にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage 番外編 宝石を継ぐもの-10

「意外、だったです?」
 落ち着いた声色で呟いたリソナの一言に、フリーズしかけていた思考が回り始める。
「……意外なんてレベルじゃねえ。真後ろから背中どつかれた気分だ」
 けれど、冷静になって考えれば分かることだ。リソナがいる5年後の未来では神楽屋は命を落としており、<ジェムナイト>のカードを形見として持っている、あるいは使っていたとしても不思議はない。
(……デッキを残せるような死に方をしたってことでもあるけどな)
 その件に関しては深く考えないようにしながら、神楽屋はリソナのフィールドへと視線を移す。そこにあるのは、彼女が元々使っていた<ライトロード>のカードのみ。<ジェムナイト>がデッキに入っている素振りなど微塵も見せなかった。
(いや、<ライトロード>の効果で墓地に送ったカードがあるな)
 <ジェムナイト・フュージョン>は他の融合カードよりも回収が容易である。墓地にこのカードと他の<ジェムナイト>モンスターがあれば、いつでも手札に加えることができる。<ライトロード>の効果で<ジェムナイト・フュージョン>が墓地に落ちれば、わざわざデッキからサーチする必要がなくなる。その場合、先程破壊した<ジェムタートル>は……2枚目の<ジェムナイト・フュージョン>のサーチや融合素材として活用できるだろう。
 さらに、<ジェムナイト>には墓地のモンスターを除外して融合モンスターを呼び出す罠カード<廃石融合>がある。ランダム性があるとはいえ、<ライトロード>で積極的に墓地を肥やすのは<ジェムナイト>と噛み合う点が多い。
「…………」
 神楽屋が思考を回転させているあいだ、リソナに動きはない。沈痛な面持ちで手札の1枚――おそらくは<ジェムナイト・フュージョン>をジッと見つめている。その姿からは、先程までの快活さは感じられない。
「どうした? 長考なんて珍しいじゃねえか」
「あ、いえ……」
 少し心配になった神楽屋が声をかけると、リソナは現実世界に引き戻されたかのようにハッと顔を上げ、言い淀む。次の一手を迷っているのだろうか?
「……テルは、嫌ですか?」
 やがて、リソナはこちらにかろうじて聞こえるような声量でポツリと呟く。
「……どういう意味だ?」
「テルは……リソナが<ジェムナイト>を使ってるの、嫌ですか?」
 意を決して吐き出した一言だったのか、リソナの瞳は不安に揺れている。
 それを見て、神楽屋の脳裏に昨日のリソナの様子が浮かぶ。5年が過ぎても、彼女は「神楽屋以外の誰か」が<ジェムナイト>を使っていることは抵抗を感じているらしい。例えそれが自分自身であっても。
「ハッ、何かと思えばそんなことか」
 リソナの感情を汲みつつも、神楽屋はあえて軽い調子で受け流す。
「覚えてるか? この世には俺以外の<ジェムナイト>使いなんてごまんといる、って言ったこと」
「……はいです」
「そいつらには、そいつらなりの理由や信念があって<ジェムナイト>を使ってる。だから、俺1人が特別ってことはねえ」
 同じカードでも、自分には思い付かないような使い方をするデュエリストに出会う。それもまた、デュエルの醍醐味の1つである。このカードはあの人が使うものだから、と思考を停止してしまうことは、可能性を放棄することだ。それが間違いだとは言わないが――勿体ない、と神楽屋は思う。
「見せてみろよ、お前の<ジェムナイト>を。伊達や酔狂で使ってるわけじゃないんだろ?」
 神楽屋の挑戦的な物言いに、リソナの瞳に光が戻る。まだ迷いが完全に払拭されたわけではないようだが、それでも彼女は手札からカードを選び取る。
「――ひとつだけ、訂正させてくださいです」
「あ?」
「リソナにとって、テルの<ジェムナイト>は特別ですよ」
 神楽屋が反応する前に、リソナがディスクにセットした魔法カードが発動した。
「<ジェムナイト・フュージョン>発動! 手札の<ガネット>と<アイオーラ>を融合!」
 2つの輝石が混じり合い、新たな光を生む。その色は、猛る闘志を内封した、真紅。
「真紅の輝きを焼きつけろ――<ジェムナイト・ルビーズ>!」
 宝石が砕け散り、中から真紅の甲冑で身を包んだ宝石の騎士が姿を現す。手に持った得物は、甲冑と同じ真紅の輝きを放つ槍。青の外套をはためかせ、<ジェムナイト・ルビーズ>は白金の騎士団の隣に並び立つ。

