遊戯王 New stage 幕間 2
「俺はさ、自分に酔ってただけなんだよ」
どんなときでも自信に満ち溢れていた彼の瞳に、初めて陰りが差した。
「矮小な力振り回して、正義の味方を気取ってたんだ。弱いくせに、みんなを守れると思ってた」
そんなことない、という慰めに、彼は首を横に振った。
「その結果がこれだ」
厚い雲に覆われた空を見上げ、彼は大きく息を吐く。
「……出てくよ。俺がここにいちゃいけないだろうからな」
どんなに言葉を重ねても、彼の決心は揺らぐことがなかった。
どんなときでも自信に満ち溢れていた彼の瞳に、初めて陰りが差した。
「矮小な力振り回して、正義の味方を気取ってたんだ。弱いくせに、みんなを守れると思ってた」
そんなことない、という慰めに、彼は首を横に振った。
「その結果がこれだ」
厚い雲に覆われた空を見上げ、彼は大きく息を吐く。
「……出てくよ。俺がここにいちゃいけないだろうからな」
どんなに言葉を重ねても、彼の決心は揺らぐことがなかった。
コンコン。
ドアをノックする音が聞こえ、矢心詠凛はカルテ整理を中断する。
壁に掛けられた時計を見れば、時刻は午後9時を回っている。
急を要する事態であればすぐさま電話がなるだろうし、ノックの感じからそれほど切迫した様子はない。
――気を利かせた麗千が、早めの夜食でも持ってきてくれたのだろうか。
「どうぞ」
そう思った矢心は、ドアの向こうの相手に入室を促す。
「失礼します……」
入ってきたのは、予想通り稲葉麗千だった。灰色の長髪を揺らし、セーラー服に身を包んだ彼女は、申し訳なさそうに前かがみになる。
「どうしたの? 麗千」
「あ、あの、大したことじゃないんですけど……ミカド、ここに来てませんか?」
「ミカド?」
ミカドというのは、彼女の弟――稲葉ミカドのことである。
彼は数年前「とある事件」に巻き込まれ、歩けなくなってしまった。今のところ回復の目処は立っておらず、車椅子生活が続いている。
「いえ、来てないわね」
「そうですか……どこ行っちゃんたんだろ。院内は一通り探したはずなのに……」
はあ、と深いため息をつく麗千。
いたずら好きのミカドが病室を抜け出すのはいつものことだった。さすがに他の入院患者――ワケありの人たち――にちょっかいを出すことはないが、おそらく姉である麗千を驚かせるために隠れているか、いたずらの下準備をしているのだろう。
そう考えたとき、数時間前に出て行ったデュエリストたちの姿が脳裏に浮かんだ。
なぜかは分からない。しかし――
「……建物の外は探した? 例えば中庭とか」
「外ですか? いいえ……だってあの子、外に出ることはすごく嫌がりますから。先生も知ってますよね?」
麗千の言うとおりだ。詠円院に入院してから、滅多なことがない限り、ミカドは病棟の外に出ようとはしなかった。
ミカドは言っていた。外に出ると「あのとき」を思い出してしまう、と。
「――そうよね。ごめんなさい」
ミカドには昔、とても慕っていたデュエリストがいた。彼の存在が、輝王たちの姿を連想させたのかもしれない。
「でも、病院内にはいなかったし……もちろん、ミカドが隠れそうな場所も探しましたよ! ということは、先生の言うとおり外にいるのかなぁ……」
細い顎に手を当ててうんうん考え始めた麗千に対し、
「……ここで考えてるくらいなら、見てきちゃったほうが早いわよ。ついでに夜風に当たって気分転換してきなさい」
アドバイスを送りながら、矢心は微笑を浮かべた。
ドアをノックする音が聞こえ、矢心詠凛はカルテ整理を中断する。
壁に掛けられた時計を見れば、時刻は午後9時を回っている。
急を要する事態であればすぐさま電話がなるだろうし、ノックの感じからそれほど切迫した様子はない。
――気を利かせた麗千が、早めの夜食でも持ってきてくれたのだろうか。
「どうぞ」
そう思った矢心は、ドアの向こうの相手に入室を促す。
「失礼します……」
入ってきたのは、予想通り稲葉麗千だった。灰色の長髪を揺らし、セーラー服に身を包んだ彼女は、申し訳なさそうに前かがみになる。
「どうしたの? 麗千」
「あ、あの、大したことじゃないんですけど……ミカド、ここに来てませんか?」
「ミカド?」
ミカドというのは、彼女の弟――稲葉ミカドのことである。
彼は数年前「とある事件」に巻き込まれ、歩けなくなってしまった。今のところ回復の目処は立っておらず、車椅子生活が続いている。
「いえ、来てないわね」
「そうですか……どこ行っちゃんたんだろ。院内は一通り探したはずなのに……」
はあ、と深いため息をつく麗千。
いたずら好きのミカドが病室を抜け出すのはいつものことだった。さすがに他の入院患者――ワケありの人たち――にちょっかいを出すことはないが、おそらく姉である麗千を驚かせるために隠れているか、いたずらの下準備をしているのだろう。
そう考えたとき、数時間前に出て行ったデュエリストたちの姿が脳裏に浮かんだ。
なぜかは分からない。しかし――
「……建物の外は探した? 例えば中庭とか」
「外ですか? いいえ……だってあの子、外に出ることはすごく嫌がりますから。先生も知ってますよね?」
麗千の言うとおりだ。詠円院に入院してから、滅多なことがない限り、ミカドは病棟の外に出ようとはしなかった。
ミカドは言っていた。外に出ると「あのとき」を思い出してしまう、と。
「――そうよね。ごめんなさい」
ミカドには昔、とても慕っていたデュエリストがいた。彼の存在が、輝王たちの姿を連想させたのかもしれない。
「でも、病院内にはいなかったし……もちろん、ミカドが隠れそうな場所も探しましたよ! ということは、先生の言うとおり外にいるのかなぁ……」
細い顎に手を当ててうんうん考え始めた麗千に対し、
「……ここで考えてるくらいなら、見てきちゃったほうが早いわよ。ついでに夜風に当たって気分転換してきなさい」
アドバイスを送りながら、矢心は微笑を浮かべた。
詠円院、中庭。
電灯が1つもないそこは、闇に包まれている。
その中心で、車椅子に腰かけた少年が夜空を見上げていた。
電灯が1つもないそこは、闇に包まれている。
その中心で、車椅子に腰かけた少年が夜空を見上げていた。
「テル兄ちゃん……」
呟いた少年の手には、1枚のカードが握られていた。
<ジェムナイト・パーズ>。
<ジェムナイト・パーズ>。