にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage サイドS 10-8

 ――これが、僕の力。
 ――僕だけの力だ!
 自らも奔流に晒されながら、信二は気分が高揚していくのが分かった。高笑いをあげたいくらいだった。
 誰かに頼らなければ、生きていなかった自分。
 誰かの帰りを待つしかなかった自分。
 そんな情けない「皆本信二」は死んだ。
 光坂の手助けによってサイコデュエリストの力に目覚め、自分の足で立つことができるようになった。歩けるようになった。
 もう、誰かの手助けはいらない。
 誰かの足枷になることはない。
 これからは、自分の力だけで生きていける。
 だから。
 それを証明するためにも、負けるわけにはいかない。
 やがて黒と白の奔流が収まり、前部甲板本来の光景が戻ってくる。
 フィールドには、<A・ジェネクス・トライアーム>も、<天魔神ノーレラス>の姿もない。振り出しに戻ったかのような状況だが、信二も創志も手札を持っていなかった。
 目の前に立つ兄は、右手で頭を押さえ、必死に苦痛をこらえているようだ。歯ぎしりの音が聞こえてきそうなほど、強く奥歯を噛んでいるのが分かる。<天魔神ノーレラス>の効果――「インフィニティ・カオス」に耐えきったのは上出来だが、すでに限界だろう。
 創志の背後にいるギャラリーは、誰ひとり口を開こうとしない。神楽屋やジェンスの「元」レボリューションメンバーは、こうなるのが分かっていたのだろう。
「<ノーレラス>の効果はこれで終わりじゃない。全てのカードを墓地に送った後、僕はカードを1枚ドローできる」
「な……に……!?」
 創志がかすれた声を出す。
 ――もういい。さっさと楽にしてあげよう。
「兄さんの残りライフは1400。僕が攻撃力1400以上のモンスターを引けば、それで終わりだ」
 信二には分かっていた。
 デッキは、自分の想いに応えてくれると。
「だって、僕には世界を変える力があるんだから」
 自分にだけに聞こえるように呟き、信二はデッキからカードを引く。
 最早、確認するまでもない。
「――僕は<インヴェルズを呼ぶ者>を召喚」
 信二のフィールドに、スズムシを模した悪魔が出現する。

<インヴェルズを呼ぶ者>
効果モンスター
星4/闇属性/悪魔族/攻1700/守   0
このカードをリリースして「インヴェルズ」と名のついたモンスターの
アドバンス召喚に成功した時、自分のデッキからレベル4以下の
「インヴェルズ」と名のついたモンスター1体を特殊召喚する事ができる。

 その攻撃力は、創志のライフを超える1700。
「バトルだ。<インヴェルズを呼ぶ者>でダイレクトアタック」
 ガパッ! と口を開いた<インヴェルズを呼ぶ者>は、中に在ったスピーカーから超音波を発する。
 空気を振動させるその音波が、創志の命を削り取る。
 ――これで、終わりだ。
「さよなら、兄さん」
 信二を縛っていた鎖は断ち切られた。
 これから信二はレボリューションの一員として、腐った世の中を変革するための第一歩を――

「――何、言ってやがる?」

 信二の耳に、聞こえるはずのない声が響く。
「こんな結末、認めるわけねえだろ!」
 視線の先。
 兄――皆本創志は、まだそこに立っていた。











「なん……で?」
 目が泳ぎ、信二がはっきりと動揺を顕わにした。
「<ノーレラス>の効果が発動するとき、<スクラップ・シールド>を発動しておいた。自分の墓地に3体以上<ジェネクス>が存在するとき、戦闘ダメージを半減させる」

<スクラップ・シールド>
通常罠(オリジナルカード)
自分の墓地に「ジェネクス」と名のついたモンスターが3体以上存在するときに発動できる。
このカードを発動したターン、自分の受ける戦闘ダメージは半分になる。


【創志LP1400→550】

 ――このカードには、ピンチを救ってもらってばっかだな。
 がらくたを貼り合わせて作られた即席の盾に、創志は感謝の念を送る。
 そして、決着がついたと思いこんでいる弟を睨みつけた。
「さあ! まだお前のターンだぜ! 信二!」
 創志が叫ぶと、信二はびくりと体を震わせた。そこに、これまでのような自信は存在しない。
「こ、これ以上できることはないし……ターンエンドだよ」
「そうかよ。なら、俺のターンでケリをつけてやる!」
 創志は声を枯らして叫び、自らを奮い立たせる。
 頭が割れるように痛む。
 視界が歪む。
 足に力が入らない。
 限界など、とうに超えていた。

【信二LP800】 手札0枚
場:インヴェルズを呼ぶ者(攻撃)
【創志LP550】 手札0枚
場:なし