にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage 4

 周囲から放たれた鋭敏な殺気を、創志は肌で感じる。
 最早デュエルという形式を取らず、なりふり構わずにこちらを始末しに来ている。
 ――いや。
 これも「ウォーミングアップ」の一環なのだろうか。
「<コアキメイル・ベルグザーグ>を召喚」
「<コアキメイル・ガーディアン>を召喚」
「<コアキメイル・デビル>を召喚」
「<コアキメイル・シーパンサー>を召喚」
「<コアキメイル・スピード>を召喚」
「<コアキメイル・ドラゴ>を召喚」
「<コアキメイル・クルセイダー>を召喚」
 カードのデータを読み取る際にディスクから発せられる電子音が、空間を覆い尽くすかのように響き渡る。
 そして、実体化する様々な<コアキメイル>モンスター。
「こいつら、ストラと同じカードを――違うな。光坂に洗脳された人間は、皆<コアキメイル>デッキを使っているようじゃな」
 ついに刀を抜いた切が、忌々しげに声を出す。
「――攻撃」
 何重にも重なった声が、攻撃宣言を下す。
 途端、無数の<コアキメイル>モンスターが、戦意をむき出しにして動き始めた。
「チッ!」
 創志は素早くディスクを展開させると、首元のチョーカーに手を伸ばす。
「味方でもお構いなしかよ――迎撃だ<ジェムナイト・ルビーズ>!」
 それよりも速く、神楽屋が動いた。
 紅蓮の鎧を纏った宝玉の騎士<ジェムナイト・ルビーズ>が現れ、携えた矛槍で敵を薙ぐ。
 斬撃によって炎が巻き起こり、数体のモンスターを消し炭へと変える。
 モンスターの撃破を確認した神楽屋は、
「ここは俺が引き受ける! お前らは光坂を何とかしてこい! こういう連中は、大抵親玉を潰せば止まるって決まってんだ!」
 創志たちを守るように前に出ると、声を張り上げて指示を飛ばしてくる。
「この数をアンタ1人で!? いくらなんでも無茶だ!」
 創志の視界に広がるのは、倉庫を埋め尽くさんとするほどのモンスター群だ。しかも、まだ増え続けている。
「ハッ! お前に言われたくねえな、坊主! 来い<ジェムナイト・アクアマリナ>!」
 2体目の宝玉の騎士を呼びだした神楽屋は、創志たちの前から動こうとしない。
「気付いてるだろ? もう船は動き出してるんだ! 早くしねえと全部手遅れになるぜ! 約束を果たすんじゃねえのかよ、坊主!!」
 ――約束。
 創志は、弟を連れ戻さなければならない。
 この貨物船が目的地であるシティについてしまえば、信二に接触できる可能性は限りなく低くなるだろう。これが最後のチャンスだと言っても過言ではない。
「でも――!」
 しかし、かといって目の前の人間を見捨てて行けるほど、創志は人間ができていない。
 食い下がろうと神楽屋の肩を掴むために手を伸ばしたところで、
「……創志ちゃん」
 逆に、宇川に肩を掴まれた。
「宇川……」
「あなたの『無茶』は、光坂を倒すために使うべきよ。ここはチャラ男と――」
 今まで見たことのないほど真剣な面持ちで呟いた宇川は、ディスクを展開させる。
「アタシに任せて」
 静かに、しかし力強く響いたその言葉に、創志は首元に伸ばしかけていた右手を降ろす。
「道はアタシたちが切り開く。サポートはお願いね、せっちゃん」
 声をかけられた切は、何かを言いかけるものの、やめる。
「……うむ」
 そして、真っすぐ宇川を見つめると、頷いた。
「――ハッ! お前が残っても気持ち悪いだけだから勘弁しろオカマ!」
