にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage 番外編 リボーン・ドライブ-3

「おう、そうだ。お前らに伝えておくことがあったんだ。えーと、正式な辞令は来てたっけな……」
 言いながら東吾は散らかったデスクの上を漁り始めるが、1分も経たないうちに探すのを諦め、代わりにタバコを1本取り出して慣れた手つきで火を点けた。
「輝王、鎧葉。今日から例の連続殺人事件の捜査に加わってくれや」
 その言葉に、ピクリと反応する。輝王たちは老人ばかりを狙ったひったくり犯の行方を捜査しており、昨日隠れ家に潜伏していた犯人を逮捕したばかりだ。これで抱えていた案件はひとまず片付き、別の事件の捜査に加わることになるだろうと予想はしていたが……
「連続殺人事件……」
「2週間前にホームレスの男が殺されたアレだよ。WRGPの開催を控えているせいか、上もピリピリしててな。目立った事件は早急に解決したいんだろ。市民からセキュリティの能力を疑われるようなことになりゃ、抑止力が弱まってWRGPを狙ったテロ行為が起きかねないからな」
「で、腫れ物扱いの六課からも人員を割くことになったわけですか」
 鎧葉の皮肉交じりの言葉に、フーッと煙を吐き出した東吾は「そういうこと」と頷く。
「本当は赤星のヤツが呼ばれてたんだけどなぁ。アイツ、不良の喧嘩の止めるためにまた拳銃ぶっ放したらしくて、とうとう島流しになっちまった。今日から離島勤務だってよ」
「ええー……」
 鎧葉は苦笑いを浮かべていたが、輝王は彼ならやりかねないだろうと思っていた。この場で赤星ヒュウという男に関して詳しく語ることは避けるが、何かにつけて拳銃を撃ちたがる男なのだ。
 ともあれ、これで輝王と鎧葉は正式に連続殺人事件の捜査を行うことができる。これだけ重い事件だ。輝王も担当外ながら、空いた時間を使って調査を進めていた。
「鎧葉。事件の資料は……」
「もう用意してありますよ」
 輝王の言葉を予測していたように、隣に立つ鎧葉は事件の経緯をまとめた書類を差し出してくる。性格に難はあるが、能力は高い――鎧葉もある意味六課に属する人間らしいのかもしれないと、最近思うようになってきた。
「事件が起こったのは2週間前ですね。深夜、ホームレスの男性が路地裏で血を流して倒れているのを、近くに住む学生が発見しました。発見当時、すでに被害者は死亡していました。胸部を鋭利な刃物と思われるもので刺されており、そこから大量に出血したため死亡したと思われます。ですが、現場付近に凶器らしいものは落ちていませんでした」
「類似した事件が、1ヵ月前に現場近くで起こっていたため、同一犯の犯行と見て捜査中、か」
「はい。最初の事件の被害者は、キャバクラに勤めていたホステスでした。彼女も胸部を刃物で刺されており、ホームレスの男性と同じく、すでに死亡していました」
「街頭に設置された監視カメラに犯人らしき人影はなし……」
 当然、過去に罪を犯した証であるマーカーの反応もない。シティとサテライトの統合後、マーカーの刻印は廃止されたが、今でも要注意人物と判断された犯罪者に関しては反応を探知できるようになっている。
「被害者2人に共通点は無く、犯人の動機は不明ですね。同一犯であるならですけど」
「サイコデュエリストが犯人である可能性は?」
「捜査本部はその線が濃厚だと見て、アルカディアムーブメント跡地から情報を収集しているようです。現段階では、成果らしい成果は出ていませんが」
 アルカディアムーブメント……かつて裏でサイコデュエリストによる軍隊を作り上げようとしていた組織で、現在は総帥を失ったことで事実上崩壊している。
 デュエルモンスターズのカードのモンスターや、魔法・罠カードの効果を実体化できるサイコデュエリストなら、一切の証拠を残すことなく殺人を犯すことも可能であり、そうなると犯人の特定は非常に難しいものになる。アルカディアムーブメントに残された資料で、サイコデュエリストの全てが分かるとも考えづらい。
「もしこのまま犯人に繋がる手掛かりが見つからなければ、犯人がもう一度人を殺す現場を押さえるしかありませんね……」
「殺人を期待するような発言は慎め。……事件でサイコパワーが用いられたか否かの調査はすでに行っているのか? 確か――」
「力の残滓を辿る、みたいな感じですよね? 複数のサイコデュエリストに協力を仰いだようで、現場に何らかの特異な力が働いていたのは確実だそうです。が、特定は難しいと」
「なるほどな。それで犯人をサイコデュエリストに絞っているのか」
 捜査本部と自分の考えがほぼ一致していることを確認した輝王は、立ち上げたパソコンを使って、とあるファイルを開く。これは輝王が今日まで独自に集めた情報をまとめたもので、アルカディアムーブメント崩壊後、行方が分からなくなっているサイコデュエリストや、組織の管理下になかった能力者たちをまとめたリストが入っている。情報源は切や神楽屋、そして同僚でもあった高良が残していった資料だ。
 すでに疑わしい人物は何人かピックアップしているが、どれも決め手に欠ける。やはり、犯人に繋がる確固たる証拠が欲しい。
「あと、最初のホステス殺害から今日まで起こった事件をまとめておきました。先輩の役に立つとは思えませんけど、一応目を通しておいてもらえますか?」
 輝王の邪魔をしないよう配慮したのか、鎧葉が遠慮がちに書類の束を差し出してくる。この手の資料はデータファイルにまとめるのが常識となっているが、鎧葉はアナログな手段を好んでいた。何でも、父親が作家だったため幼いころから紙媒体に触れる機会が多く、紙に出力しないと落ち着かないらしい。輝王としても長時間パソコンとにらめっこするのは可能な限り避けたいので、わざわざ手段を改めさせるようなことはしていない。
「……必要だと思ったから用意したんだろう? 役に立たないなんて決め付けるな。ありがたく使わせてもらう」
「先輩……!」
 礼を言いつつ資料を受け取ると、鎧葉は歓喜に身を震わせていた。これ以上関わると面倒くさいことになりそうなので、早々に受け取った書類に目を通す。
 最初の殺人後から今日までの事件のまとめといっても、全てを羅列していたのでは膨大な量になってしまうため、明らかに関係がなさそうなものは省かれている。挙げられた事件の詳細は書かれていないが、改めて振り返ると、たった1ヵ月でこれだけの事件が起きているのかと陰鬱な気分になってくる。
 シティとサテライトの垣根が取り払われたことで、辛辣な生活を強いられていた貧しい人々は解放され、自由を得た。しかし、物事には必ず表裏があり、サテライトの解放も例外ではない。シティとサテライトを自由に行き来できるようになったことで、押し込められていた犯罪者たちもその恩恵に受けたのだ。当然、治安維持局も旧サテライト地区の「整備」など対策は打ったが――全てを防ぐのは難しい。以前よりも治安が悪化するのは避けられなかった。
 横道に逸れそうになる思考を元に戻し、輝王は連続殺人事件の手掛かりになりそうな事件を探すことに専念する。