その気になれば回避範囲を狭めるために扇状に発射することも可能だったはず。にもかかわらず、ひと塊にして一直線に輝王を狙った理由は、単純に威力を底上げするためか、それとも――
「デモンズ・グラビティ」
 鎧葉が呟くのと、輝王が急制動をかけるのはほぼ同時だった。
 瞬間、輝王が着地するはずだった場所を中心として、半径1メートルほどの範囲が円形に『削られる』。隕石が衝突したかのようなクレーターとなった床の淵で、輝王は息を呑んだ。
(今のは……床だけではなく空間を削り取ったのか?)
 <邪帝ガイウス>は、アドバンス召喚に成功した時にフィールド上のカードを1枚除外する効果を持つ。その効果の具現化――空間を丸ごと除外したのだ。
「誘導はばれていましたか。さすがですね」
 輝王の予測通り、最初の弾丸は回避させるための囮。鎧葉の思惑通り、あの地点に跳んでいれば、輝王はそのまま――
 後輩の発する殺意が偽りでないことを改めて認識し、輝王はやりどころのない感情を右拳に込め、槍の柄を強く握りしめる。
 鎧葉が自分を殺そうとしている。そして、自分は後輩に対して怒りを覚えている。戦う理由は十分であり、戦闘は避けられないものだ。
 それでも、怒りや復讐心に身を任せることがあってはいけない。
 今、目の前にいる男が、鎧葉涼樹という人間の全てではない。輝王はそう信じている。
 これまで共に過ごしてきた光景が、スライドショーのように脳裏に蘇る。
 純粋な瞳で輝王を尊敬していたあの表情が、嘘偽りのものとは思えない。
 過ぎた力は人を狂わせる。
 なら、輝王が破壊すべきは――その力だ。
「……鎧葉」
「何です?」
「お前の目を覚ましてやる」
 言葉を決意に変えて。
 輝王は、両脚に溜めた力を爆発させ、跳ぶ。
 歪んだ力を穿つために。
「――――ッ!」
 一瞬だけ反応が遅れた鎧葉は、両手を振るい闇の弾丸を発射する。計10発。今度の軌道は扇状で、発射のタイミングをずらすことによって回避を困難にしている。
 輝王に直撃するコースを進んでいるのは1発のみだが、その1発を右か左に避ければ別の弾丸が襲いかかってくる。さらにそれも避ければその次といったように、半端な回避は自分で自分を窮地へ追い込むことになる。上へ跳ぶ回避方法もあるが、空中で身動きの取れない状態を晒せば、狙い撃ちされるのは目に見えている。輝王は一度床に着地すると、回避を捨て、そのまま前へと進む。
「はっ! 基礎術式のシールド・コードだけで防げるほど、僕のデモンズ・ショットは甘くないですよ!」
 それが真実なら、切を撃ったとき相当手加減をしていたというわけか――
 輝王は鎧葉の言葉には答えず、シールド・コードによる障壁を展開させる。
 ただし、その対象は自分自身ではない。
「――シッ!!」
 目を見開き、標的を完璧に捉えた後、輝王は鋭い刺突を放つ。
 槍の穂先が闇の弾丸と激突する。
 ビキリ、とひび割れた音が響き――
 砕けたのは、闇の弾丸のほうだった。
「……っ、シールド・コードで槍を保護して強度を高めたってわけですか」
「その通りだ」
 他の弾丸が輝王の脇を掠め、背後へと流れて行く。刺突の勢いに任せ、輝王はそのまま前方へと跳躍する。
「けど! 先輩ならそれくらいはやってくれると思ってましたよ!」
 気付く。目の前の空間が、中心から巻き取られていくように歪んでいることに。
「削れろ――デモンズ・グラビティ!」
 半径1メートルの空間を除外する攻撃。先程のように急制動をかけても、すでに攻撃の範囲内だ。一度着地して後ろへ飛び退こうとも、範囲外まで逃れることはできないだろう。
(このまま黙ってやられるつもりはない――!)
 瀧上戦と違い、命力のストックは十分だ。
「ナイトコード――<ゲイボルグ>!」
 <ゲイボルグ>の力は、簡単に言えば刺突の威力を上昇させること。貫通力の強化だ。
 そのために刃は金色に輝き、より鋭く尖った形へと変化する。
 だが、それだけではない。
 柄尻からロケットエンジンを点火したような爆発的な推進力が生まれ、輝王の体が加速する。
「なっ――」
 突進の勢いを高めることによって、威力を増加させる。それもナイトコード<ゲイボルグ>に付随した能力だ。
 結果、加速した輝王はデモンズ・グラビティの範囲外から逃れ、
「鎧葉ッ!」
 後輩へと肉薄する。