にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王オリジナルstage 【ep-13】

「俺のターン。ドロー」
 静かにカードをドローした輝王は、引いたカードを横目で確認したあと、
「……俺はこのままターンを終了する」
 即座にターンの終了を宣言した。
「なっ……!?」
「お、おい輝王!? 正気かよ!」
 突拍子もない輝王の行動に創志が狼狽を顕わにし、治輝も驚かずにはいられなかった。とても<邪神アバター>を倒したデュエリストとは思えないプレイングだ。
 何故、<AOJカタストル>の表示形式を変更しなかったのか。
 すでに<エレメントチェンジ>は破壊されている。闇属性モンスターに対しては、<AOJカタストル>の効果は発動しない。このまま<邪神ドレッド・ルート>の攻撃を受ければ、当然ダメージが発生する。
「……僕を誘ってるんですか?」
 攻撃表示で残った<AOJカタストル>を訝しげな視線で眺めた砂神が、輝王に向かって言葉を投げる。
「さっきの攻撃を防いだのは、時枝治輝の<威嚇する咆哮>。今度は貴方自身が伏せたその2枚のカードで<ドレッド・ルート>の攻撃を避ける……いや、<ドレッド・ルート>を破壊するつもりですか」
「それはお前が考えることだ」
「……ッ」
 輝王に一蹴された砂神は、平静を装いつつもわずかにたじろぐ。
「……いいでしょう。なら、次のターンで確かめてあげますよ」
 これで、邪神の矛先は輝王に向いたも同然だ。
 しかし、治輝が<威嚇する咆哮>を発動したターン、輝王は伏せカードを起動する素振りを微塵も見せなかった。つまり、彼の伏せカードは攻撃に対して反応する魔法・罠ではないということだ。<AOJカタストル>の戦闘破壊が発動条件なのか、それとも――
「あんま難しく考えんなよ、治輝。輝王には輝王の考えってやつがあるんだろ」
「……そう、だよな」
 創志の言うとおり、何か策がなければこんな無謀な真似はしないだろう。今までの言動やプレイングを見ていれば、輝王がそんなデュエリストでないことは分かる。
 それでも、治輝の心中には、喉に刺さった魚の小骨のように、小さな不安がこびりついていた。

【砂神LP6000】 手札5枚
場:邪神ドレッド・ルート(攻撃)、裏守備モンスター2体、冥界の宝札
【輝王LP3000】 手札2枚
場:AOJカタストル(攻撃)、機甲部隊の最前線、伏せ2枚
【治輝LP4000】 手札5枚
場:裏守備モンスター2体、伏せ1枚
【創志LP1250】 手札2枚
場:マシン・デベロッパー(カウンター8)

「――輝王正義。貴方の真意、確かめさせてもらいますよ」
 ドローしたカードを見ようともせずに、砂神はピラミッドの頂上から<AOJカタストル>を――その主である輝王正義を睨みつける。
「やってみろ。お前にできるならな」
「……僕を侮辱したことを、後悔させてあげます! やれ、<ドレッド・ルート>!!」
 主人の怒りを代弁するかのように強く拳を握った<邪神ドレッド・ルート>が、星の少ない夜空へ向かって高々と拳を振り上げる。
 「フィアーズ・ノックダウン」。
 具現した恐怖を纏った拳が、処刑台のギロチンのごとく振り下ろされる。
「――輝王!」
 治輝は青年の名を叫ぶが、やはり動きはない。
 ぐしゃり、と。
 白金の機動兵器は、為す術もなく叩き潰され、砕け散った。
 邪神の拳が砂漠の大地を穿ち、巻き上げられた砂と共に衝撃波が起こる。
 人を吹き飛ばすなどという生易しいものではなく、触れたものを粉微塵にしてしまう、最早兵器と呼ぶべき衝撃波だ。
「……ッ! 術式解放!」
 その衝撃波を真正面から受け止めた輝王は、苦痛に顔を歪ませる。
 それでも、その両足が大地から離れることはない。
「ぐっ……!」
 輝王が着ているコートは破れないのが不思議なくらいにバサバサとはためき、デュエルディスクがギシギシと不気味な音を立てる。口の端から血が流れ、徐々に膝が曲がっていく。
「…………」
 攻撃に耐える輝王の姿を、砂神は黙って眺めていた。
 やがて衝撃波は収まり、砂神は不服そうに鼻を鳴らした。

