にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage 番外編 エヴォル・ドライブ-7

「先輩……!」
 二度も攻撃を避けられた鎧葉の表情は、兜によって覆い隠されている。
 あと1メートルといったところでナイトコード<ゲイボルグ>の効果が終了し、輝王は足をつけざるを得ない。
 ――ここで選ぶ次の一手は何か。
 瀧上戦の経験で命力の最大値が上昇したおかげか、反動は大きいもののナイトコード<ゲイボルグ>の連発は可能だ。ここを勝負どころと見るなら、迷わず撃つべきである。
 だが、デモンズ・グラビティを放ったあとの鎧葉の挙動には、若干の余裕がある。自身も効果範囲内にいるためデモンズ・グラビティの使用は不可能だが、もし二発目の<ゲイボルグ>を防がれ、反撃に転じられた場合、立て直しは困難を極めるだろう。それなら――
「接近戦がお望みなら、こいつで!」
 鎧の隙間から溢れ出ていた闇が鎧葉の右手へと集い、ゆらゆらと揺らめきながらも一振りの剣を形成する。
 鎧葉が構える前に、輝王は中段からの突きを繰り出す。
 ガキン! という鈍い手ごたえ。槍の穂先は黒の甲冑をわずかに抉っただけだ。通常攻撃では、有効なダメージを与えられないらしい。
 輝王の動きが止まり、懐に入れまいと鎧葉が闇の剣を振るう。
「アームズコード<レヴァテイン>!」
 輝王は空いていた左手に魔剣の名を冠した大剣を握ると、放たれた斬撃を受け止める。
 限界を越えた状態で力を振り絞り、ようやく形にした瀧上戦とは違い、今度のアームズコード<レヴァテイン>は武装としても優秀な攻防力を持つ。あの時のように簡単に砕かれはしない。ナイトコード<ゲイボルグ>のような爆発力はないが、そのおかげで命力の消費が少ないため、軽い負担で作り出すことができる。
「……普通の武器だったら、そのまますり抜けていたんですけどね」
(術式の力を帯びた武装だからこそ、闇の剣を止めることができたということか)
 硬直。両者の力が拮抗し、せめぎ合う。
「……先輩。覚えてますか? アカデミア時代、いじめられていた僕を助けてくれたこと」
 闇の剣に込められた力は変わらないものの、兜の下にある鎧葉の表情が和らいだような空気を感じる。
「僕をいじめていたやつは、ずる賢くて、卑怯で、僕が生意気な口をきいたっていう理由だけでいじめの標的に選んだんですよ。先生や他のクラスメイトに見つからないよう、陰でこそこそとねちっこく僕をいじめて、ストレスを発散していたんです。それに気付いてくれたのは、輝王先輩だけでした」
「…………」
「先輩は、そいつが退学処分を食らうまで追い込んでくれました。あの時の晴れやかな気分は、今でも忘れられません。先輩、言ってましたよね? 法律が悪事にふさわしい裁きを与えないのなら、誰かがそれをするべきだって。僕はそんな先輩に憧れて、この人に付いていこうと決めたんです」
「……罪人に対する裁きは、個人が感情に任せて行うものじゃない」
 昔、自分が胸に抱いていた信念が、今は傲慢だと感じる。たった1人の思考だけで罪を裁けるほど、物事は単純にはできていない。輝王はこれまでの経験でそれを学んだ。
「なら、もっと冷酷になってください。犯罪者の側面を見ようとしないでくださいよ。悪はただ罰せられればいい。物事の本質なんていらない。あなたは、表面上の正義をなぞって人々から尊敬される、完璧な人でいなきゃいけないんです」
「上辺だけの正義を着飾ることに、何の意味がある!」
「それでも、私怨のために闇の中へ片足突っ込んだエセヒーローや、人を殺したくせに偽善者の真似事をしているガキとつるむよりはマシです! あいつらの思考に染まらないでくださいよ、輝王先輩!」
「火乃や切のことを言っているのか? 確かに、俺は彼らから影響を受けて変わった。昔の俺と今の俺、どちらが正しいのかは分からない。だがな、本当の意味で人々から尊敬される人間というのは、正義や悪といった垣根を越えた先にある、大切なものを守れる人間だと俺は考えている。お前がそれを否定するのなら、ここで刃を下げることはできない」
「……荒療治を選んだのは正解でしたね。これを矯正させるのは骨が折れそうだ」
 輝王の言葉は、漆黒の甲冑に阻まれ届かない。
「――デモンズ・ショット!」
 鎧葉の左手から闇の弾丸が発射された瞬間、その予兆を感じ取っていた輝王はすでに動いていた。
 左腕に力を込め、黒の剣を撥ね退ける。同時に槍を離すことで、貫通されまいと踏ん張っていた力が行き場をなくし、鎧葉の体勢が崩れる。
 放たれたデモンズ・ショットは当人の想定していた軌道よりもやや上向きに流れ、輝王は体勢を低くすることによってそれを回避。相手の剣を撥ね退けた位置に残しておいた大剣を引き戻すように、袈裟切りを放った。
「ぐうっ!」
 体重の乗った斬撃に、黒の甲冑には大きな傷跡が刻まれ、鎧葉の体が後方に吹き飛ぶ。苦悶の声を漏らした鎧葉は、体勢を整えつつ着地する。両者のあいだに距離が生まれた。
 そこで、輝王は感じた。
 兜の下にある鎧葉の顔に、目論見通りと言わんばかりの笑みが浮かんでいることを。
「こいつはね。接近戦もできるってだけで、本来の用途は違うんですよ」
 悪寒が体を駆け巡り、輝王は流れてしまった体を立て直そうと跳ね起きる。
 が、遅い。
 さらなる闇が、刻まれた傷跡から溢れ出る。それは右手へと収束し、剣は巨大な刃へと変貌していく。
 垂直に構えられたそれは、最早剣と表すには大きすぎる。
 塔。
 右手に握られた、持ち手の部分だけが異様に細い闇の塔は、
「デモンズ・ブリンガー」
 鎧葉の言葉と共に振り下ろされる。
 逃げ場はない。
(受け止めるしか――)
 輝王は大剣を水平に構え、肥大化した闇の刃を止めようとする。
 止められなければ、待っているのは死だ。
「この程度の闇を吹き飛ばせないようじゃ、あなたは輝王正義を名乗る資格はありません。歪んだ思想を抱えたまま、地獄に落ちてください」
 氷柱のような冷たさと鋭さをもった鎧葉の一言が、闇を貫いて届く。