にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage 番外編 ジェムナイトは砕けない-24

「私のターンですね。ライフに余裕は生まれましたが……もう終局ですかね」
 この場面だけを切り取って見ると、豹里は穏やかな青年にしか見えない。溢れ出る余裕が、余計にそれを感じさせる。
「<パーシアス>の効果発動。<ルビーズ>を守備表示に変更します。さあ、跪きなさい」
 純白の刃を向けられ、真紅の騎士が膝を折る。ぐぐっ、と槍を構えて抵抗を試みたが、天空の使徒の前では無意味だった。
「<パーシアス>で<ルビーズ>を攻撃します。ネメシス・セイバー」
 <ジェムレシス>を葬った光の刃が、<ジェムナイト・ルビーズ>に向けて振り下ろされる。
「神楽屋君。貴方は悪を名乗りました。ならば、私は裁くだけです。これは終わりではなく――始まりなのですよ。私が執行する、刑の始まり」
 豹里にとって、デュエルとは罪人を屈服させるための一手段にしか過ぎない。
 ゆえに、勝利に感慨はない。相手が敗北という結果を受け入れ、膝を折ればそれでいいのだ。
「――ハッ! 終わった気になるのはまだ早えよ!」
 しかし、神楽屋はそれをはねのける。
「罠カード<攻撃の無力化>を発動! <パーシアス>の攻撃を無効にして、バトルフェイズを終了する!」

<攻撃の無力化>
カウンター罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
相手モンスター1体の攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。

 神聖騎士が放った光の刃は、突如として出現したブラックホールのような穴に吸い込まれてしまう。
「……私も伏せカードに対する警戒が足りなかったようですね。いいでしょう。私はカードを1枚セットし、ターンを終了します」
 豹里の場に再び現れた伏せカードを見て、神楽屋は警戒を強める。現状では、<神聖騎士パーシアス>を突破するには、<ジェムナイト・ルビーズ>の効果を使うしかない。それを見越して、もう1枚<ドレインシールド>、あるいは攻撃反応型の罠をセットしていたとしたら――
(……ダメだ。こうやって迷うってことは、豹里の思惑通りになってるってことだ)
 一度くらいの失敗で、躊躇うことはできない。
 何故なら、このデュエルはほたるが見ているからだ。
 この先、ほたるがどこかで躓いたとき――諦めない限り、何度でも立ち上がれるってことを見せなければならない。神楽屋が、仲間たちから教えてもらったように。

【豹里LP8000】 手札2枚
場:神聖騎士パーシアス(攻撃)、伏せ1枚
【神楽屋LP700】 手札0枚
場:ジェムナイト・パーズ(守備)、ジェムナイト・ルビーズ(守備)

「俺のターン……!」
 すでに迷いは断ち切った。防がれたときは――その後考えればいい。
「<ルビーズ>を攻撃表示に変更し、効果発動! <パーズ>をリリースして攻撃力をアップさせる!」
 黄玉の騎士が炎に包まれ、真紅の騎士の槍へと宿る。<ジェムナイト・ルビーズ>の攻撃力は1800ポイント上昇し、4300。
(悪いな、ほたる。ちょっと我慢してくれ)
 すでに豹里のライフは一撃で削りきることが難しい数値になっている。ダメージを与えれば嬉々として鎖の拘束を強めるだろうが……ここは耐えてもらうしかない。
「もう一発行くぜ! <ルビーズ>で<パーシアス>を攻撃――クリムゾン・トライデント!」
 デュエル開始前の攻撃も含めると、すでに二度防がれた「クリムゾン・トライデント」が放たれる。
 今度は剣で炎の龍を薙ぎ払おうとする神聖騎士だったが、炎はその刃すらも貫く。
「――――」
 豹里の伏せカードは――動かない。
 剣、鎧、そして盾をも貫かれた<神聖騎士パーシアス>は、天使の羽を散らしながら砕けた。

【豹里LP8000→6300】

「攻撃してくるかどうかは五分五分でしたが……さすがに肝が据わっていますね。悪人さんを助けることは諦めたのですか?」
「ハッ、そんなわけねーだろ。ただ、無傷で助け出せるほど現実は甘くないって覚悟してるだけだ」
「……トリガーを引いたのは貴方だということをお忘れなきよう」
 豹里が中空で手を払うと、ほたるの手首を縛っている鎖の拘束が強まった。
「…………っ!」
 しかし、ほたるは悲鳴ひとつあげない。唇を噛み、必死に痛みに耐えている。
(あいつ……)
 彼女も、戦っているのだ。神楽屋に余計な心配をかけないために。
「一度は絶望したのに、強がる余裕が復活しましたか。まあいいでしょう。再び絶望に突き落とされたとき、もっといい顔をしてくれるでしょうからね」
「つくづく悪趣味な野郎だ。俺はカードを1枚伏せる。ターンエンドだ」
 手札を使いきる状況が続いている。豹里の手札も多くはないが……次のターンは確実に動いてくるだろう。それを凌ぎ、次へ繋げなければならない。

