にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage 番外編 氷点下の結び目-2

「ティトちゃーん。さっきの授業で分からないところがあったんだけど、教えてもらっていいかな?」
 ティトが次の授業の準備をしていたところに、クラスメイトの女子生徒が教科書とノートを抱えてやってくる。
「わかった」
 素直に頷くと、女子生徒は「いつもありがとねー」とはにかみつつ、ティトの机にノートを広げた。
 かつては「処刑人」と呼ばれていた銀髪の少女がデュエルアカデミアに通うようになって、まだそう日は過ぎていない。
 それでも、クラスの中には話し相手もいたし、よく行動を共にする女子もいた。
 第三者から見れば、今ティトは「友達」に勉強を教えているのだろう。
 けれど、ティトの中には何か違和感があった。
 うまく言葉にはできないが、何かが違う気がしたのだ。
 別にクラスメイト達が嫌いなわけではない。むしろ好きだ。創志やリソナに向ける「好き」とはまた別のものだということは理解しているが、それでも「好き」なことには変わりがない。
(……昔の記憶がないから、友達がどういうものかよく分からないのかな)
 ティトは、見知らぬ病室で目覚める以前の記憶――レビン・ハウンツに引き取られるまでの記憶が存在しない。創志に救われ、今は満ち足りた生活を送っているので特別気にしたことはなかったが、もしその記憶があったなら、リソナのように「友達」と一緒に遊んだりしていたのだろうか。
「あ、ミコばっかりずるーい。ティトちゃん、あたしにも教えてくれない?」
「じゃあ私も!」
「いいよ」
 いつの間にか他のクラスメイトも集まり、軽い勉強会状態になってしまった。
 ティトに自覚はなかったが、彼女の成績はかなり優秀で、学年で見てもトップクラスだった。それでいて変に偉ぶることも無いので、クラスメイトからは頼りにされることが多かった。……マスコット的な意味で可愛がられることも多々あったが。
 ティトが3人のノートを順番に見つつ、アドバイスをしていると、

「ティト・ハウンツさん! 貴女に聞きたいことがあるの、よろしくて?」

 まるで舞台役者のような芯の通った女性の声が、教室中に響き渡った。
 声が聞こえた方に視線を向けてみると、そこにはウェーブのかかったブロンドの長髪をなびかせ、アイスブルーの瞳を自信に漲らせている女子生徒の姿があった。
「えと……」
 何故自分がいきなり呼ばれたのか分からず、ティトが戸惑っていると、
「まあいきなり私(わたくし)のような実力者に声をかけられれば、緊張するのも仕方のないことですわね。大丈夫ですわ。貴女に確固たる信念があれば、私の問いに応えることなど造作もないこと」
 フフン、と胸を逸らしながら歩み寄ってくる女子生徒。
 ティトはその胸を見て「ぺったんこだな」と思ったが口には出さなかった。何となく。
「誇ってもいいですわよ。この私に、問いを投げられたことを」
 そうして、貧乳の女子生徒がティトの目の前に立ったと同時、
「誰……?」
 銀髪の少女は、ひとかけらの悪意も無く首をかしげた。
 自己紹介を聞いた覚えはあるのだが、どうしても名前が思い出せない。
「なっ……!? なっ、なっ!?」
 ティトの反応を受けた女子生徒は、信じられないものを見るような目つきでティトを睨みつけ、顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。
「私の名はビビアン・サーフですわ! お忘れになったとは言わせませんわよ!!」
「ごめんなさい。忘れてた」
「なぁ――!? 常に学年トップの成績を収め、運動神経抜群容姿端麗頭脳明晰、アカデミアを首席で卒業することを約束されているこの私の名前を忘れたとおっしゃる!?」
「うん」
「ゆゆゆゆゆゆ許しませんですわよティト・ハウンツ! この私に辱めを与えた罪、時代が時代ならサテライト送りになっていてもおかしくありませんわ!」
「そんなことより、聞きたいことって何?」
「そんなことですって!? 私のプライドが傷つけられたという国家レベルの問題を、『そんなこと』で片づけることなど、万死に値しますわ!!」
 ぎゃあぎゃあと騒ぎ始める2人(ビビアンと名乗った少女が一方的に騒いでいるだけだが)を見て、ティトにアドバイスを受けていた3人が、「ティトちゃん厄介な人に絡まれちゃったね」「助ける?」「でも巻き込まれたくないしー」などとひそひそ話を始める。
 ビビアン・サーフ。
 彼女自身が語った表現にはいささか誇張が含まれているが……ティトを上回るほどの成績を収め、アカデミア在学中にも関わらず、すでにプロデュエリストのスカウトから目をつけられていると噂されるほどの実力者なのは確かだ。
 そんな彼女は、ティトに「とある因縁」を感じていた。
 いくら喚かれても全く動じないティトに、ぜいぜいと肩で息をしているビビアンが先に折れた。
「この件に関してはまた後で抗議するとしましょう……貴女に聞きたいこととは他でもありません」
 言葉を切ったビビアンは姿勢を整え、ティトを真正面から見つめ、告げる。

「貴女は――どうして<氷デッキ>を使っているのです?」