にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 O stage プロローグ―2

 ティトや神楽屋、リソナと一緒に暮らすきっかけとなった「レボリューション」との戦いの後、神楽屋に教えを乞いながら、創志はサテライトで何でも屋を営んできた。その頃には頻繁に依頼が舞い込み、お金には全く困らなかったのだが……
 ネオダイダロスブリッジ完成後、シティに拠点を移してからは、めっきりお客が減ってしまった。
 新しい事務所は周囲に高層マンションが立ち並んでいるため、表通りからは建物が見えず、非常に分かり辛い場所にある。ホームページを開設したりビラを配ったりもしてみたが、目に見えた効果は無かった。
 仕事が減ったせいで今までコツコツと貯めてきた貯蓄を切り崩す羽目になったので、創志は仕方なく事務所の隣にあった喫茶店でバイトを始めた。しかし、こちらも立地条件の悪さがネックとなって、さっぱり繁盛していない。
 黒のベストにスラックスといういかにもウエイターですといった格好をした創志は、カウンターに入って布巾を引っ張り出すと、適当にテーブルを拭き始める。
「萌子さん、コーヒーおかわり」
「今までのツケを払ったら何杯でも淹れてやるよ」
「…………今日はこの辺にしておくか」
 ふうー、とわざとらしくため息を吐いた神楽屋は、空になったカップをソーサーの上に戻す。
 実のところ、コーヒー代をツケなければならないほど財布が切迫しているわけではないのだが、事務所の所長である神楽屋曰く「切り詰めるところは切り詰める。節約第一だ」とのこと。……代金を踏み倒すのは、節約とは言わないと思うのだが。
 静かになった店内で、萌子が壁に掛けてある振り子付きの時計を見る。
「もうすぐリソナとティトが帰ってくる時間じゃないか? ……っと、噂をすれば、ホラ」
 店の外から聞こえてくる足音に気付いたのか、萌子は楽しそうに微笑を浮かべる。
 ばーーーーーん! と入口の扉が豪快に開け放たれ、
「ただいまですー!!」
 ぴしっ! と右手を挙げた金髪の少女――リソナの元気満点の声が響き渡る。
「……ただいま」
 リソナの後ろに立った銀色の少女、ティトは控えめなボリュームで帰宅を告げる挨拶をする。
「おかえり。ティト、リソナ」
「ここはお前らの家じゃねえんだがな……おかえりといらっしゃいませだ」
 創志は布巾を片づけて、萌子はやれやれと頭を掻きながら2人を出迎える。
 2人は赤を基調とした制服を身に包んでいる。シティに移った後みんなで話し合った結果、ティトとリソナはデュエルアカデミアに通うことになったのだ。
 本当なら創志の弟――信二も通うはずだったのだが、リハビリが予定より遅れていて未だ車椅子生活が続いていたため、本人が拒否してしまった。兄である創志としては、もっと多くの刺激に触れてほしいので、多少無理をしてでもアカデミアに通ってほしかったのだが、本人の意思を無視してまで主張を押し通す気はなかった。
 その信二は、今日はリハビリのためかかりつけの病院である詠円院(えいえんいん)に行っている。帰りは送迎のバスが出るが、もう少し遅くなるだろう。
「もこー! 聞くです聞くです! リソナ、今日もデュエルの先生をコテンパンに負かしてやったです! リソナの<ライトロード>にかかればイチコロです!」
 両手を腰にあて、えっへんとふんぞり返るリソナ。
 そんな金髪幼女を、萌子は母性本能溢れる笑顔で見つめながら、
「そいつはすごいな。リソナはデュエル強いんだな」
 小さな頭を優しく撫でた。リソナはえへへ、とはにかみながら「当然です~」とふやけた声を出す。
「ティトはどうだった? 今日は確かデュエルの実技試験があったんだよな」
 創志の問いに対し、近くの席に座ったティトは、長い付き合いがないと分からないような微細な笑みを浮かべると、こくりと頷いた。
「ただ勝つだけじゃなくて、色々考えなくちゃいけなかったから、すごく勉強になった。今度そうしにも教えてあげるね」
「お、おお……」
 ティトの申し出に、創志は微妙な顔で答える。
 ただ勝つだけで手一杯の創志にとっては、頭を悩ませる授業になりそうだ。こういうことは、もっと別の……そう、輝王なんかが得意そうだ。
「そいつは願ってもない話じゃないか? 創志。ティト先生の授業を受ければ、もっとマシな戦い方ができるかもな」
「うるせえぞ神楽屋! そんなこと言って、昨日は俺に負け越してたじゃねえーか!」
「あれは手加減してやったんだよ。その証拠に、昨日は<ジェムナイト・アクアマリナ>使わなかっただろ?」
「はん、たまたま融合素材が揃わなかっただけだろ。負けた言い訳なら、もっと上手いヤツ考えろよな」
「――いい度胸じゃねえか。なら、もう1戦やるか? 今度は瞬殺してやるよ」
「いいぜ。今度こそ俺が勝つ!」
「おい探偵気取りの馬鹿ニートとサボりまくりのアホバイト。騒いだら今度こそ追いだすぞ……!」
 白髪の店主が殺気を纏ったのに気付き、創志は慌ててカウンターへ入る。神楽屋は瞬時に視線を逸らすと、空になったカップを持ち上げてコーヒーを飲むフリをしていた。
「……ったく。リソナはいつも通りメロンソーダでいいか? ティトは――」
「練乳をたっぷりかけたかき氷、だよな? そっちは俺がやっておきますよ」
 この喫茶店に来た時は、いつも2人が頼むメニューだ。リソナは「わーい!」とはしゃぎ、ティトも表情こそ変わっていないが、早々にスプーンを手に取って待ちきれない様子だ。
 創志はドリンクバーの機械の横に置かれた、手回し式のかき氷機に手を掛ける。
 ハンドルを回そうとした、その時だった。
 カチャリ、と。
 入口のドアが開く。普通に考えれば、客が来店したのだ。
「いらっしゃいま――」
 客を出迎えるための凡庸な挨拶を最後まで言い終えることなく、創志は息を呑む。
 入ってきたのは、茶色の髪を逆立てた青年だ。左腕にデュエルディスクを装着しているが、それ以外に目立ったところはない。
 にも関わらず、創志は寒気を覚える。
 数々の戦いをくぐり抜けて鍛えられた直感が、しきりに訴えてくる。
 あの青年は、危険だと。
 神楽屋も、ティトも、リソナも、そして一般人である萌子でさえも、同じことを感じているのか、口をつぐんで青年に視線を向けている。
 青年はゆったりと店内を一瞥したあと、両手を広げて高らかに宣言した。

