にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage 番外編 ラスト・ドライブ―2

 ふい、とあさっての方向を向いてもくもくとパンをほおばる姫花。その様子を見ていた切は、レビンの妹であるシアのことを思い出した。
「よう! やっぱここにいたか」
 ちょうどその時、威勢のいい声と共にレボリューションメンバーである大石が姿を現した。両耳にいくつものピアスをつけ、革ジャンを着こんだその姿は、時代遅れのミュージシャンを連想させる。
 大石の出現を敏感に察知した姫花が、さっと切の背に隠れる。姫花が光坂たちと共にレボリューションに入ってから大分日が経っていたが、いまだ切以外のメンバーとは馴染めないでいた。
「ちょうどよかった。大石、シアが今どうしてるか知ってる? 最近姿を見ないけど」
「シア? 確か病状が悪化したとかで、どっかの病院に入院したって誰かが言ってたぜ」
「病院……ね」
 シアは元々体が弱く、過酷なサテライトの環境に耐えきれずに体調を崩して寝込んでいることが多かった。しかし、入院していたとは初耳だ。あとでレビンから場所を聞き出して見舞いに行かないと。
「ありがと。もう聞きたいことはないから、行っていいわよ。大石の声聞いてるとなんかムカムカしてくるし」
「うおい! だから本音をさらっと言うんじゃねえよ! それに、用事があるのはこっちだっての!」
 理不尽な中傷を受けた大石が声を荒げるが、そこまで怒っている感じはしない。長い付き合いだ。切が本音を隠さずに言いたいことをズバズバ言うのに慣れているのだろう。
 本人は自覚していないが――それでも切が皆から嫌われないのは、彼女が心から仲間たちのことを想っているからだ。
「用事ぃ?」
「あからさまに嫌そうな顔すんな。それと、用事があるのはお前じゃなくて姫花の方だよ」
「ヒメちゃんに?」
 自分の名前を呼ばれ、姫花は切の背に隠れたままちょこんと顔を覗かせる。
「ああ。光坂が呼んでたぜ。頼みたいことがあるんだと」
「…………」
 大石の言葉に、姫花はすっと立ち上がると無言のまま大石の脇を通り過ぎ、歩いて行ってしまう。
「相変わらず愛想のねえガキだな」
「そう? かわいいわよ」
「……そう思ってんのはお前だけだ」
 不機嫌そうな大石を眺めながら残りのパンを押しこみ、切も腰を上げる。
「さて! それじゃ食後の散歩と行きますか! ホントはヒメちゃんをいじくり回しながら暇を潰そうと思ってたけど、仕方ないわね」
「気をつけろよ。『城蘭』(じょうらん)の連中がうろついてるかもしれねえからな」
「こないだ潰した『バーシャナ』とつるんでたデュエルギャングだっけ? 『バーシャナ』のリーダーがあんだけ痛めつけられたんだから、妙なことは起こさないと思うけど」
 光坂たちがメンバーに入ってから、レボリューションの規模は拡大傾向にある。勢力が増すということは、それだけ敵が増えるということだ。最近は、別勢力から喧嘩やデュエルをふっかけられることが多くなっていた。
 名前の出た「城蘭」と「バーシャナ」は、別のチームであるもののリーダー同士の仲がよく、行動を共にすることが多かった。
 先日、バーシャナがレボリューションのメンバーを人質に取り、傘下に下るよう脅しをかけてきた。が、それがレビンの逆鱗に触れてしまい、結果としてバーシャナは解散に追い込まれてしまった。
――私は、昔のようにみんなでワイワイやってるままでもよかったんだけどな。
 バーシャナのリーダーを痛めつけるレビンの姿が蘇る。
「ねえ。大石は最近のレビンを見てどう思う?」
 切にしては珍しく、本音を隠したまま、問う。
「どうって……確かに変わった気はするが、別にいいんじゃねえの。前よりも凄味が増したっつーか、リーダーらしくなったしな。成長したんだろ」
 切とは違い、大石はレビンの変化を肯定的に見ているようだ。
「成長、っていうのとはちょっと違うと思うんだけどな……」
 大石の意見に、切の心中は余計にもやもやしたが、これ以上考えていても仕方ないと思考を切りかえるために大きく背伸びをする。
「じゃ、行ってくるわ。留守番よろしく~」
「あいよ」
 大石が頷いたのを確認したあと、切は歩き始めた。











 ゼロリバースの影響で廃墟と化したビル群。行けども行けども荒廃した景色を視界に映しながら、切は当てもなく歩いていた。
 人の気配はない。最も、気配を隠しているだけかもしれないが。
 切の父親はゼロリバースの際に亡くなったそうだ。母親は女手一つで切を育ててくれたが、過労のせいで体を壊し、そのまま息を引き取った。3年前のことだ。
 1人になってしまった切が見つけた居場所――それが、レボリューションだった。
 レビンと同時に、レボリューション自体も変わってきている。
 他のチームから目をつけられていることもそうだが、組織内でも派閥のようなものができつつあるのだ。切や大石たち古参組と、光坂を中心とした新参組。事実、光坂が連れてきたメンバーの中で、まともに話したことがあるのは姫花くらいだ。
 切の知らない部分で、例えようのない何かが浸食している錯覚。
 このまま放置すれば、切の居場所であるレボリューションが壊れてしまうような――そんな漠然とした不安を覚える。
 しかし、かといって何をすればいいのかは分からない。
「はあ……」
 自然とため息がこぼれた。
 すると、どこからか波の音が聞こえてくる。考え事をしているあいだに、随分と遠くまで来てしまったようだ。
 そろそろ引き返そうと身を翻した瞬間――
 ざりっ、と地を踏みしめる音が聞こえた。
 音の発生源は、切の左斜め前――ビルとビルの間にできた隙間からだ。
 足音の主は気配を隠すこともせずに、堂々と姿を現す。
「あー、いきなりですまねえが、ちょっといいか? 聞きたいことがあるんだ」
 癖っ毛なのか、ところどころが跳ねた黒髪に、少年特有のあどけなさを残した顔立ち。しわくちゃのスーツを着た男は、澄んだ声でそう告げた。
「…………」
 切は歩みを止め、注意深く男を観察する。年齢は10代後半のように見えるが、それにしては立ち振る舞いが落ち着いている。
「アンタ、レボリューションのメンバーだろ?」
「――ッ!」
 その単語が男の口から出た瞬間、切はさらに警戒を強めた。
 見かけない顔だ。城蘭のメンバーか、それともバーシャナの残党か……
 ――違う。
 男の着ているスーツはくたびれてはいたが、擦り切れてはいない。それに、元の素材も良質なものだ。同じ洋服をボロボロになるまで着回すのが当たり前のサテライトの人間なら、こんな上等なスーツを着ているはずがない。
 加えて、男から発せられる「匂い」で切は確信した。
 男がシティの人間であることを。
 切の様子に気付いているのかいないのか、男は変わらない調子で続ける。
「俺の名前は高良火乃。ちょっとした事件を追っててな。レボリューションの情報が必要なんだよ」