にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage サイドS エピローグ

 窓から差し込む柔らかな日差しが、瞼を刺激する。
 ゆっくりと両の目を開き、二、三度まばたきをする。
 ……体が重い。
 毛布にくるまった創志は、半覚醒の状態のままベッドの上でもそもそと体を動かし、再びまどろみの中に身を委ねようとした。
 が。
「こらー! 皆本兄! さっさと起きるです!」
「ぐえっ!?」
 突然腹部に衝撃が走り、一気に意識が覚醒する。
 何事だと慌てて上半身を起こしてみれば、創志の腹の上に金髪の少女がまたがっていた。どうやらダイビングヒップアタックをかましたらしい。
「いつまでもグースカグーカグーカグースカ! 皆本兄はカバなのですか!? それとも変態なのですか!?」
「……どっちでもねえ! いいからそこをどけ!」
「やです! リソナはお腹が減ったのです! 早く朝ご飯を作るのですー!」
「お前がどかなきゃ朝飯も作れねえっての!」
 Tシャツに短パンとラフな格好のリソナは、遠慮なくバタバタと暴れる。その度に創志の腹が圧迫され、いい加減苦しくなってくる。
 力ずくで除けてやろうと手を伸ばしたところで、
「リソナ。そうし、起きた?」
 部屋の扉が開き、銀色の少女が顔を覗かせた。
「あ! ティト! 皆本兄はまだ起きてないです。むしろこのまま永眠させてやるです!」
「何物騒なこと言ってんだてめえは! 起きてる! 起きてるよ!」
 強引にベッドから降りると、バランスを崩したリソナが「わ!」と声を上げて転がり落ちる。ビターン! と床に背中を打ちつけ、痛みに悶える金髪の少女。
 それを無視して、創志は枕元に置かれた目覚まし時計を見る。時刻はもうすぐ9時になろうかというところだった。さすがに寝過ぎだ。
「わりぃ、ティト。今から朝飯作るから――」
「朝ご飯なら、もうできてるから大丈夫だよ」
「……なに?」
 ティトが料理をしている姿など、創志の記憶には無い。
 見れば、ティトは白いポロシャツの上に薄桃色のエプロンを身に着けていた。そして、後ろに何かを隠している。
「すぐに食べる?」
「あ、ああ……」
 困惑する創志は、ティトの問いに対し曖昧に頷く。
 すると、ティトは後ろに隠していたものを差しだしてきた。
「はい、どうぞ」
 ガラスの器に盛られた、細かく砕かれた氷の粒。
 たっぷりと練乳がかけられ、スプーンが添えてあるそれは――どう見てもかき氷だった。
 創志はポカンと固まったあと、1つの事実に辿りつき頭を抱える。
 3日前に購入した、中に氷を入れハンドルを回すタイプのかき氷製造機。それをティトがいたく気に入り、暇を見つけてはガシャガシャと回していたのを思い出したのだ。
「……いらない?」
 創志の反応が悪かったせいか、ティトがしゅんとうなだれてしまう。
「いや食う! 食うよ!」
 子犬のようなその仕草を見て、創志は慌ててかき氷の盛られた器を受け取る。
 そして、一気にかきこんだ。
「!!!」
 キーンと、強烈な頭痛が走る。
「あー! ずるいです! リソナもかき氷食べたいです!」
 ようやく立ち上がったリソナが、創志の服の裾を掴んで揺さぶってくる。
「皆本兄だけにいい思いさせてたまるかです!」
「ちょ、待て……! 今は揺らすな……」
「リソナも食べるの? ちょっと待っててね」
 再び騒がしくなる部屋の中。
「……3人で何やってるのさ」
 そこに、ため息交じりの声が響く。
 声を発した人物は、開けっぱなしだった扉から入ってくると、創志たちの前で「停止」した。
「――信二」
「兄さんにお客さんだよ。結構待たせちゃってるから、早く行ってあげたら?」
 車椅子に腰かけた信二は、優しげに微笑みながら、言った。










「創志ちゅわあああああああああああん!! 会いたかったわああああああああん!」
「俺は二度と会いたくなかった」
「…………」
 両腕を広げ、熱い抱擁を期待していた宇川は、創志の一言で石像のように固まってしまう。
 壁に並んだ下駄箱と、入って正面に見える大きめの掲示板。
 アルカディアムーブメントが買収したという元孤児院の玄関で、創志は宇川を出迎えた。
「で? 何の用だよ」
 創志がつっけんどんに言い放つと、宇川はブンブンと頭を振って石像状態を解く。
「……ま、近況報告、ってところよん」
 悩ましげに下唇を突き出しながら、宇川は話し始める。すごく気持ち悪い。