「おめでとう。醜い家畜共。貴様らは、俺様に選ばれたのだ」

「な、に……!?」
 青年の言っていることが理解できず、創志の口から疑問符がこぼれる。
 そんな創志の様子を気にすることなく、青年は装着したディスクを展開させた。
 創志は瞬時に理解する。こいつは、サイコデュエリストだ。
「――――ッ!」
「神楽屋!!」
 創志は先輩であり兄貴分でもある神楽屋の名を叫ぶ。
 この場には3人ものサイコデュエリストが揃っており、いずれも強者揃いだが、こうした荒事に真っ先に反応できるのは神楽屋だ。
 創志はティトの鞄を乱暴に開け放って小型のデュエルディスクを取りだすと、神楽屋目がけて放り投げる。
 それを受け取った神楽屋は流れるようにディスクを装着し、展開させると、デッキから1枚のモンスタカード――<ジェムナイト・ルビーズ>をセットする。
 だが。

「貴様らを招待しよう。血沸き肉躍る最高の舞台へ」

 青年の行動は、それよりも速かった。
 まるでガンマンの早撃ちを思わせるような速度で、ディスクにカードをセットする青年。
 セットした場所から考えて、発動したのは魔法か罠カードだ。

「速攻魔法発動――<次元誘爆>!!」

 直後。
 目の前の光景が、白く染まっていく。
「な……!」
 その事実を認識したと同時、頭が割れるような痛みが襲ってくる。
 自然と足がふらつく。視界に映る景色が白に塗り潰され、何も見えなくなる。

「ようこそ。俺様達の『世界』へ」

 その言葉を最後に、創志の意識は闇に落ちた。