にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage 番外編 氷点下の結び目-1

 トモダチ、ってなんだろう?


◆◆◆

「リソナ、一緒に帰ろう」
 下校する生徒でごった返しているデュエルアカデミア正門付近で、ちょこまかと動く金髪の少女を見つけたティトは、控えめなボリュームで声をかけた。
 本来ならば小等部と高等部の下校時間は異なるのだが、今日は全教員が集まって行われる会議があるらしく、一斉下校となった。なので、この正門付近もいつも以上に人に溢れている。ティトの声など、すぐに他の話し声にまぎれてしまった。
「あ、ティト――眼鏡ティトです!」
 それでも、金髪の少女――リソナはその声に気付き、元気よく振り返った。
「眼鏡ティトは珍しいです! レアです! どうしたです?」
「……外すのわすれてた。でも、今日はこのまま掛けておこうかな」
「確か、皆本兄からのプレゼントだったです? リソナ的にはあんまりお気に召さないデザインです」
「そう? わたしは好きだよ」
 ティトはそう言って、眼鏡のつるに触れる。銀色を基調としたシンプルなデザインのフレームだったが、ティトにとっては可愛らしく見える。皆本創志からの贈り物、ということが補正をかけているかもしれないが。
 ティトの視力はそれほど悪いわけではないが、アカデミアのクラスで一番後ろの席に座ることになってしまい、スクリーン――現在は黒板の代わりとして使用されている――が若干見え辛くなってしまった。それを創志に相談したところ、「入学祝だ」と眼鏡を買ってくれたのだった。普段は外しており、授業中のときだけ掛けるようにしている。
「それよりも、早く帰ろう? この時間なら、萌子さんのお店手伝えるかもしれない」
 萌子、というのは創志がバイトしている喫茶店の店主、藤原萌子のことだ。今日のようにアカデミアが早く終わった日は、ティトも喫茶店のウェイトレスとして働いている。……人出が必要なほど繁盛はしていないのだが。
「あー……えーと……」
 すると、リソナは視線を逸らしながら言い淀む。いつも余計なことまでズバスバ言ってのける少女にしては珍しい反応だった。
 どうしたんだろう? と不思議に思っていると、リソナは両手をパン! と合わせて頭を下げると、
「ごめんです、ティト。今日は友達とパフェを食べに行く約束をしちゃったのです。だから、一緒には帰れないです」
 申し訳なさそうに謝ってきた。
「……そう」
 ティトが明確な返事を返す前に、
「おーい! 何やってんだよリソナ! お前の分のパフェ食っちまうぞー!」
 正門をくぐり抜けた向こう側から、大きな声が響いた。見れば、リソナと同じくらいの背格好の男の子が、悪戯っぽく笑っている。男の子の周りには他にも同年代の子供たちがいて、楽しそうに笑いあっている。
「こらー! リソナのパフェ食べたら極刑に処すですよー!! そんなわけでティト、またです!」
 別れの挨拶を手早く済ませたリソナは、両手をバタバタ振り回しながら、男の子たちの方に駆けて行った。

◆◆◆

「ねえ、そうしは友達っている?」
 ティトの問いに、テーブルを拭いていた創志はぎくりと肩を震わせた。
 結局1人で帰宅したティトは、自宅兼事務所の隣にあり、創志のバイト先でもある喫茶店に足を運んでいた。西部劇のバーを連想させる店内は、とても喫茶店とは思えない。
「と、友達ぐらいいるに決まってんだろ。いきなり変なこと聞くなよ」
「……変なことだった?」
「ハッ。んなわけねぇだろ。ま、創志君的には触れられたくなかったことなのかもしれないがな」
 コーヒーを啜りつつ嫌味たっぷりな言葉を吐いたのは、室内だというのに中折れ帽を被っている青年――神楽屋だ。
「そういやアンタたちの交友関係って訊いたことなかったな。どうなの?」
 興味津々、というよりも、他に話題がないから仕方なく乗ってきたような感じで、喫茶店の店主である萌子が口を挟む。白の長髪を赤いリボンで結い、割烹着に身を包んでいるれっきとした女性、しかも美人だが、話し言葉は男のそれに近かった。
「俺は交友関係広いぜ。ま、探偵って仕事は人脈がキモだからな」
「探偵じゃなくて探偵気取りだろ」
「やかましいぞ、その探偵気取りの下っ端。そういうお前はどうなんだ? 事務所をシティに移す時、転居先を知らせるハガキを全然出してなかった記憶があるが」
「う、うるせえな。伝えるべき人にはきちんと伝えたから大丈夫だよ。それに、神楽屋は顔が広いだけであって、本当の友達ってのはいないんじゃねえの?」
「……痛いトコつくじゃねえか」
 創志と神楽屋はお互い睨みあったまま、額に脂汗を浮かべている。

「……友達って、本当とか、本当じゃないとか、あるの?」

 創志の言葉に純粋な疑問を覚えたティトは、再び問いを投げかける。
 すると、他の3人は呆気に取られたように顔を見合わせ、
「そいつは難しい質問だぜ、ティト」
「知り合い、友達、そして親友……それぞれの定義なんて人によって違うからな。明確な答えなんて存在しない。傍から見たら上辺だけの関係に見えても、当人たちが『友達だ』と主張するなら、そいつらは本当の友達なんだろうさ。ハッ、くだらねえ」
「個人的な意見を言わせてもらうなら、友達は量より質だと思うよ。いつまでも友達でいられる関係……そういうのが理想なんじゃないか」
「おっ、萌子さんが哲学的なことを語ってる」
「茶化すな神楽屋。コーヒーぶっかけるぞ」
 創志、神楽屋、萌子がそれぞれ意見をくれるが、ティトにとってはどれもしっくりこない。
 トモダチって、難しい。