【豹里LP6300】 手札2枚
場:伏せ1枚
【神楽屋LP700】 手札0枚
場:ジェムナイト・ルビーズ(攻撃)、伏せ1枚

「私のターン。<パーシアス>だけで終わらせられると思っていたのですが……仕方がありません。次のカードを切るとしましょう。それにふさわしいカードをドローできたことですし」
 そう言った豹里は、ドローしたカードを即座に発動する。
「永続魔法<神の居城-ヴァルハラ>を発動します」

<神の居城-ヴァルハラ>
永続魔法
自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、
手札から天使族モンスター1体を特殊召喚する事ができる。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。

 <神の居城-ヴァルハラ>は、自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、手札から天使族モンスター1体を特殊召喚できる効果を持つ。特殊召喚するモンスターのレベルに制限はないため、普通なら大型モンスターを呼び出すことが多い。
 おそらく、豹里も<ジェムナイト・ルビーズ>に対抗できるだけの上級天使族モンスターを召喚してくるはず……神楽屋が身構えていると、
「私は<ヴァルハラ>の効果で、手札の<ロイヤルナイツ>を特殊召喚します」
 現れたのは、リクルーターよりも攻撃力の低い下級モンスターだった。

<ロイヤルナイツ>
効果モンスター
星3/光属性/天使族/攻1300/守 800
このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
破壊したモンスターの守備力分だけ自分のライフポイントが回復する。

 どういうつもりだ、と訝しんでいる間に、豹里は続けて動く。
「さらに<シャインエンジェル>を召喚。これで私の手札も尽きたわけですが……墓地の<ブーテン>の効果を使用します。このカードを墓地から除外することで、自分フィールド上のレベル4以下の天使族・光属性モンスター1体を、チューナーとして扱うことができます。私は<ロイヤルナイツ>をチューナーに変更」

<シャインエンジェル>
効果モンスター
星4/光属性/天使族/攻1400/守 800
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、
デッキから攻撃力1500以下の
光属性モンスター1体を表側攻撃表示で特殊召喚できる。

<ブーテン>
チューナー(効果モンスター)
星1/光属性/天使族/攻 200/守 300
自分のメインフェイズ時に、墓地のこのカードをゲームから除外し、
自分フィールド上のレベル4以下の
天使族・光属性モンスター1体を選択して発動できる。
選択したモンスターはフィールド上に表側表示で存在する限りチューナーとして扱う。

「…………ッ!?」
 透明になった<ブーテン>が、自分の頭上に浮いていた天使の輪を、<ロイヤルナイツ>の持つ剣に引っかける。<ロイヤルナイツ>がそれを掲げると、<ブーテン>は満足そうに消えていった。
 これで、<ロイヤルナイツ>はチューナーとなった。2体の合計レベルは7。
「このモンスターは、私のジョーカーです。ある時は最強の矛であり、ある時は最弱の矛。その鋭さを決めるのは、私のプレイング次第」
 状況によって、強さが変わる……該当するモンスターは多いが、豹里の言うような極端な例は思いつかない。
「神聖な森を守護する翼竜よ……蓄えた力を光に変え、森を汚す悪鬼を打ち払いたまえ! シンクロ召喚!」
 光の柱が立ち上り、その中に2体のモンスターが吸い込まれていく様は、<神聖騎士パーシアス>のときと酷似している。灰色にくすんだ壁が、白の輝きを取り戻していくような錯覚を覚えるほど、清らかな空気が辺りを覆っていく。
「浄化せよ! <エンシェント・ホーリーワイバーン>!」
 光の柱が四散し、龍の甲高い咆哮が教会中に響き渡る。
 純白の鱗に、黄金のたてがみ。深い紅色の角の下には、エメラルドグリーンの瞳が見える。体表には様々な紋様が刻まれ、金のたてがみはそれ自身が意思を持っているかのようにたなびく。
 ジョーカーと例えるにはまるでふさわしくない神聖さを纏った翼龍、<エンシェント・ホーリーワイバーン>が豹里のフィールドに降臨した。