にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage サイドS 8-5

 創志たちが入ってきた入口のちょうど対角線にある扉から、一人の男が姿を現す。
 首にかかるほどに伸びた黒髪に、闇を引きこんでいるかのではないかと錯覚させるような漆黒のスーツ。その黒とは対照的に、柔和な笑みを貼り付けている。左腕には、銀一色に装飾されたデュエルディスクを装着している。
「……皆本、信二」
「信二ぃ!」
 その人物の登場に、即座に反応したのは2人。
 ジェンスは信二の存在を認めると、複雑な表情を浮かべて顔を伏せる。
 創志は勢いよく吠えると、弟に向かってすぐさま駆け出す。信二の澄ました顔を見ていると、一言説教してやらないと気が済まない。
「待つのじゃ!」
 走り始めた創志の進路を塞ぐように、切が左手を伸ばす。
「なっ……」
「迂闊に近づくでない!」
 抗議の声を上げる前に、切からの叱責が飛ぶ。
「気付いてたのか……残念」
 口元を釣り上げた信二のデュエルディスクは、すでに起動していた。
 そして、静かに佇む少年から発せられる、濃い殺気。
「そんな……!? あいつにサイコデュエリストの力なんてなかったはずだ!」
 自分で言ってから、気付く。創志の首に巻かれたチョーカー……これは、強制的にサイコデュエリストの力を引き出すためのものではなかったか。
 だが、信二の首元に同じようなチョーカーは巻かれていない。
「僕の全てを知ってるような口ぶりはやめてよ、兄さん。いつまでもあなたの知ってる皆本信二じゃない。僕は変わったんだ」
「信二……!」
 自然と握った拳に力が入る。信二の言うとおり、創志の知る優しい弟はいなくなってしまったのだろうか。
「――レビンもそうだったが、後天的に能力が発現することもある。皆本信二もそのクチだ」
「余計なことは言わないでください、ジェンスさん」
 仲間であるはずのジェンスに向けた視線は、彼を射殺すかのように鋭かった。
 信二がティトや竜美と同じ、サイコデュエリスト……俄かには信じられなかったが、切が創志を止めたことが、その事実を裏付けていた。
「兄さんも、僕に付きまとうのはやめてくれないかな。僕はもう、1人でやっていけるんだ」
 突き放すような言葉。
 だが。
 そんなことは関係ないんだ。
「ワリイけど、お前の言い分なんて聞く耳もたねー! 俺は、お前を連れ帰る! お前の兄貴としてな! 誰が何と言おうとだ!」
「なっ……」

「信二がいない生活なんて、俺は嫌だからな!」

 言い切る。否定されようが罵られようが、この想いだけは捨てない。
 そうしなければ、創志が戦場に戻ってくることはなかったからだ。
「そんな勝手を……」
 この場に姿を見せてから初めて、信二が困惑する。
「よく言ったわ創志ちゃん! それでこそアタシが愛する価値がある!」
 最初に声を上げたのは宇川だった。
「わたしは、そうしを手伝う。今度こそ」
 隣にいるティトが、しっかりと前を見ながら言う。
「――気に入ったぞ、創志! わしも、わしの仲間たちのために全力で戦う!」
 刀を構えた切が、体に力を漲らせる。
「まったく。一度死にかけたというのに、変わりませんね。ですが、ティト様のためです……私も加勢するとしましょうか」
 うんざりとした口調で、セラが眼鏡のブリッジを押し上げる。

「――変わらぬ強さ、か。俺も負けてはいられないな」

 最後に、輝王が創志の横に並んだ。
「くっ……」
 その迫力に気圧された信二が、わずかに後ずさり、うつむく。
「信二! こっちに来い! 一緒に帰るぞ!」
 創志は右手を伸ばす。
 先刻、銀色の少女の手を引いたときと同じように。
「……ずっと嫌いだったんだよ」
 腹の底から絞り出したような声が、信二の口から発せられる。
 まるで、信二が立つ場所から闇が這い出てきそうな――そんな雰囲気を纏う。

「そうやって、善意を押し付ける兄さんがさぁ!!」

 叫んだと同時、信二はディスクにセットされたデッキから、1枚のカードを引く。
「まずいわ!」
 宇川の忠告は、すでに遅かった。
「呑み込めッ……<天魔神ノーレラス>!」
 信二のディスクから、ドバァ! と闇の奔流が沸き出る。
 漆黒の闇は瞬く間に部屋中を覆い尽くし、創志たちの視界を奪う。
「なっ――」
「ぬお!?」
 周囲から仲間たちが驚く声が聞こえてくるが、手を伸ばす暇すらない。
 浮かび上がる、歪な角を生やした骸骨。
 それが<天魔神ノーレラス>であることに気付いたとき――
「インフィニティ・カオス」
 創志の体が、白い光に包まれた。