にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage 番外編 ラスト・ドライブ―6

「1ターンキル……」
 城蘭のメンバーの1人が、呆然と呟いた。
 先攻を取った猿水の<ダーク・エルフ>召喚は、決して迂闊な手ではなかったはずだ。
 にも関わらず、彼は2ターン目を迎えることなく敗北した。
 <ドラグニティナイト―ヴァジュランダ>による2回攻撃は、猿水のライフを削り切っても余りあるほどの、強力なものだった。
 仮に、ブラフとしての伏せカードがあったとしても、高良は攻撃を躊躇わなかっただろう。切はそんな確信にも似た思いを抱いた。
「強すぎだろ……」
 別の城蘭メンバーからも声が上がる。
「強すぎ? おいおい冗談だろ。こういうのは強いっていわねーの」
 その声に勝者である高良が反応した。
「今回は運が良かっただけだ。本当に強い奴っていうのは、この『運の良さ』まで計算に入れる奴のことを言うんだよ」
 眉間にしわを寄せ、少し不機嫌そうな様子で言葉を吐く。明後日の方向を向いた高良は、まるで特定の誰かを思い浮かべているようだった。
「ともかく、俺の勝ちだぜ。約束は守ってもらおうか」
「……分かった。ここは一旦退こう」
「猿水さん!」
 その判断に納得がいかなかったのか、メンバーの1人が身を乗り出す。
 それを右手で制した猿水は、左腕のデュエルディスクを掲げながら、
「――だが、これで終わりだと思わないことだ。我々チーム『城蘭』は、必ず『バーシャナ』の仇を取る」
 正式な宣戦布告を叩きつけてきた。
「…………」
 レビンがバーシャナのリーダーを追い詰めたときから、こうなることは分かっていた。
 一度闘争の中に身を投じてしまえば、その連鎖から逃れることはできない。
 切は猿水から視線を逸らし、ひび割れたアスファルトを見つめる。
 レボリューションの手にした強さは、こんな争いを生むためのものだったのか。
 やりきれなさから、無意識のうちに奥歯を強く噛んでいた。
 猿水に促され、城蘭のメンバーたちがぞろぞろと去っていく。
 その背中を見つめながら、複雑な胸の内を高良に悟られぬよう隠していたときだった。

「――ここまで来て引き下がれるかよッ! うおおおおおおおッ!!」

 背後から雄叫びが聞こえ、切は弾かれたように振り返る。
 そこには、折れた鉄パイプを握りしめ、こちらに向かって猛然と駆けてくる男の姿があった。男が来ている白いパーカーの右胸には、花びらを模したマークが見える。
 ――城蘭のメンバー!? 隠れて様子を窺ってたの!?
 最初に切たちを取り囲んだメンバー6人は、全員この場を去ろうとしていたのを確認済みだ。あらかじめ決められていた襲撃なのか、それとも後から追いかけてきた男の独自行動なのかは分からないが……このまま呆けていては、重傷を負うのは間違いない。
「――ッ!?」
 数瞬遅れて、高良が男の襲撃に気付く。
 が、彼が助けに入るのと男が鉄パイプを振り下ろすのでは、後者の方が早いだろう。
 素早く判断した切は、
「ディスク!」
 高良に向かって短く叫んだ。
 青年は一瞬だけ呆気に取られていたが、すぐに切の意図を理解し、左腕に装着していたディスクを外し、切目がけて投げる。
 飛んできたそれを器用に受け取った切は、自分の左腕に装着。
 腰に提げたデッキケースからカードを引き抜き、ディスクにセットする。
 ディスクがカードのデータを読み取るために虹色の光を放った瞬間、男が握りしめた鉄パイプを振り上げた。
「危ねえ!」
 高良の叫びが鼓膜を震わせる。
 すでに回避は間に合わない。
 いや――
 回避する必要はない。
 ガキッ! と鈍い金属音を響かせ、振り下ろされた鉄パイプが「何か」に受け止められる。
「あ……?」
 切の眼前には、現状を把握できず混乱する男の顔がある。
「――っ!!」
 無防備なその腹を、思い切り蹴飛ばしてやる。
 男は「ぐえっ!?」と情けないうめき声を漏らし、仰向けに倒れた。
「……そいつは、一体どういうカラクリだ?」
 現状を把握できないのは高良も同じようで、切の前に立った「それ」を指差しながら、恐る恐るといった調子で問いを投げてくる。
 鉄パイプを防いだのは、切が召喚したモンスター<霞の谷のファルコン>。
「――アンタ、サイコデュエリストって知ってる?」
 本来なら幻であるそれを、現実のものとする特異な力。
 レビン同様、友永切もまた、サイコデュエリストだった。