「うるさいわねこの腐男子! シリアスな空気に水差すんじゃないの! アタシだって、アンタみたいな腐った男と2人きりなんて真っ平御免よ!」
「だったら――」
「来なさい<エーリアン・リベンジャー>!」
 神楽屋の言葉を無視して、宇川は<エーリアン・リベンジャー>――黒の外殻を纏い、6本の腕を生やした爬虫類族の戦士を召喚する。
「目標はアソコよ!」
 宇川が指さした先には、第二船倉に続く扉があった。
「第二船倉にある階段から上がれば、さっきの休憩室まで戻れるはずだわ! 合図したら走るのよ、創志ちゃん! せっちゃん!」
「宇川……!」
 まだ納得はいかなかったが、ここで問答を繰り広げている余裕はない。
 創志が残れば神楽屋や宇川を守ることができるかもしれないが、そのせいで信二を連れ戻すことができなければ、本末転倒なのだ。
 「嫌だ!」と宇川の提案をはねのけそうになるのを必死にこらえ、右拳を強く握る。
「華麗なる攻撃を行うわ! <リベンジャー>……ビューティフル・スパーク!」
 ガアッ! と吠えた<エーリアン・リベンジャー>は、雷を纏った6本の腕を地面に叩きつけた。
 瞬間、6本の雷鳴が、第二船倉への扉に向かって地面を走る。
 進路上にいた仮面の人物や<コアキメイル>モンスターが、強力な電撃を浴びてその場に倒れていく。
 それが、合図だった。
「ゆくぞ、創志!」
「くそっ……!」
 やりきれなさに歯噛みしながらも、創志は切と共に走り出す。
 倒れる仮面の集団を大股で飛び越え、一気に扉を目指す。
「ぬっ!」
 しかし、<エーリアン・リベンジャー>の攻撃を免れた一部が、創志たちの進路を塞ぐ。
 創志が反応するより早く、
「ここはわしに任せるのじゃ! 頼むぞ<師範>!」
 一旦刀を鞘に収めた切が、隻眼の老将を呼びだす。
 <六武衆の師範>が居合の構えを取ったと同時、切もまた刀を抜く。
「秘義――濁流一閃!」
 切が敵の集団に向かって、大きく跳躍する。
 それを待っていたかのように、<六武衆の師範>の右腕が微動する。
「はあっ!」
 集団に飛び込んだ切が、乱雑に刀を振るう。
 敵がひるんだのを見計らい、天井に向かって跳ぶ。
 切の動きに気を取られた仮面の人物たちが、上を向いた瞬間――
 ズバン! と。
 老将の放った斬撃が、その場を駆け抜けた。
 衝撃が巻き起こり、道を塞いでいた集団が吹き飛んでいく。
「創志!」
「分かってる!」
 綺麗に着地した切に追いつき、創志は全力で走り抜けた。









「……<ゴルガー>ちゃんを呼べればもっと楽に送り届けてあげられたんだけど。あの子を『戦闘モード』で呼び出すには、ここは狭すぎるわね」
「――何故、残った?」
 ふう、とため息をついた宇川と背中合わせになりながら、神楽屋は尋ねた。
 すでに周囲は白い仮面と<コアキメイル>モンスターに埋め尽くされており、逃げ道はない。
「本当なら、戦い疲れた創志ちゃんをペロペロする予定だったんだけどね」
「最悪だな。士気が下がるからやめてくれ」
「アタシだってあんたみたいなカッコつけと同じ空気を吸いたくないわよ!」
 八つ当たり気味に近くにいた敵を殴りつけた宇川が、ヒステリックに叫ぶ。
「でも、ね。アンタみたいなチャラ男は全然タイプじゃないけど――」
 急に声の調子を変えた宇川の言葉に、神楽屋は思わず耳を傾けてしまう。

「他人のために命を張れる男は、嫌いじゃないわ」

「……ハッ。全然うれしくねえ」
「別に喜ばすために言ったわけじゃないわ。それより、さっさと片付けて創志ちゃんたちを追いかけるわよ」
「りょーかい。坊主の貞操は、俺が守ってやんないとな」