にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage2 サイドM 2-2

「…………」
 昔の夢を見たときは、決まって気分が悪い。
 眉間に深いしわを刻み、低い唸り声を上げながら、ミハエルはのそのそと体を起こす。
 枕元に置いてある目覚まし時計を覗きこめば、時刻は午前6時半。いつもより1時間も早い起床だ。
「おはようございます、マスター。珍しいですね。目覚ましが鳴る前に起きるなんて」
 ミハエルが起きたことに気付いたカームが、ベッドの傍までやってくる。カードの精霊もきちんと睡眠を取る必要があるそうだが、カームは必ずミハエルよりも先に起床していた。そのせいで、カームの寝起き姿など見たことがない。
「ああ。自分でもびっくりだわ……」
 二度寝の誘惑を振り切り、ベッドから降りる。朝に弱いミハエルがこの時間に活動を始めることはほとんどなかった。
 セキュリティ本部所属の捜査官に充てられた社員寮は、10畳ほどのワンルーム。簡素なキッチンとユニットバス付きで、1人で暮らすには十分すぎる部屋だ。
 ベッドの傍にある背の高い棚には、隙間なくカードファイルが収納されている。
 未だ意識が覚醒しきっていない状態で、ミハエルはユニットバスの中にある鏡の前に立つ。目の下には、うっすらとクマができていた。
「よく眠れなかったんですか?」
 隣に浮かぶカームが、不安げな眼差しを向けてくる。
「いや、大丈夫だよ。心配かけて悪いな」
「そうですか……無理しないでくださいね」
 昔の夢を見た原因は分かっている。
 ――朱野天羽だ。
 彼女にはカームの言葉が聞こえていた。だとしたら、やはり姿も見えているのだろうか。
 ミハエルの前に現れた新しい「上司」――朱野天羽は、微笑を浮かべて言い放った。

 「君の本気が見たい」、と。

(俺の本気……つまりは、「勝ち」に固執していたあの頃の俺の決闘が見たいってことか)
 いつの間にか、苦虫を噛み潰したような表情になっていた。
「…………」
 ミハエルが勢いよく蛇口ひねると、ドバッ! と水が噴き出す。その水で乱暴に顔を洗い、一気に意識を覚醒させる。
 今日は始業前に第3デュエル場に来るよう天羽に言われている。彼女の真意を確かめるいい機会だ。
(……本当に治安維持局の人間なのかも怪しいところだしな)










「おはよう! 5分前行動とはいい心掛けじゃないか!」
 ミハエルが第3デュエル場に着いたのは、午前8時55分。約束の時間のちょうど5分前だった。朝からここを利用する者はいないらしく、天羽とミハエル以外の人影はない。
「遅刻が多いとストラから聞いていたが、これなら心配なさそうだな! さて、早速だが君を呼びだした用件を話すと――」
「ちょっと待ってくれ」
 感心した様子でうんうんと頷いた天羽は、そのまま話を進めようとするが、ミハエルはそこで待ったをかける。このままスルーしてはいけない気がしたからだ。
「どうした? 何か気になることでも?」
「ある。超ある」
 ミハエルの斜め後ろに浮かぶカームが「あはは……」と苦笑いを浮かべている。これ以上カームに居心地の悪い思いをさせないためにも、ここは突っ込んでおかねばなるまい。
 天羽は目を丸くしてキョトンとしている。まさかとは思うが、気付いてないってことはないだろうな。
 ミハエルは深呼吸をしてから、告げた。

「……その可愛らしいパジャマ姿はなんだ?」

 デュエル場で待っていた天羽は、デフォルメされたクマのイラストがプリントされたパジャマを着ていた。きちんと整えれば美しくなびくであろう黒髪もぼさぼさだし、ばっちりノーメイク。おまけにトイレ用のスリッパを履いている。
 それでも、デュエルディスクだけは装着していたことは、彼女が決闘者ということの証だろうか。
「…………」
「…………」
「……すまん。寝坊した」