にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage サイドS 6-7

「<ウィンドファーム・ジェネクス>には、便利な効果があったね。僕は手札を2枚墓地に送り、セットカード2枚を破壊する――フィール・ダウン!」
 創志の頭上に出現した渦巻く空気の塊が、小規模な竜巻を打ち下ろす。
 その竜巻に撃ち抜かれた伏せカードが、粉々に砕け散る。
「ぐっ……!」
「これで、創志を守る壁はなくなった。最も、その残った手札で何かできるなら話は別だけどね」
 光坂の浮かべる笑みは、どこまでも重さがない。
 あのときと、初めて会ったときと、デュエルを教わっていたときと、同じ笑顔だ。
 今まさに、教え子にトドメを刺そうとしているのに――その笑顔は変わらない。
「まずは<レアル・ジェネクス・クロキシアン>で攻撃。シャドウ・ディスパイア!」
 蒸気機関車の両腕から放たれた「影」が、創志の身体を縛り付ける。
「うっ……ぐ……ぐうっ……!」
 その攻撃が実体を持っていたことで、初めて光坂がサイコデュエリストだということを知る。
 まとわりついた影は、容赦なく創志の身体を締め付けてくるが――痛みはなかった。
 ただ、気持ち悪い。
 それ以外の言葉で表しようのない不快感が、全身を駆け巡る。
 自分の精神がガリガリと音を立てて削れていくような幻聴を感じる。

【創志LP4000→1500】

 実際に影がまとわりついていたのは1分にも満たなかっただろうが、攻撃が終わり、創志は永遠の呪縛から解き放たれたような疲労を感じていた。
 ゆえに、何も考えられない。
 デュエルの師である光坂の笑みの意味も。
 自分の弟である信二の冷たい視線の意味も。
 自らが召喚したモンスターの攻撃の意味も――
「<ウィンドファーム・ジェネクス>のダイレクトアタック。サイクロン・オーバードライブ」
 竜巻が、デスクや椅子をなぎ倒しながら迫る。
 光坂はサイコデュエリストだ。例え創志の召喚したモンスターであっても、攻撃を実体化させることができるのだろう。
 まともに受ければ、怪我だけでは済まないかもしれない。
 しかし、創志の足は一歩も動かなかった。
 直撃する。
 竜巻の勢いは衰えず、創志の体を巻き込みながら猛進する。
 刃のように研ぎ澄まされた風が、皮膚を切り刻んでいく。
 全身を衝撃が襲う。
 地面に倒れてから、自分が壁に叩きつけられたことが分かった。

【創志LP1500→0】




「君の出番はここまでだよ、創志。舞台から降りるんだ」
 視界がかすむ。
 言葉を発した人物――光坂の姿を見ることすら叶わない。
 自分のすぐ側を通り過ぎる足音が聞こえる。
「――」
 呼びかけることもできない。
 床にはカードがばらまかれていた。おそらく、壁に激突した衝撃で、ディスクから外れてしまったのだろう。
 その内の1枚――<ジェネクス・コントローラー>に、炎が燃え移る。
 チリチリと、ゆっくり焼かれていく、創志の相棒。
「――――!」
 それを止めようと右手を動かすが、小刻みに震えるだけで、<ジェネクス・コントローラー>を掴むことなどできなかった。

「やだよっ! そうし! 起きてよそうしっ!」

 悲痛な叫び声がかろうじて耳に届く。
 かすれてしまったその声の主は、ずっと創志のことを呼び続けてくれていたのだろう。
(――ごめんな、ティト)
 少女に答えることもできない。
 周囲の炎が勢いを増す。
 何もできなかった少年の意識は、そのまま闇へと落ちていった。












 倒れる創志の横を通り過ぎたとき、信二は小さな声で呟いた。

「さよなら、兄さん」