にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage 23

 闇の化身ともいうべきモンスターを従えた光坂は、悠然と両手を広げる。
 彼は言っていた。より優れた力を持つ、進化した<ジェネクス>。それが<レアル・ジェネクス>だと。
 その進化の果て――
 そこに在るのが、「終焉」の名を冠した闇なのか。

<レアル・ジェネクス・ジエンド>
融合・効果モンスター(オリジナルカード)
星12/闇属性/機械族/攻3000/守2500
「レアル・ジェネクス・クロキシアン」+悪魔族シンクロモンスター
このカードが融合召喚に成功した時、相手の墓地に存在するシンクロモンスター1体を選択し、
装備カード扱いとしてこのカードに装備する事ができる。
このカードの攻撃力は、この効果で装備したモンスターの攻撃力分アップする。
このカードが戦闘を行う場合、相手プレイヤーが受ける戦闘ダメージは0になる。
このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地に送ったとき、
相手ライフに1000ポイントのダメージを与える。
このカードはカードの効果では破壊されない。

 脈動する闇を前に、創志は圧倒される。
 自分の体も、レビンのように呑まれてしまいそうな錯覚に陥ったところで、それをかき消すためにブンブンと首を振る。
 ――呆けるな!
 心中に宿る戦いの炎を確かめ、創志は<レアル・ジェネクス・ジエンド>を睨みつけた。
「<レアル・ジェネクス・ジエンド>が融合召喚に成功した時、相手の墓地に存在するシンクロモンスターを1体選択し、このカードに装備することができる。僕は創志の墓地に眠る<A・ジェネクストライフォース>を頂くよ……もう一度ね」
 未だ広がっている影の沼から、黒い鎖が飛び出す。
 鎖は創志のデュエルディスクの墓地ゾーンに侵入すると、<A・ジェネクストライフォース>の体を引きずり上げた。
「なっ!? <トライフォース>!」
「<レアル・ジェネクス・ジエンド>の攻撃力は、装備したモンスターの攻撃力分上昇する。<トライフォース>の攻撃力は2500だから……」
 バガン! と腹部分の鎧が割れ、鎖に囚われた銀色の機械兵が<レアル・ジェネクス・ジエンド>の闇の中へと引きずり込まれていく。
 <A・ジェネクストライフォース>を完全に取りこんだところで、割れた鎧が修復し、終焉をもたらす闇の悪魔の体が膨張する。
「<ジエンド>の攻撃力は、5500だ」
 闇が、その力を解き放つ瞬間を待ちわびているかのように蠢く。
「攻撃力5500……」
 輝王が呻く。<レアル・ジェネクス・ジエンド>の攻撃力は、<AOJディサイシブ・アームズ>のそれを安々と越えていた。
「……先に忠告しておこうかな」
 ふと思いついたように、ポツリと光坂が呟く。

「死なないようにね」

 聞く人に恐怖を与えるような字面とは対照的に、光坂の声色はあまりにも平坦だった。
「……ッ! 来るぞ輝王! そっちは自分で何とかしろよ!」
「お前に言われるまでもない!」
 互いに<レアル・ジェネクス・ジエンド>から目を逸らさないまま、創志と輝王は叫びあう。
 どちらか片方が倒れれば、そこでこのタッグデュエルの決着がついてしまう。
 パートナーの足を引っ張るわけにはいかない。
「<レアル・ジェネクス・ジエンド>で<AOJディサイシブ・アームズ>を攻撃」
 主人の命を受け、闇の悪魔がゆっくりと両腕を持ちあげる。
「これが幕引きの鐘だ――グランド・フィナーレ!!」
 ガコン! と<レアル・ジェネクス・ジエンド>を両手を形成していた手甲が外れ、そこから圧倒的な量の闇が放出される。
 水流のように波打つ闇は、巨大な要塞をあっという間に覆い尽くす。
 金属を無理矢理押し潰しているような不快な音が、フィールドに響き渡る。
 姿は見えないが、<AOJディサイシブ・アームズ>が健在であることは絶望的だろう。
「<レアル・ジェネクス・ジエンド>が戦闘を行う場合、相手プレイヤーが受ける戦闘ダメージはゼロになるけど――<ジエンド>がモンスターを破壊し墓地に送った時、相手ライフに1000ポイントのダメージを与える!」
 止むことのない闇の放出。
 決戦兵器を葬った闇の激流が、創志と輝王に襲いかかってくる。
「再演は無しだ。失敗は許されないよ」
 降り注ぐ闇は、広大な滝を連想させた。
「ぐ――」
 構えることは出来た。
 声を上げる前に、創志の視界が黒一色に染まった。












