遊戯王 New stage 22
「もう少しじゃ。踏ん張れ、ジェンス」
「……実戦から遠ざかっていたツケだな。あそこまで体がなまっていたとは思わなかった」
「……冗談じゃろ?」
仮面の軍勢や<コアキメイル>モンスター相手に、生身で大立ち回りを演じていたジェンスの姿を思い出し、切は渇いた笑いを漏らす。
貨物船の前部甲板に続く階段の踊り場。ジェンスに肩を貸した格好の切は、最後の決戦が行われているだろう場所を目指していた。
創志が前部甲板まで辿りつけたかどうかは分からない。
しかし、感じるのだ。
緊迫した戦場の空気が、ここまで流れてきている。
「――止まれ、切」
体の至る所に傷を負ったジェンスが、切にだけ聞こえるくらいの音量で呟く。
切自身も満身創痍だったが、何とか致命傷は負っていない。
「人の気配を感じる。後ろだ」
「――ッ!?」
ジェンスの指摘を受け、切はすぐさま後ろを振り向く。
そこには――
「……実戦から遠ざかっていたツケだな。あそこまで体がなまっていたとは思わなかった」
「……冗談じゃろ?」
仮面の軍勢や<コアキメイル>モンスター相手に、生身で大立ち回りを演じていたジェンスの姿を思い出し、切は渇いた笑いを漏らす。
貨物船の前部甲板に続く階段の踊り場。ジェンスに肩を貸した格好の切は、最後の決戦が行われているだろう場所を目指していた。
創志が前部甲板まで辿りつけたかどうかは分からない。
しかし、感じるのだ。
緊迫した戦場の空気が、ここまで流れてきている。
「――止まれ、切」
体の至る所に傷を負ったジェンスが、切にだけ聞こえるくらいの音量で呟く。
切自身も満身創痍だったが、何とか致命傷は負っていない。
「人の気配を感じる。後ろだ」
「――ッ!?」
ジェンスの指摘を受け、切はすぐさま後ろを振り向く。
そこには――
「……せつ?」
不思議そうに首をかしげた銀髪の少女が、無防備に立っていた。
「ティ、ティト!? 無事じゃったのか!」
「うん」と頷くティトの姿は、切と似たり寄ったりだった。おそらく、仮面の軍団の攻勢をくぐりぬけてきたのだろう。
「おい嬢ちゃん! 危ねえから勝手に先進むんじゃねえってさっきから――」
階下から声が響いたかと思うと、中折れ帽を被った青年が階段を駆け上がってくる。
その背中には幼い金髪の少女が背負われていた。両目を閉じ、すやすやと寝息を立てている。
「――っと。そっちも無事だったみたいだな、着物の嬢ちゃん」
「神楽屋……? お前がどうしてここに。しかもリソナも一緒とは……」
「そりゃこっちのセリフだぜ。ジェンスのおっさん。リーダーの命令には絶対服従のアンタがここにいるなんてな。その様子だと、着物の嬢ちゃんを助けて戦ってたんだろ?」
「……まあそんなところだ」
神楽屋とジェンスが言葉を交わしているあいだ、切はきょろきょろと辺りを見回す。
「宇川はどうしたのじゃ? セラの姿も見えないようじゃが」
神楽屋と共に残った宇川。ティトや輝王と共に休憩室にいたはずのセラ。どちらも姿を現しそうな気配がない。
「あのオカマなら、やることがあるとか言ってどっか行ったぜ。……何をやるのか多少気にはなったが、アイツの気持ち悪さに吐き気を起こしたんでな。さっさと別れたよ」
「……セラは、かぐらやと会う少し前にはぐれちゃった」
セラの行方を探せなかったことを悔やむように、ティトがしゅんとする。
「――今から戻って探すわけにもいかないじゃろう。無事を祈るしかないの」
そんなティトを慰めるように、切は優しく声をかける。2人はアルカディアムーブメントの人間なのだし、そう簡単に命を落とすようなことはないだろう。