【輝王LP3000→200】

 攻撃が終わったことで弛緩したのか、それとも我慢の限界だったのか、ふらりとよろけた輝王が片膝を突く。二、三度頭を振り、それからゆっくりと立ち上がった。
「……大丈夫か?」
 創志と比べると外見の傷は少ないが、あれだけの衝撃波を受けたのだ。悪い例え方だが、ボクサーのパンチを何十発も食らったようなダメージを受けているはずだ。拭っても垂れてくる口の端の鮮血が、それを物語っている。
 輝王の身を案じる治輝だが、そこで先程から抱えていた疑問が再燃する。
 何故、<AOJカタストル>を攻撃表示で残したのか。
 結局、輝王が何らかの効果を発動することなく<AOJカタストル>は破壊され、大きくライフを削られた。かろうじて残っているものの、200という数値では守備モンスターすら殴れないだろう。
 輝王は、一体何を狙っていたのか?

「……示す必要があった」

 その疑問に答えるように、輝王が口を開いた。
「俺は……俺たちは、どんな攻撃を受けようと、ライフが尽きなければ立ち上がることができる。それを見せたかったんだ。時枝――お前にな」
「…………」
「勝利だけを求めろ、とは言わない。だが、無理をしてまでフォローに回ろうとするな。俺たちはチームだが……強引に歩幅を合わせる必要はない。お前は、自分のデュエルをしろ」
「輝王……」
 治輝としては、無理をしてフォローに回っていたつもりはない。
 けれど、やはりどこかで焦っていたのだと思う。<邪神ドレッド・ルート>を倒す術を持ちながらも、動けなかった自分に対して。
「それに、選択肢は多い方がいいだろう?」
 そう言って、輝王は治輝の場に在る伏せモンスターを指差した。もし、<AOJカタストル>が守備表示に変更された場合、業を煮やした砂神が一気に守備モンスターを破壊してくる可能性もあった。
(だから、輝王は俺の伏せモンスターのことを訊いてきたのか……)
 仮にリクルーターをセットしていた場合、あえて戦闘破壊してもらい、デッキから目当てのモンスターを呼び出すことができる。輝王はそれを確認したかったのだ。
「へっ、カッコつけすぎだっつーの」
「お前に言われたくはないな。<機甲部隊の最前線>の効果発動。俺は<A・マインド>を守備表示で特殊召喚する」
 輝王が呼びだしたのは、黒い球体型のモンスターだ。中心には瞳のような緑色のレンズがあり、体の至るところから接続用のコードが伸びている。

<A・マインド>
チューナー(通常モンスター)
星5/闇属性/機械族/攻1800/守1400
A・O・Jの思考回路を強化するために開発された高性能ユニット。
ワーム星雲より飛来した隕石から採取された物質が埋め込まれており、
高いチューニング能力を誇る。
その未知なるパワーの謎は未だに解明されていない。

「……ふん。色々と思惑があるようですが、果たしてそれは<AOJカタストル>を失うほどの価値があるものなんですかね? 僕はモンスターを1体セット。カードを1枚伏せて、ターンを終了します」
 これで、砂神の場には<邪神ドレッド・ルート>の他に、裏守備モンスターが3体。第三の邪神がいるとしたら、すでに供物は揃っているわけだ。
(それでも……やるしかない。輝王の示してくれた覚悟を、無駄にするわけにはいかない!)

【砂神LP6000】 手札4枚
場:邪神ドレッド・ルート(攻撃)、裏守備モンスター3体、冥界の宝札、伏せ1枚
【輝王LP200】 手札2枚
場:A・マインド(守備)、機甲部隊の最前線、伏せ2枚
【治輝LP4000】 手札5枚
場:裏守備モンスター2体、伏せ1枚
【創志LP1250】 手札2枚
場:マシン・デベロッパー(カウンター10)