にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage 幕間 1

 俺は変わった。
 レビンはそう思っていた。
 腕っ節も、デュエルも強くなった。
 信頼できる仲間もできた。
 何でも屋のようなことをやっていたら、そこそこの金も入ってきた。
 いい医者も見つけた。
 もう、貧しさにあえいでいたあの頃とは違う――
 それなのに。
「ごめんね……おにいちゃん……」
 ベッドに横たわる妹の声は、信じられないほどにかすれていて。
 その小さな手のひらを握るレビンは、知らず知らずのうちに涙を流していた。
「なんでだよ……」
 嗚咽が漏れそうになるのをこらえながら、レビンは言葉を絞り出す。
「なんでなんだよ、シア……お前、昨日まではあんなに元気だったじゃんか……」
「……えへへ。我慢、しちゃった」
 最早、レビンの手を握り返す力もないのか。
 銀髪の少女は口元をわずかに吊り上げるが、その表情は笑顔とは程遠いものだった。
「――おにいちゃんはレボリューションのリーダーなんだから。おにいちゃんが落ち込んでると、みんなが不安になっちゃう……だから、心配かけたくなかったの……」
「バカ野郎……!」
 妹のシアは、元々体が弱かった。
 サテライトの淀んだ空気の中では、咳が絶えなかった。
 レビンたちが幼いころに仕事に出たまま帰ってこなかった両親は、どこにいるかも分からない。
「今、矢心先生呼んだから……もうちょっとで来るはずだから、それまでの辛抱だ」
 守りたかった。
 たった1人の家族を。
 だから、レビンは強くなったのだ。
「……おにいちゃん」
 か細い声で――しかし、今までの言葉よりははっきりと、シアがレビンの名を呼ぶ。
「なんだ? シア」
 レビンは立ち上がり、妹の顔を覗き込むようにしてから答える。

「おにいちゃん、みんなを、守ってね」

「――――」
 みんなを、守る。
 その言葉を心中で反芻したとき――
 シアの手から、完全に力が抜けた。

「レビン君! シアちゃんは――」
 矢心が部屋に駆けこんできたのは、それから1分後だった。








「<ジェネティック・ワーウルフ>でダイレクトアタック――これで、俺の勝ちだな」
 4本の腕を持つ人狼が強烈な拳を繰り出し、レビンのLPが尽きる。
「……ハッ。こんなんじゃ満足できねえな。お前、本気でやってなかっただろ?」
 紫のバンダナを巻いた青髪の男が、苛立ちを顕わにして問いかけてくる。
「…………」
 しかし、レビンに答える気力は残っていなかった。
 サテライト統一を目指すチームサティスファクション――噂は聞いていたが、よりによってこのタイミングで乗り込んでくるとは思いもしなかった。
 シアが死んだ、直後に。
「ディスクは破壊しないでおいてやるよ。もし次があるのなら……そのときは、満足させてくれよ?」
 そう言い残し、チームサティスファクションリーダー、鬼柳京介はレビンの前から立ち去って行った。
 体に力が入らない。
 両膝を地面につき、レビンは自分の周囲を見回す。
 ある者はディスクを破壊され悔し涙を流し、ある者は敗北を受け入れられずに呆然とし、ある者は圧倒的な強さに乾いた笑いを漏らしていた。
 そんな仲間たちの様子を見て、シアの言葉が脳裏に蘇る。
 みんなを、守ってね。
 ――そうだ。
 レビンはゆっくりと立ち上がり、左腕のデュエルディスクに手を添える。
 自分が負けたのは、まだ力が足りなかったから。
 この先仲間たちを守っていくには、さらなる力が必要だ。
「負けは、これで最後だ」
 誰にも聞こえないようにポツリと呟く。
 もっと強くなる。
 誰にも負けないように。
 みんなを守れるように。
 たくさんの人たちを、守れるように――







「――ビン? レビン?」
 自分の名前が呼ばれていることに気付いたレビンは、ハッと顔を上げる。
「大丈夫かい?」
 隣には、やせ細った白髪の男性、光坂の姿がある。今はシャツの上に白衣を羽織っているので、怪しげな研究者のような風貌だ。
 船長室として使われていた部屋からは、余計なものが運び出され、椅子とテーブルしかない殺風景な紋様に様変わりしてる。
 壁に寄り掛かって考え事をしていたレビンは、どうやらそのまま眠ってしまったようだった。
「……少し、昔のことを思い出してた」
「昔?」
「チームサティスファクションに負けたころのことさ」
 ――シアが死んだことを知っているのは、ジェンスだけだ。今やジェンス以上に信頼を置く光坂にも、話したことはない。
「リソナに侵入者を全員始末するよう指示したけど、構わないかな?」
 侵入者。
 その中には、自分の性を与えた少女――ティト・ハウンツも含まれているはずだ。
 レビンは、ティトに亡き妹の姿を重ねていた。
 だから、危険から遠ざけるために「処刑人」という役割を与え、前線には立たせないようにした。
 だが、それだけだ。
 ティトの姿を見れば見るほど、シアの面影を感じ、心が痛くなる。
 彼女はシアではないと分かっていても、求めずにはいられなくなってしまう。それではダメなのだ。自分はレボリューションのリーダーとして、サテライトの人々を守らなければならない。
 いつしか、ティトの住む廃美術館に足を運ぶ回数が減っていた。
 ティトが姿を消したと報告を受けても、それほど衝撃は受けなかった。
「……ああ。構わない」
 いい機会だ――束の間の夢は終わり。
 サテライトの人々を守るために、まずは腐った構図を壊す。
 そのための楔が、レボリューションだ。
 道を塞ぐ壁は、力を持って粉砕する。
 例え、妹の面影を重ねた少女であろうと。
「分かった。信二が戻ってきたら、船を出航させよう」
「了解」
 妹が託した純粋な願いは、果たしてどこで歪んでしまったのか。