遊戯王 New stage サイドS 10-1
創志の記憶の中の信二は、いつも弱々しく微笑んでいた。
辛さを押し殺して、心配をかけまいと無理して笑っていた。
デュエルをしている最中でも、その笑みは消えることがなかった。
しかし。
「デュエルだ。僕が勝ったら、レボリューションの活動停止は取り消してもらう」
今、創志の目の前に立つ少年は、自信に満ち溢れた瞳をぎらぎらと輝かせている。
しっかりと両の足で立つ信二の姿は、創志の記憶にはないものだ。
「信二……君は……」
「邪魔者は潰す。それがレビンさんの方針だったはずです。あの女も、今頃は海の藻屑でしょう」
光坂が口を開くと、続きを言わせないように早口でまくし立てる信二。彼の言う「あの女」が誰なのかは分からないが、今まで姿を見せなかったことと、レビンが言っていた「仕事ができた」というセリフから考えるに、誰かとデュエルをしていた可能性が高い。
「受けるよね? 兄さん」
口の端を釣り上げる信二の顔には、かつての儚さは無い。
創志は「ごめん」と断ってから胸の中のティトを引き離すと、信二に向き直る。
「……いいぜ。デュエルだ」
こうなることは覚悟していた。
「その代わり、俺が勝ったらレボリューションを抜けて一緒に帰るんだ」
――今の信二には、譲れないものがある。
信二は創志の弟だ。内に秘めた覚悟は、そう簡単に折れはしないだろう。
言葉は届かない。それならば、デュエルで分からせるしかない。それが創志なりの説得だった。
「条件を呑むよ。僕が負けることはあり得ないからね。覚えてる? 兄さん、僕にデュエルで勝てたことほとんどなかったよね」
「……2回くらいは勝った」
「100回以上やって、でしょ?」
ささやかな反論も、自信を漲らせた信二には届かない。
信二はくるりと身を翻し、創志に背を向けると、二、三歩距離を取る。
「子供扱いはもううんざりだ。分からせてあげるよ、兄さん……僕はもう1人で戦えるってことをね」
表情を見せないよう告げた信二の背中は、夢の中で見たそれと酷似している。
信二の宣戦布告に応じるように、創志は一歩前に踏み出すが、
「そうし」
ティトが服の裾を掴んだことで、その動きが中断される。
「どうした? ティト」
創志が尋ねると、銀髪の少女は何かをためらうように視線を彷徨わせていたが、
「……これ」
意を決したように右手を差し出してくる。
握られていたのは、2枚のカードだった。
「わたしも、そうしと一緒に戦いたい。役に立つかどうかはわからないけど……」
差しだされているカードは、ティトのものだろう。デッキに入れて使ってほしいということか。
「――使わせてもらうよ。サンキュな」
いまだ渡すことを迷っているような素振りのティトから、2枚のカードを取り上げる。
ティトは「あ……」と声を漏らしたが、創志が優しく頭を撫でると、うれしそうに顔をほころばせた。
少女が迷ったのは当然だ。どんなに強力なカードでも、デッキとの相性が悪ければ、歯車の回転を鈍らせる錆びになりかねない。
「リソナから預かったカードも入ってるから」
「そっか」
当の本人は、相変わらず神楽屋の背中で気持ちよさそうに寝ていた。
創志は受け取った2枚のカードを確認すると、迷うことなくデッキに投入する。
「創志」
代わりに何のカードをデッキアウトしようか考えていたところに、光坂が話しかけてきた。
「……何だよ」
思わず不機嫌な声が出る。これから信二とのデュエルだというのに、精神をかき乱されてはたまったものではない。
「そんなに警戒しないでくれよ。何、教え子に最後のアドバイスをしようかと思ってね」
「アドバイス……?」
訝しげな視線を向けた創志に対し、光坂が差しだしたものは――
辛さを押し殺して、心配をかけまいと無理して笑っていた。
デュエルをしている最中でも、その笑みは消えることがなかった。
しかし。
「デュエルだ。僕が勝ったら、レボリューションの活動停止は取り消してもらう」
今、創志の目の前に立つ少年は、自信に満ち溢れた瞳をぎらぎらと輝かせている。
しっかりと両の足で立つ信二の姿は、創志の記憶にはないものだ。
「信二……君は……」
「邪魔者は潰す。それがレビンさんの方針だったはずです。あの女も、今頃は海の藻屑でしょう」
光坂が口を開くと、続きを言わせないように早口でまくし立てる信二。彼の言う「あの女」が誰なのかは分からないが、今まで姿を見せなかったことと、レビンが言っていた「仕事ができた」というセリフから考えるに、誰かとデュエルをしていた可能性が高い。
「受けるよね? 兄さん」
口の端を釣り上げる信二の顔には、かつての儚さは無い。
創志は「ごめん」と断ってから胸の中のティトを引き離すと、信二に向き直る。
「……いいぜ。デュエルだ」
こうなることは覚悟していた。
「その代わり、俺が勝ったらレボリューションを抜けて一緒に帰るんだ」
――今の信二には、譲れないものがある。
信二は創志の弟だ。内に秘めた覚悟は、そう簡単に折れはしないだろう。
言葉は届かない。それならば、デュエルで分からせるしかない。それが創志なりの説得だった。
「条件を呑むよ。僕が負けることはあり得ないからね。覚えてる? 兄さん、僕にデュエルで勝てたことほとんどなかったよね」
「……2回くらいは勝った」
