にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage2 サイドA 鉄屑の雨-4

「ってことは、またぶっ飛ばされに来たってことじゃねぇか!!」
 椅子から立ち上がったと同時にこちらに体を向けた研里は、犬歯を剥き出しにして吠えた。常人なら驚いて逃げ出してもおかしくない怒号だ。
「今度は全身の骨を粉々に砕いてやるよ――<ギガンテック・ファイター>!」
 勢いのままに研里がカードをディスクに叩きつけると、パワードスーツを纏った屈強な戦士が実体化する。
 相手が何かアクションを起こす前に潰す。思い切りのいい先制攻撃だ。
(……だが、鈍いな!)
 確かに、研里の先制攻撃は的確だった。
 こちらの……天羽の反応をいちいち窺うよりも、<ギガンテック・ファイター>を特攻させてさっさと撃退してしまったほうがいい。
 しかし。
 相手が「簡単にぶっ飛ばすことができた女」であったことが、研里の行動をワンテンポ送らせた。
 たった一撃で吹っ飛んでいった雑魚だ。自分が負けるはずがない――
 その油断が、致命的な隙を生んだ。

「勝負どころだ……仕留めろ、<スクラップ・ドラゴン>!」

 その隙に、天羽は容赦なく付け込む。
 屑鉄が寄り集まって形作られた竜が、立体映像として浮かび上がる。
「なっ――お前もサイコデュエリストか!」
 巨大な屑鉄竜の姿に研里が怯んだ、その一瞬。
 天羽はサイコパワーを発動させ、<スクラップ・ドラゴン>を実体化させた。
「――ディセーブル・バースト!」
 竜の口から、破壊の光条が放たれる。
 それは瞬く間に<ギガンテック・ファイター>を呑み込み、纏っていたパワードスーツを砕いていく。
 もし、研里の隙がなかったとしたら、<スクラップ・ドラゴン>を実体化させる前に<ギガンテック・ファイター>の拳が天羽を吹き飛ばしていただろう。
「ぐうっ!」
 <ギガンテック・ファイター>の主人である研里は、かろうじて<スクラップ・ドラゴン>の攻撃を回避していた。
 だが、これで彼の主戦力は潰した。あとは、デュエルディスクを奪って無力化するだけだ。
 それなのに。
「くくく……はははははッ! それで<ギガンテック・ファイター>を殺ったつもりかよ! 甘いんだよ雑魚がァ!!」
 研里は、凶悪な笑みを顔に貼り付けて、声高々と告げた。
 その意味を考える前に、白い拳が天羽の眼前に迫っている。
「くっ!」
 すでに<スクラップ・ドラゴン>は立体映像に戻ってしまっている。ディスクの損傷を回避した結果、右腕でガードせざるを得なかった。
 拳が直撃する。
 ミシリ、と骨が砕ける嫌な音が響き渡り、天羽の体が後方に吹き飛んだ。
 インパクトの瞬間に体を後ろに逸らして勢いを殺したが、それでも右腕のダメージは深い。今はまだかろうじて指先を動かすことができるが、悪化すれば右腕は使いものにならなくなってしまう。
 空中で姿勢を整え、瓦礫の上に着地する。廃材置き場に突っ込んだときのように無様な姿を晒せば、そこで終わりだ。
「知らなかったか? <ギガンテック・ファイター>には、戦闘で破壊されたときに自身を特殊召喚できる効果を持ってるんだぜ。正確には『墓地の戦士族モンスター1体』だがな」
「なるほど、自身もその対象にできるわけか――ッ!」
 <ギガンテック・ファイター>の拳が再び目前に迫る。どうやら右腕1本だけでは満足できないようだ。このままだと、本当に全身の骨を砕かれかねない。
 天羽は体を右斜め前方に倒し、拳を避けつつ<ギガンテック・ファイター>の脇をすり抜けると、<スクラップ・ドラゴン>をディスクから取り外す。
 瓦礫から飛び降りたと同時、早くも次の攻撃が来た。
「……ッ!」
 右フック。これは避けきれない。しかし、これ以上ガードもできない。
 天羽はデッキから1枚のカードを抜き取り、ディスクにセットする。
「――<スクラップ・キマイラ>!」
 瞬間、屑鉄竜と同じようにジャンクによって形作られた合成獣が、天羽の前に現れる。
 すぐさまそれを実体化させると、<ギガンテック・ファイター>の拳が<スクラップ・キマイラ>を粉々に砕いた。
 バラバラと鉄屑が宙を舞い、天羽に向かって降り注ぐ。
 それを払いのけつつ、舞台に向けて走る。観客席が並んだここでは、敵の攻撃を避け辛い。
「逃がすかよ! 飛べ、<ギガンテック・ファイター>!」
 研里はそれを読んでいたようで、自らのしもべに向かって指示を飛ばす。
 ダン! と地面を強く踏みつけ跳躍した戦士は、軽々と天羽の頭上を飛び越えステージへの道を塞ぐ。
 そして、即座に右ストレートが来た。
「くそ……<スクラップ・ゴブリン>!」
 天羽は再びモンスターを実体化し、即席の盾を作り上げる。本来なら<スクラップ・ゴブリン>には(裏守備表示限定だが)戦闘破壊耐性が備わっているのだが、天羽のサイコパワーではその効果まで実体化させることはできなかったようだ。
 <スクラップ・ゴブリン>が砕かれ、鉄屑の破片が飛び散る。
(……ここは、研里自身の無力化を――!)
 そう考えた天羽だったが、<ギガンテック・ファイター>を前にしては攻撃を避けるのがやっとだ。攻撃の隙を見て脇をすり抜けることはできても、研里の元に辿りつく前に背中から殴られるのが関の山だろう。
 痛む右腕をかばいつつ、攻撃を避ける。直撃しそうだと判断したときは、<スクラップ>モンスターたちを実体化させ、壁を作る。
 そうして<ギガンテック・ファイター>の猛攻をしのいでいた天羽だったが――
 ドン、と。
 固いコンクリートの感触が背中に伝わる。ついに壁際まで追いつめられた。
「よくもまあここまで逃げ回ったモンだぜ。だが、これで終わりだ」
 研里の言葉を合図に、<ギガンテック・ファイター>の両拳が握られる。
 左に避ければ右拳が。
 右に避ければ左拳が。
 確実に天羽の体を砕きに来るのだろう。
 一緒に来た瞬は安全なところからこちらの様子を見ているはずだが――救援は期待してはいけないだろう。彼を危険に晒すわけにはいかない。
 退路はない。
 いや。
「……逃げ回る、か。君は勘違いしているようだな」

 元より、退路など存在していない。

 逃げだせば、自分の中の「覚悟」が死ぬ。
 だから、天羽は逃げ回ってなどいない。
「ハッ、今さら強がっても遅い。お前のKO負けはすでに決定してるんだよ」
 自分の勝利を信じて疑わない研里は、無駄な足掻きだと天羽を嘲笑する。
 だからこそ、彼は忘れていた。
 最初の攻防――天羽を侮ったことで生まれた隙が、<スクラップ・ドラゴン>の実体化を許したことを。