にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage 番外編 ジェムナイトは砕けない-25

<エンシェント・ホーリーワイバーン>
シンクロ・効果モンスター
星7/光属性/天使族/攻2100/守2000
光属性チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
自分のライフポイントが相手より多い場合、
このカードの攻撃力はその差の数値分アップする。
自分のライフポイントが相手より少ない場合、
このカードの攻撃力はその差の数値分ダウンする。
また、このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、
1000ライフポイントを払う事でこのカードを墓地から特殊召喚する。

「こいつ……岩見さんを倒したときの……!」
 ほたるが語気を強めながら呟くが、神楽屋の耳には届かない。
 左胸――心臓がある位置を握りつぶしながら、神楽屋は息を荒くする。
(何だ……?)
 息苦しい。まるで、富士山の山頂付近に放り込まれたようだった。全身の血管が圧迫されているような違和感を覚え、額から冷や汗が流れる。原因が<エンシェント・ホーリーワイバーン>の召喚であることは明らかだ。
「……<エンシェント・ホーリーワイバーン>は、自分のライフが相手より上回っている場合、その数値分だけ攻撃力がアップします。逆に、自分のライフが相手よりも下回っている場合は、その数値分だけダウンする。私がジョーカーと例えた理由、お分かりいただけましたか?」
 ライフポイントの差で、攻撃力が増減するモンスター。確かに安定性とはかけ離れている。
「私のライフは6300。神楽屋君のライフは700。よって、<エンシェント・ホーリーワイバーン>の攻撃力は5600ポイントアップし、7700」
 そして、この状況で切られたジョーカーは、間違いなく最強の手札だった。
 呼吸が乱れるほどの圧迫感は、それだけ豹里とのライフ差があるということを示している。
「貴方の伏せカードは1枚。私を倒すというのなら、この攻撃も防いでみてください――バトルフェイズ!」
 豹里がフェイズの移行を宣言すると、白き翼竜は「キュオオオオオン!」と咆哮を響かせる。その両目は、槍を構えて臨戦態勢を取る真紅の騎士を見下ろしていた。
「<エンシェント・ホーリーワイバーン>で<ジェムナイト・ルビーズ>を攻撃!」
 翼竜が天空を見上げ、口を開く。地面から白い光が溢れだし、小さな球となって翼竜の口で収束していく。
「エンシェント・フレア!」
 白い光の奔流が、<ジェムナイト・ルビーズ>に向かって放たれる。同時、逃げ場を塞ぐように細い光線がフィールド全体に降り注いだ。
 もはや退路はない。しかし、ここで直撃を受ければ――神楽屋は敗北する。
 それだけは阻止しなければならなかった。
「くっ……罠カード<ジェム・エンハンス>を発動! 自分フィールド上の<ジェムナイト>……<ルビーズ>をリリースして、墓地の<ジェムナイト>を1体特殊召喚する! 来い、<ジルコニア>!」

<ジェム・エンハンス>
通常罠
自分フィールド上に存在する
「ジェムナイト」と名のついたモンスター1体をリリースし、
自分の墓地に存在する「ジェムナイト」と名のついた
モンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターを墓地から特殊召喚する。

 <ジェムナイト・ルビーズ>をリリースし、墓地の<ジェムナイト・ジルコニア>を守備表示で特殊召喚する。現れた騎士は両腕を合わせて盾のように構え、光の奔流を受け止めるが、あっという間に飲みこまれてしまう。
「ぐうっ……!」
 だが、これでダメージは防いだ。<神聖騎士パーシアス>の攻撃よりも激しい衝撃波が巻き起こるが、今度は吹き飛ばれなかった。
「……これも防ぎますか」
「ハッ……俺の粘り強さを甘く見るんじゃねえよ」
 これよりもさらに粘り強い男と毎日のようにデュエルをしているのだ。しぶとくもなる。
「なら、次のステップに移るとしましょう。私はターンを終了します」
 これで、お互いの手札は尽きたことになるが、強力なモンスターと伏せカードを残した豹里に対し、神楽屋は完全なフィールドレス。墓地で効果を発動するのは、<ジェムナイト・フュージョン>くらいのものだ。
 まさに、絶体絶命の窮地だが――
(……試すときだな。俺が、正義の味方にふさわしいかどうか)
 ヒーローなら、ここで必ず逆転につながるカードをドローする。
 果たして、自分がそれに値する人間かどうか――審判の時が迫っていた。

【豹里LP6300】 手札0枚
場:エンシェント・ホーリーワイバーン(攻撃)、神の居城-ヴァルハラ、伏せ1枚
【神楽屋LP700】 手札0枚
場:なし

「俺のターン……」
 指先に力を込め、カードを引く。
 矢心、麗千、ミカド、創志、ティト、リソナ、信二、そしてほたる――様々な人物の顔が、脳裏を駆け抜けた。
 ドローしたカードは……発動条件の厳しい魔法カード。
「――魔法カード<ヒーロー・ギャンブル>を発動! 自分のライフが1000以下で、相手よりも4000ポイント以上少ないとき、手札が5枚になるようにカードをドローする!」

