にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage サイドS 9-9

「すごいねテル兄ちゃん! テル兄ちゃんは俺のヒーローだよ!」
「ヒーローは言いすぎだぜ、ミカド。ま、お前は俺が守ってやるよ。姉ちゃんも一緒にな。約束だ」
「うん!」
 自分は特別だと思いこんでいた。
 颯爽とDホイールを操り、弱い者を助ける正義の味方。
 口に出すのは恥ずかしかったが、神楽屋輝彦は自分が正義の味方であることを信じていた。
 サテライトにも行けず、ダイモンエリアをうろついているようなマーカー付きのごろつき共。そんな悪人連中からシティの人々を守るのが神楽屋の日課だった。
「無茶ばかりしてると、いつか痛い目見るわよ」
 正義の味方は楽じゃない。怪我が絶えない生活を送っていた神楽屋は、矢心詠凛という女医の世話になることが多かった。
「大丈夫だよ、先生。俺強いから!」
「……全然理由になってないんだけど」
 矢心から心配されるのはうれしかったが、神楽屋は正義の味方をやめるつもりはなかった。
 治安維持局に相談することも出来ず、ただただ苦しみを耐えるしかない。そんな人々が、救いを求める限り、神楽屋はDホイールを走らせ続けるのだ。
「テル兄ちゃん! 俺にもデュエル教えてよ!」
「こ、こらミカド! 輝彦さんは忙しいんだから、あんまりわがまま言わないの!」
 稲葉ミカドと、姉である稲葉麗千。
 少年がごろつきに絡まれているのを助けて以来、ミカドは神楽屋を慕い、よく後をついて回った。
 麗千は矢心が務める病院で看護師をしており、矢心を交えて4人で談笑する機会が多かった。
 楽しそうにはしゃぐミカドと、振り回されながらも笑顔を絶やさない麗千。
 2人を見て、神楽屋は正義の味方を続けていてよかったと思っていた。
「そんなに人を助けるのが好きなら、セキュリティにでも入ったら?」
「規律に縛られるのは性に合わなくてね。いーんだよ。俺は、今の生活が楽しくて仕方ねえんだから」
「神楽屋君って、ホント頑固よね」
「ああ。褒めてくれてサンキュな、先生!」
「……今のは嫌味のつもりだったんだけど」
 呆れた矢心がため息をつくのは、最早お馴染みの光景になっていた。
 これからも、たくさんの人を助ける。
 そんな青臭い理想を掲げながら――
 絶望を、知った。











「――っ、――っ」
 寂れた廃工場。
 目の前で倒れているミカドは、顔を真っ青にして苦しげに呻いている。
 気を失っているのか両目は閉じられており、口をパクパクと動かしていた。
「へっ……ざまあみやがれ神楽屋! 全部テメエのせいだぜ! そのガキが歩けなくなったら、テメエの責任――うごっ!」
 地に伏しながらも罵詈雑言を叫んだ不良の男を、蹴り飛ばして黙らせる。
 間に合わなかった。
 ミカドは、両足の骨を砕かれていた。
 神楽屋に恨みを持つ犯罪者たちに拉致され、二度と歩くことができないようにと。
 麗千からミカドが連れ去られたと連絡を受けた神楽屋は、すぐに救出に向かった。
 Dホイールを激走させ、犯人たちのアジトを突き止めた。
 サイコデュエリストの力が覚醒したのは、ちょうどその時だ。マーカー付きの犯罪者どもを一掃し、ミカドの元へたどり着いた。

 だが、間に合わなかった。

 ――何が正義の味方だ。
 ――何が守ってやるだ。
 ――何が約束だ。
 ――結局俺は、ミカドの人生を台無しにしただけじゃないか。
 矢心の元へミカドを送り届けた神楽屋は、シティを去りサテライトへと渡った。
 自分が犯した罪から逃げるように。
 挫折した青年が放浪の末にたどり着いたのが、サイコデュエリストの集うレボリューションだった。