 貨物船での一件から、1ヵ月が経過していた。

 レボリューションが起こそうとしたテロは未遂に終わり、タイミングを見計らっていたかのように突入してきたセキュリティ部隊によって、メンバーのほとんどが逮捕された。
 しかし、リーダーであるレビンと黒幕だった光坂が、「自分たちの先導によるもので、メンバーに罪はない」と供述したため、多くのメンバーがすぐに釈放された。
「もちろん、様々な裏取引があったわ。治安維持局側としても、サイコデュエリストの存在を公にしたくないのでしょう。これ以上事件が大きくなれば、確実にマスコミが嗅ぎつけるからね」
「……口止め料ってことか。釈放する代わりに、今回の件に関しては口外しない」
 創志の指摘に、宇川は首肯する。
 結局、収容所に連行されたのは、光坂、レビン――それと、ジェンスだけだった。話によれば、ジェンスは自ら収容所に行くことを望んだらしい。
 信二とリソナは、輝王の口添えもあり、逮捕を免れた。信二は自らの罪を償うために収容所へ入ると言ったが、創志がそれを許さなかった。
 ――償うことは、俺と一緒にいてもできるはずだ!
 そのときに叫んだ言葉を、心中で反芻する。
 現在、信二にサイコデュエリストの力はない。
 信二の場合、モンスターを実体化させるだけでなく、弱って立てないはずの足の補助にまで力を回していたため、脳に莫大な負荷がかかっていた。創志とのデュエル後、緊張の糸が切れたことが原因で、力を失ってしまったのだ。
 けど、創志はそれでよかったと思っている。
 妙な力に目覚めてしまったせいで、弟は自分の元から離れて行ってしまったのだから。
「最近はどう? チャラ男と一緒に、便利屋をやってるって聞いたけど」
「ま、ボチボチってとこか」
「感謝してよね! この孤児院もDホイールも、アタシがプレゼントしたんだから!」
「わーありがとー」
「すごい棒読み!?」
 宇川はショックに体を震わせる。すごい気持ち悪い。
 ……口ではああ言ったが、実際のところ、宇川には感謝してもしきれなかった。
 アルカディアムーブメントが買収したこの孤児院は、現在宇川の個人所有物となっている。ティトやリソナを連れて帰るには、元いたアパートは狭すぎる……そんなところに、宇川が住む場所を提供してくれた。
 創志は、行く当てを失った神楽屋に頼み込んで、便利屋を営みながら色々教わることにした。これから先、皆を守っていくためには、今のままではダメだと思ったのだ。
 散々渋った神楽屋だったが、最終的には了承してくれ、今は創志たちと共に暮らしている。まずは手始めに、Dホイールの運転の仕方を教わっているところだ。
「そのチャラ男はどうしたの? 姿が見えないみたいだけど」
「今日は用事があるとかで、朝早くから出掛けたはずだぜ」
 昨日の夜、そんなことを言っていたのを覚えている。
「そう……一言忠告してあげたかったんだけど」
「忠告?」
「そうよ。創志ちゃん、あなたにもね」
 急に真面目な顔つきになった宇川は、声のトーンを落として、告げる。
アルカディアムーブメントには、あんまり首を突っ込まない方がいいわよ。痛い目を見るだけじゃ済まないんだから」
「…………」
 ――気付いてたのか。
 光坂の言葉――創志の両親があらぬ罪を着せられ、収容所に送られたということが真実なのかどうかを知るために、創志は神楽屋と共に調査を進めていた。情報が漏れぬよう慎重に行動していたつもりだったが、甘かったらしい。
「忠告ありがとよ。気をつけるぜ」
「――でもやめる気はない、って顔してるわ。ますます私好みの男になってくわね、創志ちゃんは」
「オエッ」
「何にもしてないのにゲロ吐く仕草するのやめてよ!」
 体を蛇のようにくねらせながら、宇川は必死に抗議してくる。
 創志が視線を逸らしていると、動作をやめた気持ち悪いオカマが、深いため息をついた。
「……ま、いいわ。あなたとデュエルできる日を楽しみにしてるわよ。創志ちゃん」
「――望むところだ」
 自信たっぷりに言い返すと、宇川は満足気な表情で去って行った。
 そうだ。
 創志の戦いは、これからが本番。アルカディアムーブメントの巨悪を暴き、両親を救いださなければ――
「そうしー? お話終わったー?」
「リソナはお腹減ったです! ハンバーガー肉抜きを所望するです!」
「……リソナちゃん、ピクルスサンドが好きなの?」
 でも。
 今くらいは、取り戻した日常に浸ることにした。