にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage サイドS 9-8

 ――チャンスだ。
 今、神楽屋の場に伏せカードは存在しない。こちらの攻撃に対するカウンター手段はほぼ無いと考えていいだろう。
 加えて、創志の場には上級モンスターである<A・ジェネクス・リバイバー>がいる。神楽屋のライフはほとんど減っていないが、2体のモンスターのダイレクトアタックを通せば、このターンでゼロにすることも可能なはずだ。
 創志の手札はゼロ。このドローに全てがかかっている。
「俺のターン――ドロー!」
 指先に力を込め、デッキからカードを引く。
 ドローしたカードは――<A・ジェネクス・チェンジャー>。攻撃力1200のモンスターだ。
 <A・ジェネクス・リバイバー>の攻撃力2200と合わせても、3400。神楽屋のライフポイントを削り切るには300ポイント足りない。
 ――どうする。
 <A・ジェネクス・チェンジャー>を攻撃表示で召喚し、可能な限りライフを削るか。それとも、守備表示でセットして相手の手に備えるか。
 創志の残りライフは600。攻撃表示の<A・ジェネクス・チェンジャー>が戦闘によって破壊されれば、敗北は必至だ。
 以前までの――信二と2人だけでデュエルしていたころの創志なら、迷わず攻撃に移っていたはずだ。即決速攻。それが創志のプレイスタイルだった。
 だが。
 創志の後ろには、固唾を飲んで戦いの行方を見守る切と宇川がいる。
 そして、おそらく休憩室では信二やティトが戦っているはずだ
 判断を誤れば、彼らを裏切ることになる。
「――バトルだ! <A・ジェネクス・リバイバー>でダイレクトアタック! グラン・ブースト!」
 脚部のブースターに火が灯る。
 狙いを定めた<A・ジェネクス・リバイバー>は、自らを弾丸として一直線に飛ぶ。
 創志は一瞬だけ首のチョーカーに手を伸ばすが――
 やめる。
 相手を傷つけるために、この力を欲したわけではない。
 <A・ジェネクス・リバイバー>の体が、加速した勢いのまま神楽屋にぶつかる。
「――ッ!」

【神楽屋LP3700→1500】

 が、立体映像であるモンスターはそのまま神楽屋の体をすり抜けると、自陣のフィールドに戻るために上昇飛行に移った。
「――ハッ! さすがは理想家だな坊主! 敵に情けをかけるとは、つくづく甘ちゃんだ!」
 創志を皮肉る神楽屋の言葉にそれほど力はない。もしかしたら、この事態を予測していたのかもしれない。
「……何とでもいいやがれ。モンスターをセットして、ターンエンドだ」
 思考の結果、創志は安全策を選択した。
 やはり<A・ジェネクス・チェンジャー>で攻撃するのはリスクが大きすぎる。

【創志LP600】 手札0枚
場:A・ジェネクス・リバイバー(攻撃)、裏守備モンスター、伏せ1枚
【神楽屋LP1500】 手札1枚
場:なし

「……無茶は怖かったか? 坊主」
 カードをドローした神楽屋が、天を仰ぎながら問いを投げてくる。
 創志が問いの意味を探っているあいだに、神楽屋は続けた。
「モンスターを引いたにも関わらず、守備表示でセットしたということは……そいつでは、俺のライフをゼロにできないんだろう。反撃を恐れてセットした。だろ?」
「…………」
 図星をつかれ、創志の額から汗が流れる。
「俺のライフをギリギリまで削る無茶ができなかった」
 突き出した神楽屋の指先は、創志を責めているように見えた。
 お前も所詮口だけの男だ、と。
 違う、と創志は自分に言い聞かせる。
 無茶と無謀は違う。目先のことだけに捉われず、先を見据えた結果のセットだ。
 しかし、それを口に出すことはできなかった。
「お前がリスクを覚悟して無茶をしていれば、このカードが発動することはなかった」
 そう言って、神楽屋はドローしたカードを表にする。
 緑の枠に囲まれたカード。それは――
「<再融合>を発動。800ポイントライフを支払い――墓地から融合モンスターを特殊召喚する」

<再融合>
装備魔法
800ライフポイントを払う。
自分の墓地から融合モンスター1体を選択して
自分フィールド上に特殊召喚し、このカードを装備する。
このカードが破壊された時、装備モンスターをゲームから除外する。


【神楽屋LP1500→700】

 800ポイントのライフコスト。
 神楽屋の言うとおり、<A・ジェネクス・チェンジャー>で攻撃していれば、<再融合>は発動できなかった。
「蘇れ、<ジェムナイト・ルビーズ>」
 紅が輝く。
 マントを翻し、紅蓮の騎士は今度こそ戦場へと帰還する。
「――ッ!」
 創志は即座に頭を振って、思考を切り替える。
 <ジェムナイト・ルビーズ>の攻撃力は2500だ。<A・ジェネクス・リバイバー>を攻撃されても、まだ創志のライフは残る。
 創志は気付けない。
 その考え自体が、思考が切り替わっていない証拠であるということを。
「<ジェムナイト・ルビーズ>で攻撃。対象は――」
 神楽屋の指先が、スッと移動する。

「その裏守備モンスターだ」

「な――」
 驚きに、創志の体が硬直する。
 それはわずかの時間だったが、隙をついて紅蓮の騎士は跳んだ。
 <ジェムナイト・ルビーズ>の効果。
 考えが至ったときには、すでに<ジェムナイト・ルビーズ>は伏せモンスターを串刺しにしていた。
「クリムゾン・トライデント」
 槍の矛先から生まれた三つ又の炎がうねり、創志の体を貫く。
「<A・ジェネクス・チェンジャー>、守備力は1800ポイントか。700ポイントの貫通ダメージを受けな」