にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage サイドS 9-1

 神楽屋輝彦。
 そう名乗った男は、中折れ帽を深くかぶり直し、その隙間から鋭い視線を向ける。
「やることは分かってんだろ? だったらさっさと始めようぜ――ああそうだ。3人も相手にするには時間かかりすぎるし、何よりとてつもなく面倒くさい。だから、そっちは代表者1人を選出しろ。そいつと俺がデュエルして――」
 だるそうにぷらぷらと右手を振った神楽屋だが、纏う雰囲気が緩むことはない。
「――それで、終いだ」
 ごくり、と創志は息を呑む。
 竜美と相対したときのような、燃え盛るほどの激情は感じない。
 代わりに、難攻不落の要塞を前にしているような――そんな錯覚に陥る。
「昼寝するには格好だが、デュエルするには陰気くせえ場所だ。デュエルっていうのは、全身で気持ちのいい風を感じて、駆け抜けるもんなんだよ。ここじゃ、例えバイクがあっても気分が滅入るだけだ」
 天を仰ぐ神楽屋の挙動は、どう見ても隙だらけだ。事実、創志よりも遥かに勘の鋭いであろう切が、刀の柄に手をかけ、今にも飛び出しそうになっている。
 だが、動けない。
「……っと。今の俺に言えることじゃなかったな」
 一人納得し、吐き捨てた神楽屋は、左腕のデュエルディスクを展開させる。
「――さあ、誰が来るんだ?」
 神楽屋が間延びした声で、問いを投げてくる。
「……アタシ、ああいう覇気のない男はタイプじゃないのよね。だからパス」
「な!? そういう問題じゃねえだろ!」
 はあ、と大きなため息をついた宇川に、創志はずっこけそうになりながらもツッコミを入れる。
「無理にヤっても盛り上がらないもの。アタシは観戦に回らせてもらうわ」
「なら、わしが行こう!」
 声を張り上げ、ポニーテールをぴょこぴょこと揺らしながら前に出たのは、切だ。
「神楽屋輝彦……直接会ったことはないが、名前は耳にしたことがある。最近レボリューションに入ったメンバーで、相当な実力者じゃ」
 その言葉に、創志は切が元レボリューションメンバーであったことを思い出す。
「じゃが、背を向けることはできぬ! 真の力を得たわしの<六武衆>で――」
 創志は、言いかけた切の右手を引く。
「ぬ? なんじゃ、創志」

「――アンタ、無理してるだろ」

 真剣な顔で切を見つめる創志に対し、着物姿の少女は驚きを顔に広げるが、
「な、何を言う! 無理などしておらぬぞ!」
 慌てて取り繕う。
 だが、創志は気付いていた。
「さっきのデュエルで力を使いすぎたんじゃないのか? 若干息が荒いし、顔色も良くない。ここは休んでおいたほうがいい」
「しかし、相手はサイコデュエリストじゃぞ? お主が戦うのは――」
 体の状態を見抜かれた切は、うろたえながらも反論を口にする。
「危険だって言いたいんだろ? 大丈夫だ。コイツのおかげで、俺もサイコデュエリストとしての力を引き出せる」
 そう言って、創志は首に巻かれた黒のチョーカーを指差す。
「……でも、その装置は脳にかなりの負担をかけるわ。無理をしているのは創志ちゃんも同じなんじゃない?」
 口を挟んできたのは宇川だ。創志の身を案じているのか、それとも装置の実験データの喪失を恐れているのか……なんにせよ、切に余計な情報を与えてしまった。
「いいんだよ」
 切が口を開く前に、創志はデュエルディスクを展開させながら前に出た。
 問答に付き合う気はない。
 「代表者を選べ」といわれたときから、創志の心は決まっていた。

「俺は、無茶するためにここに来たんだ」

 自分が戦う、と。
「いいね。俺好みの答えだぜ、坊主。だが――」
 前に出た創志を見た神楽屋は、口の端を釣り上げる。
「夢見過ぎだ。現実を知りな」
 男の言葉にひるむことなく、創志はディスクを構えた。