「そろそろ先を急ぐぜ。目的地はすぐそこなんだ」
場を仕切り直すように、神楽屋が声を上げる。
切は視線を上げ、階段の先にある扉を見つめる。
そこから漏れ出る戦場の空気を肌で感じながら、一歩一歩階段を上っていく。
「……開けるね」
そう言って、ティトが扉のノブに手をかける。
ギギギ……と音を立て、鉄製の扉が開いていく。
その先に広がるのは――
「ティ、ティト!? 無事じゃったのか!」
「うん」と頷くティトの姿は、切と似たり寄ったりだった。おそらく、仮面の軍団の攻勢をくぐりぬけてきたのだろう。
「おい嬢ちゃん! 危ねえから勝手に先進むんじゃねえってさっきから――」
階下から声が響いたかと思うと、中折れ帽を被った青年が階段を駆け上がってくる。
その背中には幼い金髪の少女が背負われていた。両目を閉じ、すやすやと寝息を立てている。
「――っと。そっちも無事だったみたいだな、着物の嬢ちゃん」
「神楽屋……? お前がどうしてここに。しかもリソナも一緒とは……」
「そりゃこっちのセリフだぜ。ジェンスのおっさん。リーダーの命令には絶対服従のアンタがここにいるなんてな。その様子だと、着物の嬢ちゃんを助けて戦ってたんだろ?」
「……まあそんなところだ」
神楽屋とジェンスが言葉を交わしているあいだ、切はきょろきょろと辺りを見回す。
「宇川はどうしたのじゃ? セラの姿も見えないようじゃが」
神楽屋と共に残った宇川。ティトや輝王と共に休憩室にいたはずのセラ。どちらも姿を現しそうな気配がない。
「あのオカマなら、やることがあるとか言ってどっか行ったぜ。……何をやるのか多少気にはなったが、アイツの気持ち悪さに吐き気を起こしたんでな。さっさと別れたよ」
「……セラは、かぐらやと会う少し前にはぐれちゃった」
セラの行方を探せなかったことを悔やむように、ティトがしゅんとする。
「――今から戻って探すわけにもいかないじゃろう。無事を祈るしかないの」
そんなティトを慰めるように、切は優しく声をかける。2人はアルカディアムーブメントの人間なのだし、そう簡単に命を落とすようなことはないだろう。
「そろそろ先を急ぐぜ。目的地はすぐそこなんだ」
場を仕切り直すように、神楽屋が声を上げる。
切は視線を上げ、階段の先にある扉を見つめる。
そこから漏れ出る戦場の空気を肌で感じながら、一歩一歩階段を上っていく。
「……開けるね」
そう言って、ティトが扉のノブに手をかける。
ギギギ……と音を立て、鉄製の扉が開いていく。
その先に広がるのは――
闇、だった。
「お兄ちゃん、みんなを、守ってね」
妹が残した最後の願い。
レビンは、それを果たしたいだけだった。
自分の力で、みんなを守る。
自分の力で、たくさんの人々を救う。
いつからだろうか。
大勢の人々を救うために、1人の仲間を切り捨てるようになったのは。
いつから、歪んだ?
本当は分かっていた。
自分が間違っていると。
それでも――
足を止めれば、脳裏に焼きついた妹の笑顔が消えてしまいそうで、怖かった。
――俺は。
それ以上考えることはできず、レビンの意識は闇に呑まれた。
妹が残した最後の願い。
レビンは、それを果たしたいだけだった。
自分の力で、みんなを守る。
自分の力で、たくさんの人々を救う。
いつからだろうか。
大勢の人々を救うために、1人の仲間を切り捨てるようになったのは。
いつから、歪んだ?
本当は分かっていた。
自分が間違っていると。
それでも――
足を止めれば、脳裏に焼きついた妹の笑顔が消えてしまいそうで、怖かった。
――俺は。
それ以上考えることはできず、レビンの意識は闇に呑まれた。