<ヒーロー・ギャンブル>
通常魔法(オリジナルカード)
このカードは、自分のライフポイントが1000ポイント以下で、
相手より4000ポイント以上少ない時に発動できる。
自分の手札が5枚になるように、自分のデッキからカードをドローし、
次の自分のドローフェイズをスキップする。

 しかし、この状況を打開する唯一のカードでもあった。
「俺の手札は0枚。つまり――」
「5枚ドロー、ですか。大勢の決したデュエルを引っ繰り返すだけのカードを、この場面で引いてきますか……さすが先輩様は格が違いますね」
 言葉の端々に悔しさをにじませながら、豹里は苦笑いを浮かべる。

「では、ここでジエンドです」

 そして、唐突に指を鳴らした。
 次の瞬間、神楽屋の頭上から大質量の何かが落下してくる。
「輝彦! 上!」
 今まで黙っていたほたるが、悲鳴じみた叫び声を上げた。
 黒く輝く冷えたそれは、高層ビルを建築する際に用いられる鉄骨だった。
 1本だけではない。先程の<エンシェント・ホーリーワイバーン>の攻撃のように、神楽屋が立つ地点を中心として、円を描くように無数の鉄骨が降り注ぐ。
「――ッ!」
 神楽屋は咄嗟に後方へと跳ぶが、
「遅いですよ」
 鉄の塊から逃れることは、叶わなかった。

◆◆◆

 ズドドドドドドドッ! と轟音と粉塵を撒き散らし、鉄骨が槍のように降り注ぐ。
 神楽屋の姿は、一瞬で見えなくなった。
 その光景は、ほたるにとって一番辛い記憶――最愛の家族を失った事故を思い出させた。
「う……あ……」
 何も出来ない。ただ、呆然と眺めていることしかできない。
 自然と溢れた涙が、頬を伝った。
 絶望しちゃいけない。神楽屋を信じると決めたのだから。
 それでも、涙をこらえることはできなかった。
「いくら神楽屋君がサイコデュエリストとはいえ、これに巻き込まれたら無事ではいられないでしょう。デュエルは終了です……私を卑怯者と罵りますか? 結構。甘んじて受け入れますよ。ですが、正義の味方は負けるわけにはいかないのです」
 全ての鉄骨が落下し、衝撃音の残響の中、豹里は笑みを消した顔をほたるに向けた。
「私は、生まれたときから全てが与えられていました。地位も。金も。名誉も。そして……力も。私は父親の敷いたレールに沿って歩いていればよかった」
 鉄骨の山に背を向け、豹里は滔々と語り始めた。
「ある日のことです。何の苦もなくセキュリティの捜査官になった私は、巡回中に恐喝の現場に遭遇しました。弱者をいたぶる強者の様相は、見ていて気持ちのいいものではなかった。余計なことはするな、と父親から散々言われていましたが、私は恐喝犯を取り押さえました。胸の内に宿った正義感に従ってね」
「…………」
「恐喝犯は相当体を鍛えていたらしく、猛烈な勢いで抵抗してきました。私の体は、お世辞にも鍛えられているとは言えませんでしたが……その時、私はすでにサイコパワーを操れるようになっていました。その力を使えば、筋肉ダルマを負かすことなど造作もありません。すぐに恐喝犯は大人しくなりましたよ」
 言葉を切った豹里が、口の端を釣り上げて笑みを浮かべる。
 それは今までの作り物めいたものではなく、
「恐怖におののく恐喝犯の顔を見たとき、私は知ったのです。悪を振りかざしていた人間を断罪し、悪のプライドを粉々に砕くことの快感を。生まれて初めて、自分の力だけで物事を成し遂げ、あまつさえ耐えがたいほどの快感に巡り合えた。私の人生は、あの瞬間のためだけにあったのだとさえ思えましたよ」
 心の内をさらけ出した、狂気に満ちたものだった。
「私は、悪を断罪する快感を得るために、正義の味方であり続ける。今までも、そして、これからも」
 言い切った豹里は、ほたるに向かってゆっくりと歩を進める。
「さあ、裁きの時間です」
 そう言って、デュエルディスクからカードを取り外そうとした瞬間――

「……ハッ。ようやく素の部分を見せたかと思えば、とんだ変態野郎だな。豹里兵吾」

 鉄骨の中から、声が響いた。
 豹里の動きが止まる。
 ほたるの涙が――止まる。

「はっきり分かったぜ。テメエは正義の味方を名乗る資格がないってことに」

 鉄骨が重なった隙間から、光が溢れる。
 その輝きは、燃える炎のような赤色であり。
 大地を照らす太陽のような橙色であり。
 神の使いが纏う聖衣のような白色であり。
 轟く雷鳴のような黄色であり。
 透き通った川のような水色であり。
 汚れ無き大海原のような青色であり。
 安息をもたらす夜のような紫色であり。
 虹のように七色に変化する光が輝きを増し、バガン! と鉄骨の山を吹き飛ばす。

「お前にひとつ教えてやる。俺の<ジェムナイト>は――絶対に砕けないッ!」

 叫ぶ神楽屋の傍らに立つのは、銀色の甲冑を纏い、大剣を手にした騎士。
 その名は、<ジェムナイトマスター・ダイヤ>。