にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage 番外編 ラスト・ドライブ―11

「……何だ、お前は」
 突然の侵入者に対し、城里が冷ややかな視線を見せる。
「お前は……このあいだの……!」
 高良の存在に気付いた猿水が、彼の進路を塞ぐように立ちふさがった。
「これからお楽しみの時間だってのに――空気の読めねえ奴だ!」
 続けて、猿水の近くにいた男が、高良を真横から殴り飛ばそうとする。
「――ッ」
 高良はバックステップでそれを避けるが、男は追撃の手を緩めない。
「オラオラァ! さっさとぶっ飛ばされろや!」
 威勢のいい声を上げながら、男は両の拳を振り回す。
 男の行動に感化されたのか、他のメンバーも高良に向かって襲いかかろうとしていた。
「……まさか、この状況で『デュエルで勝負しよう』などとは言うまい? 囚われの姫を助ける勇者を気取るのはいいが、身の程を知るんだな」
 それを見た猿水が、勝ち誇ったように告げる。
「――逃げて高良!!」
 自分の身に降りかかろうとしていた危機も忘れ、切は叫んだ。
 高良が現れたとき、助けに来てくれたのだと分かったとき、心の底から喜びを感じた。
 だが、それも長くは続かない。
 このままでは、高良は数の暴力に呑み込まれ――死ぬだろう。それだけは嫌だった。
「……デュエルで勝負する、だって? お前らみたいなクズ野郎とデュエルする気はねえよ」
 そう呟いた高良が、突然足を止めた。
 当然、好機とみた城蘭のメンバーたちが一斉に襲い掛かる。
「お前らは、俺の全力を持って叩き潰す」
 白いパーカーに覆い尽くされ、青年の姿が見えなくなる。
「高良――」

「――術式解放。『ドラグニティ・ドライブ』」

 ゴッ!! と。
 高良の立っていた場所から、風が生まれた。
 その風は、高良に襲いかかろうとしていた男たちを吹き飛ばすほどの豪風
「何だ……それは……ッ!?」
 かろうじて吹き飛ばされるのをこらえた猿水が、驚愕を顕わにする。
「説明するのは面倒くさいんだが……デュエルモンスターズのカードには、精霊が宿ってるって話聞いたことあるか? 中にはその精霊が見えるやつもいるらしいんだがな」
 ゆっくりと歩を進めながら、高良は言葉を紡ぐ。
 デュエルディスクが装着されていたはずの左腕は、エメラルド色の鎧に包まれている。
 そして、その手には巨大な槍が握られていた。
 全長は2メートルほどだろうか。半分以上が銀色の刃で占められているそれは、大剣に見えなくもない。
「俺は精霊なんてもんは見えないんだが、代わりにちょっと変わった力を持っててな。カードに宿った精霊の力を、自分の体に憑依させることができる」
 高良以外の全員が、口を閉ざしていた。
 目の前の光景を現実のものと受け入れられないでいた。
 切の脳裏に、高良の言葉が蘇る。
 ――いや、『こういうの』を見るのは俺も初めてだ。
「これが俺の能力、『術式・ドラグニティ・ドライブ』だ」
 一通りの説明を終えた高良は、両手で槍の柄を握る。
「ま、待て! 何を――」
「言ったろ。お前らは、俺の全力を持って叩き潰すと」
 高良が、巨大な槍を振るう。
 生まれた豪風が、人も機械もまとめて吹き飛ばしていく。
 汚れた空気を洗い流すように。
 2階部分を支えている柱が折れないのが不思議くらいだった。
「――っと!」
 その風が止まないうちに、高良はその場で跳躍すると、城里の目の前で着地する。
「ヒッ!」
 威厳たっぷりに構えていた姿からは想像できないほど、情けない悲鳴を上げる城里。
「さて。俺の女に手を出した罪、償ってもらおうか」
「ま、待って――」
 城里の命乞いを聞かずに、高良は槍を振り上げた。
 その姿は、断頭台のギロチンを思わせる。
 無意識のうちに、切は身を乗り出していた。
 ガシャン! と鎖が鉄柱にこすれる音が生まれる。
 声を出すことはできなかった。
 高良が巨大な槍を振り下ろす。
 銀色の刃が、城里の命を刈り取らんと、光る。

 ――ダメ!!

 心の中で叫んだと同時。
 パキン、と音を立てて、切の両手を縛っていた鎖が砕けた。
 急な出来事に、切はその場にへたり込んでしまう。
 その隣で、城里が泡を吹いて気を失っていた。
「……立てるか?」
 そんな切に、高良は空いていた右手を差し出してくる。
 優しくて、大きな手のひらだった。
「……立てない」
「え」
「腰が抜けちゃって、立てないの」
 嘘ではなかった。
 あまりにも急な展開と、助かったという安心感から、腰が抜けてしまったのだ。
 恥ずかしさで真っ赤に染まった顔を見られたくなくて、切はうつむく。
「ったく。しょうがねえな。ほら」
 高良は頭をガリガリと掻き、槍を投げ捨てると、切に背を向けて屈みこむ。
「乗れよ。おぶってやるから」






「あいててて……反動がひでえから、あの力はあんまり使いたくねえんだよなぁ」
「ねえ、高良」
 工場を後にし、高良におぶってもらった切は、その体温を肌で感じる。
「なんだよ」
「ヒノくん、って呼んでいい?」
 脈絡のない提案に高良は吹き出すが、
「……べ、別に呼び方なんて好きにすりゃいいだろ」
「そ。じゃあこれからはヒノくん、って呼ぶことにするわ」
 無性にうれしくなった切は、全体重を高良に預ける。
 本人は全く気にしていなかったが、高良の方は背中に押し付けられる2つの膨らみのせいで、気が気ではなかった。
「ねえ、ヒノくん」
「今度はなんだよ」

「何でもない。私はヒノくんのことを好きになっちゃったけど、恥ずかしいから言わないでおこう」

「……それは、確信犯なのか?」
 黒髪の隙間から見える高良の頬は、はっきりと分かるほど赤くなっていた。
「内緒。ふふっ」