 <レアル・ジェネクス・ジエンド>は、絶え間なく闇を吐き出し続ける。
 黒の沼は前部甲板全体を浸食していたが、それ以上は広がろうとしない。
 より濃く。より深く。
 密度を増した闇が創志と輝王を飲み込んでから、数分が経とうとしていた。
 死なないでね。
 光坂は、彼らにそう忠告した。
 事実、2人が<レアル・ジェネクス・ジエンド>の放った闇――「グランド・フィナーレ」によって致命傷を負うことはないだろう。彼らを呑み込んだ闇は、<AOJディサイシブ・アームズ>を葬ったものとは異なっていた。
 傷つけるのは、肉体ではなく精神。
 拳をぶつけ合う格闘技でも強い精神力は勝敗を分かつ要因のひとつだが、デュエルにおいてはその重要度は遙かに増す。
 戦う意志を支える強靱な精神力がなければ、心を折られ、敗北への道を進むしかない。
 まして、それが痛みを伴うサイコデュエリストとの勝負ならなおさらだ。
 激痛を耐え抜き、冷静に思考し、勝ちたいと強く願う――そうすることで、ようやく勝利へのわずかな光が生まれるのだ。
 「人間」としては死なない。
 だが、「決闘者」としてはどうだ?
 創志の心は、このデュエル中に一度折れかけている。輝王の檄によって何とか戦意を取り戻したようだが、生まれた亀裂はそう簡単に修復できるものではない。弟である皆本信二の裏切りや、両親が犠牲になった事実を改めて突きつけてやれば、決壊するのは時間の問題だ。
 輝王は、親友の仇を取るためにサテライトにやってきたという「業」がある。光坂に洗脳されていたとはいえ、自分を慕っていた後輩を危険にさらした負い目もあるはずだ。
 とはいえ、ここまでのデュエルを耐え抜いてきた男だ。屈服させるには手間がかかるかもしれない。
 いずれにしよ――
 ここが、終局だ。
 2人の若造を葬り、光坂率いるレボリューションは、新たな舞台の建造のために動き出す。
 そう考えたときだった。
 光坂の視界の隅、船内へと通じる扉が開いている。
「耐えるのじゃ! 負けてはならんぞ、輝王!!」
「お前の強さを見せてみろ……輝王正義!」
 声が響く。
 姿を現したのは、偽りの記憶に踊らされた少女と、力を持てなかった大男。
「負けんじゃねえぞ坊主! この俺を負かしたんだ! 無様に死にやがったら承知しねえぞ!」
 そして、自らの力を信じられなかった青年。
 姿を見せた3人――1人は少女をおぶっていたが――は、闇の中にいるはずの決闘者向かって声を振り絞る。
 くだらない。
 肉親や古くからの親友ならまだしも、彼らは出会ったばかりの赤の他人同士だ。
 そんな浅い言葉で、<レアル・ジェネクス・ジエンド>の闇を取り除けるはずがない。
 光坂は侮蔑を込めた視線を向けるが、声が止むことはない。
 彼らの行為を嘲笑うかのように、闇は深さを増す。
 その時だった。

「――そうしっ!」

 新たな声が、重なる。