にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage サイドM 9-10

 氷の龍を投影していたソリットビジョンが停止し、その姿が消える。
 ギギギ……と歪な音を立て、変容していた空間が元に戻っていく。
 時間をかけて、少しずつ。
「リソナは……負けたですか……?」
 呆然と呟いたリソナは、ぺたんとその場に尻もちをつく。
 実体を持ったはずの攻撃「ダイヤモンド・カタストロフィ」は、<裁きの龍>を葬っただけで、少女に傷をつけることはなかった。
 ティトが加減をしたのか、それとも――
 汚れ無き白の龍が、最後の力を賭して彼女を守ったのか。
 真実は分からなかったが、輝王にそれを問う気はなかった。
「――あ」
 目の前に立つ銀色の少女、ティトの存在を目にとめ、リソナの体から力が抜ける。
 そして、顔をくしゃっと歪めると、

「うわ――――――ん!!」

 大声で泣いた。
「うわ――ん!! ああ――ん!!」
 涙が白い頬を流れる。
 人目をはばからず、ただただ泣き続けるその姿は、無垢な幼子のそれだ。
 そんな少女を前に、ティトは身をかがめると、
「――泣かないで」
 頭の上に、自らの右手を優しくのせた。
「ひっく……でも……でもリソナ……約束破って……悪い子になって……それでも負けちゃったです……」
 嗚咽混じりに言葉を吐き出すリソナ。
「リソナが悪い子になっちゃったら……きっと光坂はリソナのこと嫌いになるです……光坂に嫌われたら、リソナ行くとこなくなっちゃうです!」
 言い切り、また「うわーん!」と大きな泣き声を上げる。

「……なら、確かめにいこう?」

「――え?」
 ティトからもたらされた提案に、リソナは涙を止める。
「光坂って人が、リソナを嫌いになっちゃったかどうか。確かめにいこう」
 銀髪の少女は、リソナの頭を慈しむように撫でる。
 彼女が、皆本創志にしてもらったように。
 撫でる手を止めたティトは、ゆっくりと立ち上がり、手を差し伸べる。

「一緒に、いこう?」

 行き場を失った幼子に向かって。
「でも……でも、光坂がリソナのこと嫌いになってて……リソナなんていらない、って言ったら、リソナどうすればいいですか? リソナ、1人になっちゃうですか?」
 差し出されたティトの右手を見つめながら、しかしリソナは迷いを見せる。
 その唇はぷるぷると震え、もう一度泣きだしてしまうのは時間の問題だ。
「…………?」
 リソナが発した疑問がよく分からないと言った様子で、ティトが首をかしげる
 そして、何のことはないように言った。
「一緒にいく、って言った。だから、わたしはリソナとずっと一緒にいるよ?」
「――――」
 リソナが、一瞬言葉を失う。
 涙に濡れた端整な顔が、先ほどよりもぐしゃぐしゃに歪む。
「うわぁ――ん!」
 金髪の少女は、ティトに抱きつき胸に顔を押し付けながら、泣いた。




「一件落着、といったところですか?」
 黙って事態を見守っていたセラが、待ちわびていたかのように声を上げる。
「どうかな」
 ティト・ハウンツ――彼女のことを詳しく知っているわけではない。が、ああいうタイプは先のことをそれほど考えていないだろう。この一件が終わった後、果たしてリソナの面倒を見続けられるのだろうか。
 ――アイツも大変だな。
 皆本創志のことだ。その苦労も喜んで受け入れるのだろうと思い、輝王は苦笑する。
 それに、リソナの心はまだ光坂に向いたままだろう。彼が再びリソナを利用しようとした場合、未然に防げる保証はない。本来ならこの場に拘束しておくべきなのだが……。
 ティトの胸の中でわんわんと泣くリソナを見ていると、その気も失せた。
「……リソナが泣きやんだら、先に進もう。皆本信二を追わなければ」
「それがいいでしょう」




 ティトは、誰にも聞こえないように、言葉を紡ぐ。
「やっぱり同じだよ。リソナとわたしは、同じ」
 紡ぐ。
「なんにも知らない、サイコデュエリスト
 金髪の少女に、自分の姿を重ねて。
 氷の中に閉じこもっていた自分。
 それでいいと思っていた自分。
 その姿を、光の子に重ねて。