にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage 番外編 ラスト・ドライブ―1

「やめてレビン! それ以上は――」
 無意味、と続けようとした切の声は、腹を蹴り上げられた男のうめき声によってかき消された。
「ぐ……が……」
 蹴られた腹を押さえながら、地面に倒れている男は体をくの字に曲げる。髪は派手な赤色に染まり、盛り上がった筋肉は相手に相当な威圧感を与えていたのだろうが、今は見る影もない。
 男の左腕にはデュエルディスクが装着されていたが、一目見て修理不能と分かるほど無惨に破壊されていた。
「……ダメだ。こいつは俺たちレボリューションに牙を剥いた。復讐や報復を考える気が起きなくなるまで、徹底的に潰す」
 そう言って、男の前に立つ茶髪の青年――いや、少年と現すべきだろうか――は、もう一度男の腹を蹴り上がる。先ほどよりも大きいうめき声が、廃墟となったビルに響き渡る。
 上下ともに黒い服に身を包んだ少年――レビン・ハウンツは、冷酷に男を見下ろす。
 男は助けを求めるように、レビンに向かって右腕を伸ばした。
「……<レイジオン>」
 対し、レビンは左腕に装着したデュエルディスクに、1枚のカードをセットする。
 ソリッドビジョンシステムがカードのデータを読み取り、モンスターの立体映像を映し出す――
「レビン!!」
 立体映像であるはずの悪魔の騎士は、息を呑むほどの圧迫感と共に現れる。
 レビン・ハウンツは、サイコデュエリストだ。
 本来なら虚像であるそれを、現実のものとする事ができる。
 <魔轟神レイジオン>の拳が固く握られ、2枚の翼が開く。すでに息も絶え絶えの男にさらなる攻撃を加えるつもりだ。健常な状態でも食らえばただでは済まないほどの重い拳。瀕死の人間が受ければ、どうなるかは明白だった。
 レビンの後方から事態の推移を見ていた友永切は、たまらずに駆け出す。柔らかな茶色の長髪が風になびき、その瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。
 いつからだろうか。
 レボリューションを取りまとめてきたリーダー、レビン・ハウンツ。彼の瞳が、あんなにも冷たく光るようになってしまったのは。
 <魔轟神レイジオン>の拳は、今にも振り下ろされそうだ。それを止めるために、切は懸命に右手を伸ばしてレビンの肩を掴もうとする。
 その動きを追い越す影があった。
「――絶対的な恐怖を植え付けるのはいいが、それは相手が生きていてこそ意味を成す。死んでしまっては元も子もない」
 レビンの前に立ちふさがったのは、ミリタリージャケットを羽織った身長2メートルを超す大男だった。倒れている男よりもさらに強靭な筋肉が、その体をより大きく見せている。
「ジェンス」
「ここまでで十分だ、レビン」
 ジェンス・マクダーレンは、自分よりも遥かに小柄なリーダーを諭すように告げる。
「……分かった」
 ジェンスから視線を逸らしつつ、レビンはディスクにセットされたカードをデッキに戻す。<魔轟神レイジオン>の姿が跡形もなく消え去った。
 それを隙と見たのか、男は手足をジタバタさせながら立ち上がり、決死の形相で出口に向かって走り出す。レビンとジェンスは男を視線で追っただけで、動こうとはしない。無論、切も追うつもりはなかった。
「切」
 男の姿が見えなくなってから、レビンが口を開いた。
「アイツは仲間に手を出した。俺は、仲間を守るためなら鬼にだってなってやる」
 決意を語るレビンは、目の前ではなくどこか遠くを見ているようだった。
 そんな彼の様子を見ていると胸が締め付けられ、出かかっていた言葉を呑み込んでしまう。
「容赦はしない。俺の方針についていけないと言うなら、今すぐレボリューションから去れ」












「はあ……」
 適当な廃材に腰かけながら、コッペパンをかじる。小麦粉の素朴な味が口の中に広がった。
 シャツの上にベストを着こみ、短パンを履いて生足を惜しげもなく晒す。
 澄み切った青空とは対照的に、切の心は淀んでいる。考えるのは、もちろんレビンのことだ。
 彼は変わってしまった。
 出会ったとき、この荒んだサテライトの地に、レビンは希望を見出していた。みんなを守るために、この世界を変えると。
 みんなを守る。その想いは変わっていないはずなのに、今のレビンからはかつてのような温かさは感じられない。
 思い返せば、レビンが決定的に変わったのはチームサティスファクションとのデュエルで敗北したのがきっかけだった気がする。切は屋外で蟹のような髪型のデュエリストに勝負を挑まれてしまったため、リーダー同士の対決がどのようなものであったかは知らなかった。
「よっぽどひどい負け方をしたのかしら……」
「誰が?」
「ひゃあ!」
 突然すぐ隣から聞こえてきた声に、切は驚いて跳び上がる。
「…………」
 切の反応に、座っていた少女は不満げな視線を向けてくる。腰に届くほど黒髪を伸ばし、若草色の着物に身を包んだ少女だった。
「ひ、ヒメちゃん? いつからそこに!?」
「……切が一緒にご飯食べようって言ったのに。急に考え事始めたと思ったら、ぶつぶつと独り言始めて、気持ち悪かった」
「ほったらかしにしたのは謝るけど気持ち悪いはひどくない!?」
「数秒の間にわたしのことを忘れちゃうほうがひどい」
「ああん! だからごめんって! 許してちょうだいお姫様!」
「…………やだ」
 姫花の容赦ない一言に、切は精神的ダメージを受ける。