<ジェムナイト・ルビーズ>
融合・効果モンスター
星6/地属性/炎族/攻2500/守1300
「ジェムナイト・ガネット」+「ジェムナイト」と名のついたモンスター
このカードは上記のカードを融合素材にした融合召喚でのみ
エクストラデッキから特殊召喚できる。
1ターンに1度、自分フィールド上に表側表示で存在する
「ジェム」と名のついたモンスター1体をリリースして発動できる。
このカードの攻撃力はエンドフェイズ時まで
リリースしたモンスターの攻撃力分アップする。
また、このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、
その守備力を攻撃力が超えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

「行くですよ! バトルフェイズ……<ルビーズ>で<マディラ>を攻撃!」
「――ッ!?」
 神楽屋の戸惑いをよそに、敵として現れた紅蓮の騎士は、槍の穂先から炎を生み出す。
「――クリムゾン・トライデント!」
 リソナが叫んだ瞬間、穂先から炎が迸り、<ジェムナイト・マディラ>目がけて放たれる。鞭のようにうねりながら迫る火線は、途中で3つに分かれ「トライデント」を体現する。だが、その勢いは弱い。
(<ルビーズ>を呼んだのに効果を使わない……何か考えがあるのか?)
 <ジェムナイト・ルビーズ>は、自分フィールド上の<ジェム>と名のついたモンスターをリリースすることでエンドフェイズまで攻撃力を上昇させる効果を持つ。現在、神楽屋の場に伏せカードはなく、手札も1枚。リソナの通常召喚権は残っていたし、効果の仕様を躊躇する場面でもないはずだ。
(……使わない、じゃなくて使えない可能性もあるか)
 リソナのデッキは、神楽屋と比べて<ジェムナイト>に関連するカードの割合が少ない。手札に召喚できる<ジェムナイト>がいなかったとしても不思議ではないだろう。
 放たれた炎の矢が、赤銅の騎士の間近に迫る。
 <ジェムナイト・マディラ>は燃える溶岩のように光る剣で火線を払いのけるが、
「それは囮です」
 大ぶりに剣を振るったせいで、隙が生まれる。それを狙っていた真紅の騎士はすでに跳躍しており、その勢いのまま中段からの突きを放つ。槍は軽々と甲冑を貫き、<ジェムナイト・マディラ>の体がくの時に折れ曲がる。
「くっ……」

【神楽屋LP3500→3200】

 砕けた甲冑の破片が神楽屋に降り注ぎ、わずかにライフが削がれる。
「まだです! リバースカード<廃石融合>を発動!」

<廃石融合>
通常罠
自分の墓地から、融合モンスターカードによって決められた
融合素材モンスターをゲームから除外し、
「ジェムナイト」と名のついたその融合モンスター1体を融合召喚扱いとして
エクストラデッキから特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズ時に破壊される。

(……ここで使ってきたか!)
 毎ターン墓地送りができる<ライトロード>を使うなら、墓地の素材を除外することで融合モンスターを特殊召喚できる<廃石融合>は相性抜群だ。採用しない手はないし、伏せられている可能性は高いと踏んでいた。ゆえに驚きはない。
「墓地の<アレキサンド>と<タートル>をゲームから除外。来るです、<ジェムナイト・ジルコニア>!」
 リソナが呼びだしたのは、他の宝石の騎士よりも一回りも二回りも巨大な体を持ったモンスターだ。その手には武具は握られていないが、代わりに平たい宝玉が埋め込まれており、丸太のような両腕は金槌によく似ている。
 素材になった<ジェムナイト・アレキサンド>は、<ライトロード>の効果で墓地に送られていたのだろう。

<ジェムナイト・ジルコニア>
融合モンスター
星8/地属性/岩石族/攻2900/守2500
「ジェムナイト」と名のついたモンスター+岩石族モンスター

「一気呵成に攻め立てるです! <ジルコニア>で<クリスタ>を攻撃!」
 上体を逸らし声なき咆哮を上げた<ジェムナイト・ジルコニア>は、標的である<ジェムナイト・クリスタ>ではなく、真上に広がる空を目がけて跳ぶ。その衝撃で地面が凹み――はしないが、そう錯覚するほどの轟音が鳴り響いた。
「スカイ――」
 放物線の頂点に達した剛腕の騎士は、両拳を隙間なく合わせ、そのまま振りかぶる。
 そして、降下。
 空気を押し退けながら落下する様は、宇宙から飛来した隕石を想起させる。
「ハンマアアアアアアアアアアアアアアア!」
 リソナの叫び声と共に、<ジェムナイト・ジルコニア>が地表に到達。
 落下地点は、当然<ジェムナイト・クリスタ>の頭上である。
 落下の勢いを加えた剛腕の振り下ろしは、まさに巨大なハンマー。腰をかがめ両腕を組んで防御姿勢をとったくらいで防げるものではない。<ジェムナイト・クリスタ>は、文字通り粉砕された。

【神楽屋LP3200→2750】