にわかオタクの雑記帳

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遊戯王 New stage 番外編 エヴォル・ドライブ-5

 視界が回復したとき、輝王はイルミナの家ではなく、全く別の場所にいた。
「ここは……」
 見覚えのない場所だ。床に真紅の絨毯が敷かれた石造りの空間は、中世の城の謁見の間を連想させる。かなりの広さで、向かい側の壁がかすんで見える。部屋の隅に設置された階段を登れば2階部分に行くことができるようで、張りだしたテラス部分からは1階の様子が一望できるようになっていた。
 何らかの方法で、強制的に転移させられたようだ。ここはネオ童実野シティのどこかなのか、それとも――
 気付けば、胸の中に飛び込んできた鎧葉の姿がない。
 視線を正面に向ける。輝王が立っている場所よりも一段盛り上がったそこには豪奢に飾られた玉座がひとつ。鎧葉は、不敵な笑みを浮かべながらそこに座っていた。
「ようこそ、僕の城へ。ここは僕の術式の力で作り出した亜空間……王の間とでも呼びましょうか」
 空間の創造……異世界を丸ごと創り出した邪神使いの青年と同じような力だろうか。
「今日、先輩はここで生まれ変わります。堕落した今を破壊し――僕の理想の輝王正義になるんです」
「…………」
 恍惚の表情を浮かべる鎧葉に、輝王は言葉が出ない。最早、鎧葉が抱く感情は尊敬の域を大きく逸脱している。
「そのために僕はあいつらを殺したんですから。輝王先輩の人生に泥を塗った恥ずべき連中……底辺のくせに先輩の同情を買おうと安い演技をしたホームレス、薄汚れた体で先輩に色目を使ったホステス、そして先輩を殺そうとしていた寺山……あと、できるなら瀧上も殺してやりたかった。先輩が負けたなんて事実、この世に存在してはいけないですからね」
「鎧葉、お前は――」
「高良火乃が勝手に死んでくれたのはラッキーでした。先輩を悪い道に引き込んだ極悪人でしたからね。先輩があいつに毒されていく様は、見ていられなかった。だから僕は輝王先輩から離れたんです。けど、最大の邪魔者が死んだことを知って、先輩が昔みたいに戻ってくれるんじゃないかって期待してたんです」
 高良と知り合い、輝王は変わった。その変化を輝王自身は良いものだと捉えていたが……他の人間が同じように思っていたわけではない。
「先輩に会うために治安維持局に入って、最初は失望しました。元に戻るどころか、より症状が悪化してましたから。でも、せっかく同僚になれたんだから、自分が道を正してあげればいいんだって気付いたんです。それからは頭がスッキリと冴えわたって! サイコデュエリストの友永切を襲うときはちょっと緊張したんですけど、全然大したことありませんでした! あいつも高良火乃並みに先輩を駄目にしていた奴でしたからね。いいタイミングで始末できたと思ってますよ」
 まるで、テストで満点を取ったことを褒めてもらいたい子供のように、犯行の詳細を語る鎧葉。彼の言葉を信じるなら――治安維持局の捜査官である鎧葉涼樹が、連続殺人事件と切襲撃の犯人だということだ。
「あとは、戯言を並べて先輩を籠絡しようとしている元シスターを殺して――」
「鎧葉」
 何故、後輩はこんなことをしたのか。
「――少し黙れ」
 その理由が気になって黙っていたが、これ以上は我慢の限界だった。
 沸々とたぎる怒りを奥底に秘めながら、輝王は後輩――いや、仲間を傷つけた元凶を睨みつける。
「……先輩。僕はとても悪い人間でしょう? 僕のやったことを許せないでしょう?」
 その視線を受けて、鎧葉は笑みをますます濃くする。
「なら、僕を殺してくださいよ。そして戻ってください。悪を絶対に許さない――皆から尊敬される輝王正義に!」
 両手を広げ、裂けるほど口を開き、鎧葉は叫ぶ。
 その場の空気を震わせたのではないかと錯覚するほどのプレッシャーに、
「――術式解放、<ドラグニティ・ドライブ>!」
 輝王は反射的に己の武器を呼び出していた。
 風が生まれ、慣れ親しんだ槍の重みが右手に現出する。
「それが先輩の新しい力ですか。知ってはいましたけど、生で見るのは初めてですね」
 輝王の知る限り、鎧葉はサイコデュエリストでも術式使いでもなかったはずだが、すでにこの亜空間を生み出している限り、その認識は間違っていると言っていい。
「悪を裁くには力が必要です。先輩にそれが足りているかどうか……計ってあげますよ」
 鎧葉は右腕を前に突き出し、告げる。

「――深・術式解放。<帝王の降臨>」

 輝王のそれとは、少し異なる詠唱。
 鎧葉の右手から黒い蛇が無数に現れ、彼の体を覆い隠していく。
 生々しくうねっていた蛇たちは、やがてひとつの形を作り上げる。
 甲冑。
 生身の体を完全に覆った漆黒の甲冑は、輝王の記憶にあるモンスターの姿と合致した。
「<邪帝ガイウス>……」

邪帝ガイウス>
効果モンスター
星6/闇属性/悪魔族/攻2400/守1000
このカードの生け贄召喚に成功した時、フィールド上に存在するカード1枚を除外する。
除外したカードが闇属性モンスターカードだった場合、
相手ライフに1000ポイントダメージを与える。

 「帝」の名を冠するモンスターの中で、除外という強力なアドバンテージをもたらすカード。鎧葉が纏う甲冑は、<邪帝ガイウス>と瓜二つ――いや、そのものだ。
「……人が扱うために最適化された現在の術式とは違い、深・術式はモンスターと術者を融合させて力を引き出します。イメージする必要がない分、安定して高い性能を発揮できますが、代償としてリスクは高い。かつての深・術式の使い手たちの多くはモンスターとの融合が解除できなくなり、化物となって他の術式使いに襲いかかったそうです。ま、僕はそんなヘマしませんけどね」
 深・術式――東吾の口からは全く語られなかった単語だ。鎧葉の話を聞く分には、危険な力として禁術のように扱われていたのだろうか。
「加えて言うなら、僕は長い間この力を扱ってきた経験がある。ついこのあいだ術式を会得した先輩とは比べ物にならないほどの経験値がね。けど、先輩ならその程度の差なんて平気で埋めてくれるんでしょう?」
 言いながら、鎧葉は右腕を宙に掲げる。
「埋められなければ、ここで死んじゃうんですから」
 右腕が振り下ろされる。