「100回以上やって、でしょ?」
ささやかな反論も、自信を漲らせた信二には届かない。
信二はくるりと身を翻し、創志に背を向けると、二、三歩距離を取る。
「子供扱いはもううんざりだ。分からせてあげるよ、兄さん……僕はもう1人で戦えるってことをね」
表情を見せないよう告げた信二の背中は、夢の中で見たそれと酷似している。
信二の宣戦布告に応じるように、創志は一歩前に踏み出すが、
「そうし」
ティトが服の裾を掴んだことで、その動きが中断される。
「どうした? ティト」
創志が尋ねると、銀髪の少女は何かをためらうように視線を彷徨わせていたが、
「……これ」
意を決したように右手を差し出してくる。
握られていたのは、2枚のカードだった。
「わたしも、そうしと一緒に戦いたい。役に立つかどうかはわからないけど……」
差しだされているカードは、ティトのものだろう。デッキに入れて使ってほしいということか。
「――使わせてもらうよ。サンキュな」
いまだ渡すことを迷っているような素振りのティトから、2枚のカードを取り上げる。
ティトは「あ……」と声を漏らしたが、創志が優しく頭を撫でると、うれしそうに顔をほころばせた。
少女が迷ったのは当然だ。どんなに強力なカードでも、デッキとの相性が悪ければ、歯車の回転を鈍らせる錆びになりかねない。
「リソナから預かったカードも入ってるから」
「そっか」
当の本人は、相変わらず神楽屋の背中で気持ちよさそうに寝ていた。
創志は受け取った2枚のカードを確認すると、迷うことなくデッキに投入する。
「創志」
代わりに何のカードをデッキアウトしようか考えていたところに、光坂が話しかけてきた。
「……何だよ」
思わず不機嫌な声が出る。これから信二とのデュエルだというのに、精神をかき乱されてはたまったものではない。
「そんなに警戒しないでくれよ。何、教え子に最後のアドバイスをしようかと思ってね」
「アドバイス……?」
訝しげな視線を向けた創志に対し、光坂が差しだしたものは――
「待たせたな」
「待ちくたびれたよ」
両者が声を発したのは、ほぼ同時だった。
悪魔が生みだした闇が消え去り、穏やかな波の音が響く前部甲板。
お互いにデュエルディスクを展開し、臨戦態勢を取る。
デッキ調整は終えた。後は、戦うだけ――
いや、勝つだけだ。
「皆本創志!」
創志の後方、少し離れた位置で、ティトをはじめとした仲間たちと光坂が、戦いの行く末を見守っている。レビンの意識は戻らないままだった。
その中で創志の名を呼んだのは、黒いコートを纏った青年――輝王正義だ。
創志が振り向くと、彼は神妙な面持ちで、
「……無理はするな」
芯の通った声で告げた。
「…………」
創志は無言で信二に向き直ると、首に巻かれた黒いチョーカーのスイッチを入れた。これで、創志はサイコデュエリストとしての力を発揮できる。
ジリッと脳髄を焼かれるような痛みが走る。
思わず顔をしかめるが、信二に悟られぬようすぐに平静を装う。
サイコデュエリストは、普通の人間では使わないはずの脳の回路を開いて能力を発揮する。
創志は、チョーカーから送られる電気信号で脳の回路を無理矢理開き、能力を得ている。
ここまでたどり着くために、幾多の戦いをくぐりぬけてきた創志の脳は、すでに限界に近い負荷がかかっていた。
――無理をすれば、後遺症が残る可能性があります。
このチョーカーを受け取る際に、セラが言っていた忠告が蘇る。
――それでも、ここで退くわけにはいかない。
あと少し。
あと少しで、ずっと追いかけてきた背中に手が届くのだ。
「……行くぜ! 信二ッ!」
「今度こそお別れだ。兄さん」
「待ちくたびれたよ」
両者が声を発したのは、ほぼ同時だった。
悪魔が生みだした闇が消え去り、穏やかな波の音が響く前部甲板。
お互いにデュエルディスクを展開し、臨戦態勢を取る。
デッキ調整は終えた。後は、戦うだけ――
いや、勝つだけだ。
「皆本創志!」
創志の後方、少し離れた位置で、ティトをはじめとした仲間たちと光坂が、戦いの行く末を見守っている。レビンの意識は戻らないままだった。
その中で創志の名を呼んだのは、黒いコートを纏った青年――輝王正義だ。
創志が振り向くと、彼は神妙な面持ちで、
「……無理はするな」
芯の通った声で告げた。
「…………」
創志は無言で信二に向き直ると、首に巻かれた黒いチョーカーのスイッチを入れた。これで、創志はサイコデュエリストとしての力を発揮できる。
ジリッと脳髄を焼かれるような痛みが走る。
思わず顔をしかめるが、信二に悟られぬようすぐに平静を装う。
サイコデュエリストは、普通の人間では使わないはずの脳の回路を開いて能力を発揮する。
創志は、チョーカーから送られる電気信号で脳の回路を無理矢理開き、能力を得ている。
ここまでたどり着くために、幾多の戦いをくぐりぬけてきた創志の脳は、すでに限界に近い負荷がかかっていた。
――無理をすれば、後遺症が残る可能性があります。
このチョーカーを受け取る際に、セラが言っていた忠告が蘇る。
――それでも、ここで退くわけにはいかない。
あと少し。
あと少しで、ずっと追いかけてきた背中に手が届くのだ。
「……行くぜ! 信二ッ!」
「今度こそお別れだ。兄さん」
「「――決闘!!」」
創志にとって、最後のデュエルが始まる。