にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王オリジナルstage 【ep-26】

 力に翻弄される自分が嫌いだった。
 力に慢心する自分が嫌いだった。
 力を恐れる世界が嫌いだった。
 力を求める世界が嫌いだった。
 何故、こんなに苦しまなければならない?

 ――それは、僕が人間だからだ。

 考えるのをやめようとしても、全てを振り切ったつもりでも。
 思考してしまう。悩んでしまう。
 力について考えてしまう。
 自分について考えてしまう。
 だから、いつまで経っても苦しみが消えない。

 ――それなら、人間をやめればいい。

 化け物――ペインになれば、苦しみも悩みも忘れられる。
 そのためには、まだ力が足りない。
 もっともっと、理性を失うほどの力が必要だ。
 奪わなければならない。
 たった一度の敗北で、ペインになることを諦めるわけにはいかない。
 この道を引き返すわけにはいかない。

 ――俺は、これからも。

 狩りを続けなければならない。
 例え、その道が破滅に繋がっていようとも。





 砂神緑雨は、倒れた。
 最後の攻撃でデュエルディスクのデッキホルダーが破損したのか、砂神のカードが周囲に散乱していた。
「勝った……のか?」
 <A・ジェネクストライフォース>と<-蘇生龍- レムナント・ドラグーン>の立体映像が消えていく。砂神が倒れたことで気が抜けてしまった創志は、半信半疑のまま口を開く。デュエルには勝利したが、今度は実力行使で襲いかかってきそうな予感がしていたのだ。予想に反して、砂神がすぐに立ち上がる気配はない。
「……デュエル中はあれだけ自信満々だったのに、今さら勝利を疑うとは。らしくないな、皆本創志」
「う、疑ってなんていねーよ。ただ、殺しても死にそうにないヤツだったから、まだ何かあるんじゃねえかと……」
「殺す気だったのか?」
「そんなわけねーだろ! 例え話だよっ!」
 うっすらと笑う輝王の顔を見て、創志は自分がからかわれていると確信する。最も、デュエルが終わったことで多少輝王の緊張もほぐれたのだろう。
「…………」
 そんな2人とは対照的に、厳しい表情のままの治輝が、砂神の元へ近づこうと一歩を踏み出す。

「おっと。それ以上主様に近寄るのは許さないよ」

 そのタイミングを見計らっていたかのように、人影が――ビルの陰にでも隠れていたのだろう――飛び出してきた。
 背はそれほど高くない。聞こえた声も中性的で、長い前髪が顔を隠してしまっているため、性別の判断はつかない。深緑色の作務衣を着た人影は、倒れる砂神の前に立ちはだかる。
「まさか、君たちが主様を倒すとは思わなかったよ。デュエルモンスターズは、運が絡む要素が比較的少なく、力の優劣が現れやすいカードゲームだと思ったんだけど……こんなこともあるんだね。びっくりだよ」
 現れるや否やぺらぺらと喋り出す作務衣姿の人間。容姿に見覚えはなかったが、嫌味な口調には心当たりがあった。
「お前、比良牙か?」
「そうだよ。本当なら姿を現すつもりはなかったんだけど、緊急事態だから仕方ないね。主様には、まだまだがんばってもらわなくちゃ」
「……どういう意味だ?」
「答える気はないな。君たちには関係のないことだよ。ラスボスを倒してハッピーエンド。それでいいじゃないか」
 輝王の問いをはぐらかし、比良牙はにやにやと意地の悪い笑みを浮かべる。体が万全な状態なら、有無も言わさずぶん殴ってるところだ、と創志は思った。
 その時、ドン! という轟音と共に、地面が激しく揺れた。
「何だ――地震!?」
 創志は驚くが、揺れ自体は一瞬で、すぐに収まる。緊張感を取り戻した輝王は、厳しい視線を比良牙に向けた。
「説明する義務はないんだけど……ラスボスを倒した特別ボーナスってことで教えてあげるよ。主様が気を失っちゃったから、この世界が崩れ始めてるんだね。心配しなくても、このままボーっと突っ立ってれば、世界が壊れると同時に君たちは元の世界に戻れるよ。僕がそうなるようにセッティングしておいたから。ああ、他の場所にいる君たちの仲間はみんな無事だ。元の世界に戻れば、すんなり再会できるだろうさ」
「お前の言葉を信じろっていうのか? 俺たちを殺そうとしたお前を?」
「信じる信じないは勝手だけど、他に何かアテがあるのかい? 僕を倒して情報を吐かせようっていうなら相手になるよ。デュエルでもリアルファイトでもね。けど、そんな状態で満足に戦えるのかな?」
「ぐっ……」
 余裕綽々といった感じの比良牙にまくしたてられ、創志は言葉を失う。
「お前の言葉は信じられないが、代案が無いのは事実だ。ここは静観させてもらう」
「輝王!?」
「……保身を考えすぎるのは、ゴミ男の典型らしいぞ」
「誰が言ったんだよそりゃ……」
 とはいえ、心身ともに疲弊した状態では、動こうにも動けない。慎重な輝王が待つと言っているのだ。下手に動いても仕方がないだろう。
「懸命な判断だね」
 言って、比良牙は砂神の体を起こす。自分の肩を貸し、腰のあたりを支えながら立ち上がらせた。
「ったく。本当に元の世界に戻れんのかよ……治輝はどう思う?」
 愚痴をこぼしつつ、創志は今まで口を閉ざしていた治輝に話を振ってみる。
 治輝は少し間を置いたあと、
「……そうだな。あいつの言葉を信じるわけじゃないけど、もし俺たちを殺したり捕えたりする気なら、今の時点でもうやってると思う。わざわざ回復する時間を与えることはしない」
「確かに……」
「でも、さ。あいつの言う通り元の世界に戻れるとしても――」
 ごく普通の会話を交わすように、治輝は言葉を続ける。

「――お前たちを、このまま帰すわけにはいかない」

 しかし、続いた言葉は――何気なく交わせるような言葉ではなかった。