にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage2 サイドA 鉄屑の雨-5

「餌は十分だろう――<スクラップ・ドラゴン>!」
 一度は退却した屑鉄竜を、再度召喚する天羽。
 <ギガンテック・ファイター>を押しのけるように天羽の眼前で実体化した<スクラップ・ドラゴン>は、咆哮を上げて空間を震わせる。
 屑鉄竜の出現に、<ギガンテック・ファイター>は後方に飛び退いている。今なら、壁際から抜け出すことが可能だ。
「チッ……そいつに乗って逃げる気かよ! やらせねぇぞ! そのモンスター共々ぶっ潰せ!!」
 それに気付いた研里が、鋭い声で指示を飛ばす。
 <ギガンテック・ファイター>が、電光石火の勢いで突進してくる。
「――言ったろう。君は勘違いしていると」
 確かに、<スクラップ・ドラゴン>の攻撃「ディセーブル・バースト」では<ギガンテック・ファイター>を倒すことはできない。
 だが、天羽は逃げるために<スクラップ・ドラゴン>を召喚したわけではない。
(時間はギリギリか……保ってくれよ私の力!)
 強く念じながら、天羽は左手で指を鳴らした。
 それが、合図。
「…………な、んだ?」
 研里が異変に気付く。
 ホールのあちこちから、カタカタと何かが揺れ動く音が響いてくる。
 地震で小劇場自体が揺れているのかとも思ったが、違う。
 研里が音の発信源を特定した瞬間。
 
 砕かれた<スクラップ>モンスターたちの破片が、一斉に宙に浮かんだ。

 一気に天井付近まで上昇した無数の破片は、そこでピタリと動きを止める。
 ある部品は鋭く研ぎ澄まされた刃のように。ある部品は小型の隕石のように。
 <スクラップ>モンスターを形作っていた部品たちが、無数の矛となって牙を剥いていた。
「な、何なんだよこれはぁッ!」
「私は逃げ回っていたわけではない。ホールの各所に<スクラップ>モンスターの破片をばらまくために、延々と<ギガンテック・ファイター>の攻撃を避けていたのさ。そして、準備は整った」
 戦闘がダメなら、効果で破壊してやればいい。
 <ギガンテック・ファイター>の拳は、未だ天羽には届かない。
 <スクラップ・ドラゴン>が雄叫びを上げる。
 慟哭。
 その声には、仲間たちを犠牲にし、その亡骸まで使わなければならない辛さが込められていた。
 それを分かった上で、天羽は命令を下す。

「やれ。――スクラップ・レイン」

 同胞の亡骸が、雨のように降り注ぐ。
 鉄屑の雨が、<ギガンテック・ファイター>と、その主を容赦なく打つ。
 研里の絶叫と悲鳴が、ホールに木霊した。








 ステージに上がる階段に手をかけたところで倒れている研里に近寄った天羽は、デッキホルダーから1枚のカードを抜き取る。瞬が奪われたカードだ。
(……やりすぎたな。「精霊喰い」のことを聞く予定だったのに、これではいつ目覚めるかわかったもんじゃない。まあ、元々本命のついでだったし、後回しでも構わないか)
 死んではいないようだが、研里の背中にはいくつもの刺し傷があり、鮮血が流れ出ていた。このまま放っておけば、出血多量で今度こそ命を落とすかもしれない。懐から携帯電話を取りだした天羽は、とりあえず救急車を呼んでおく。
(さて、シュン君は……)
 周囲を見回すと、入口の扉からこちらを覗き見ている瞬の姿が見えた。
(よかった。建物の外にいたようだな)
 <ギガンテック・ファイター>の攻撃を避けながらホールの中に瞬がいないことは確認していたが、万が一「スクラップ・レイン」に巻き込まれていたら死んでいただろう。天羽自身は<スクラップ・ドラゴン>を実体化させることで破片の雨から身を守ったが、瞬が天羽から離れた場所で攻撃に巻き込まれていた場合は、助けることはできなかった。
 どんな危険があるか分からない。自分の身は自分で守ってくれ――
 危険とは、研里だけとは限らない。そういう意味を込めての忠告だった。
 腫れてきた右腕を押さえつつ、天羽は瞬に歩み寄る。
「シュン君――」
 カードを差しだそうと、左腕を動かしたところで。

 瞬の体が、ビクリと震えた。

 それは、紛れも無く恐怖という感情から来る震えだった。
「あ……」
 瞬は天羽を直視することができないようで、視線を彷徨わせている。
 そんな瞬の反応を見て、天羽は一瞬だけ呆気に取られたが、すぐに思い直す。
(これでは、どちらが悪役か分からないな……)
 カードを取り戻すためとはいえ、容赦なく敵を痛めつける天羽の姿は、とても正義の味方には見えなかっただろう。
(やはり、向いていないな)
 昔、正義の味方を気取って誰彼構わず手を差し伸べていた知り合いを思い浮かべ、苦笑いする。こういったことは、アイツの方が適任だろう。
 天羽が無言のままカードを差し出すと、瞬は震えた手で恐る恐るそれを受け取った。
「それではな」
 一言だけ別れのあいさつを告げ、天羽は瞬に背を向ける。
 その背中に声がかかることは、なかった。






 今はただ、前に進む。
 後ろを振り返る暇など無いのだから。